第一章 第六話 愛されるべき被殺人犯
中林はぼそぼそと呟いて僕の方を見た。
「俺は鬼だ。お前なんかに正体がばれてたまるか!!死ね!!」
中林はそう言ってナイフを振り上げた。僕はそれをいなして中林の後ろに立ち、ナイフを持つ右腕をねじりあげた。
「いてててっ」
中林は情けない声を上げて苦しそうな声を出した。ナイフは乾いた音を立て床に転がった。
「先生ぇ・・・。人って死ぬとどうなるか分かります?特に殺された人は・・・。知らないでしょうね。見せてあげますよ。」
僕はそう言って中林の耳元でささやいた。
「ほら、思い出してください。まずは一人目野宮加奈。今正面にいますよ。正面から心臓を一突きですか・・・。あぁ、胸から真っ赤な血がどばどば流れてますね。かわいそうに彼女、両手で胸を押さえても全然血が止まらないで焦ってますよ。ほら、血は赤いのに顔は青白くなってますよ。先生、彼女の顔見たでしょ?覚えてますよね。ほら、こっちを見てますよ。あぁ手を伸ばしてきた。『私の血を止めてください』だって。先生、どうします?」
中林は目の前を見るのが怖いのか左手で空をかき混ぜ、顔をぐるぐると動かし、奇妙な声を上げている。
「次は二人目田村理恵。おや?彼女はお腹をめった刺しですか?お腹が血だらけでぐしゃぐしゃですね。うわ、なんかお腹からでろーんとたれてますよ。『私の腸が落ちちゃった、拾って』だって。先生、拾ってあげてください。」
「やめろ、やめてくれ〜」
中林は目の前の光景に驚き、そして恐怖に怯えた。
「最後に、田上光。おや、彼女は自分で説明してくれるみたいですね。」
『返して・・・。みんなが可愛いって言ってくれた。彼氏が好きって言ってくれた。私のきれいな顔を返せ〜』
田上はそう言って中林に手を伸ばした。その顔にはナイフが突き刺さっており、そこから止めどない真っ赤な血が流れている。中林は恐怖のあまり声も枯れんばかりの叫びを上げて気を失った。
「・・・先生、自分がやった人たちでしょ?何を怯えているんですか。」
僕は倒れている中林に向かい、そう言い放った。