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ウサギたちの恋  作者: 708
10/16

漢字ドリル 前編

駄菓子だけに甘美のときを過ごしていたが、

ふと目の前に置かれた漢字ドリルの表紙が目に入った。


そう──夏休みの宿題にとって自分的にはもっとも厄介である

漢字ドリルの制覇である。


ページを埋め尽くす四角のマス。

薄く書かれた見本の上をなぞり、同じ漢字をひたすら書きつづけるという代物だ。


そもそも、なぜ"ドリル"という名称なのかはさておいて

何ゆえ何度も繰り返し書かなければならないのだろうか。


もちろん、漢字を覚えるために何度もやらせることが目的であるが正直面倒くさい。

自分は一目見れば容易に覚えることができるため、

子供だましみたいに何度も書かせることに何の意味があるんだろうと常日頃から思っていた。


そしてなんと言ってもパラパラとめくれるこの膨大なページ数である。

他の宿題は脳みそが疲れる、腕が疲れるのはこの漢字ドリルぐらいなんだろう。


とはいえ、与えられた課題はさっさと終わらせるという信念の元、

気合いを入れてページに折り目をつけると一ページ目に取り掛かった。


「うおおおおおおおおお!」


馬鹿の一つ覚えの如く、ひたすら同じ文字を繰り返し書き続ける。


覚えることが目的ではなく、ただドリルを埋めることだけに没頭する。

字の綺麗さなんてある程度読めればいいし、書き順なんて適当でいい。

今やワープロみたいな機械が文字を書く時代だし、自分の名前だけ綺麗に書ければ問題ないだろう。


1ページ目の「海」を終わらせると、2ページ目の「岩」に取り掛かった。

とにかく書けばいいということでまずは最初に「山」の部分をマスの上部に書きそれを繰り返す。

そして終われば次に「石」を書き、「岩」を完成させるという効率を重視した見事な戦法である。


こうして次々にマスを埋めていき──二時間が経過した。


「ふぅ・・・。ようやく半分終わった・・・。」


右手をブランブランさせながら、残りのページを数える。

このペースなら五時のチャイムが鳴る頃には終わるだろうという予測を立てたものの

気づくとハイペースで書き続けたせいもあり、

ロケットえんぴつの芯が丸くなっているのに気づく。


「あっちゃー、替えを持ってい来るの忘れちゃったな・・・。」


残りのソケットもほとんど芯が丸くなっているため、残弾数は0である。

芯がとがっていないとシャープな文字が書けなくなるのがイヤだったので

仕方なく、筆箱に残されたHBの鉛筆を使うため、鉛筆削りの置いてある受け付けに向かった。


「すみませんー、えんぴつ削りを借りまーす。」


「はい、どうぞー」と受付窓口の置くの事務所から声が聞こえると

手にもっていた鉛筆を鉛筆削りに突っ込んだ。


ビィーンという音と共にみるみるうちにえんぴつが飲み込まれていく。

家にある手動のやつとは違い、自動の鉛筆削りは非常に楽である。


予備の鉛筆もついでに削っておこうと、二本目を突っ込もうとしたとき

背中から声が聞こえた。


「ちょっと、大和ー。早くしてくれない?」


聞き覚えのある声というより、

夏休みに入ってからもこの声を聞くことになるとはなんと因果なことであろうか。


振り返ることもなく、無視をして三本目を突っ込む。

正直、三本目は削る必要がないのだが、まあ、嫌がらせの意味を込めておくとしよう。


こうして、せっかく快適な空間で優雅に宿題を終わらせる予定だったはず

聞きなれた声の主の登場で台無しになってしまった。


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