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第一章 第七話 真実

「気付いたらあそこにいたんだ。」


 薄暗い部屋の中、髪も薄くなりかけた中年の男が茶色のコートを着た中年の刑事に話した。中年の男の髪は薄く、真っ白になっており、顔にある、眉、髭なども真っ白でまるで浦島太郎が竜宮城から帰ってきたときみたいだ。


「う〜ん・・・それはいいとして、じゃあ何で鬼の文字を首に傷つけたんだ?」

 

 さっきの茶色のコートとは別の若いスーツの刑事が聞いた。中林は一度下を向き、考えるようにして、こう呟いた。


「確かに女の首に文字を彫った。だが、一人目だけはやっていない。俺はテレビで鬼の文字の話を聞いて、まるでお前は鬼だと決め付けられたみたいで・・・怖くなったんだ!止まらなかったんだ!俺は鬼なんかじゃない。鬼じゃないのに・・・」


 中林はそう言って頭を抱えて泣き叫んだ。二人の刑事はふーっと一つ溜め息をついた。部屋には中林の止めどない嗚咽だけが響いた。


・・・


「ふーん・・・ま、いっか。」


 僕はイヤホンを耳から外した。あの日、中林を隣町で見たのは偶然だった。何となく心にひっかかるもの、臭いがし、後ろをつけた。すると、中林が殺人を犯した。僕は、「あぁ、やっぱりな。」と思った。ある程度分かっていたものが心にあったからそんなには驚かなかった。だが、それではつまらなかった。そこで、中林が殺人を犯したときの顔”鬼”として彼を認めてあげようと思った。


 女の人の首に彫刻刀で字を彫るのは案外難しかった。血が吹き出るし、何より上手い字が書けなかったのが残念だが、読める字なのでよしとした。次の日、ニュースを見て僕はほほえんだ。


 中林を警察に突き出そうとは思わなかった。面白かったからだ。しかし、予想外に彼は殺人を続けた。しかも”鬼”という文字つきで。それにはさすがに驚いた。僕は彼に殺人を続けてもらおうと思った。僕の作り上げた鬼がどこまで育つかが楽しみだったからだ。


 しかし・・・やめた。桜井琴子。彼女の涙を見た僕は中林がひどく面白くない人間に思えたからだ。


 僕は空に向かい、一つ溜め息をついた。


(どうしたんだろうな。)


「おっはよ〜」


 不意に肩を思いっきり叩かれた。振り向くとそこには琴子がいた。


「ねぇねぇ、昨日のニュース見た?犯人捕まったね〜って中林じゃん!うわっ、こっわ〜。校門のところ、マスコミがすごいことになってるよ。でも・・・犯人が捕まってよかった。これで殺された人たちが少しは報われるね。」


 琴子はそう言って空を見上げた。綺麗なひとだ。僕はしばし、彼女の顔を見つめ、


「あぁ、よかったよ。」


 と、最高の笑顔と共に、返事を返した。



〜第一章 完〜

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