第一章 第三節 疑問と確信
次の日、さっそく琴子と二人で昨日取材した資料を元に校内用の新聞の作成に取り組んだ。現場の状況、そして遺族達の悲しみをテーマに殺人事件というものの恐ろしさ、そして実際に現場を見た僕達の気持ちなどを取り入れた。
僕達二人しかまともに活動している新聞部員がいないので全てを自分達で作り上げた。
「よしっ、でっきた〜!」
出来上がった新聞を掲げ、琴子が叫んだ。
「やっぱ天才、高宮がいると文章表現が上手くいくね。いい出来、いい出来。あとは顧問の中林に許可をもらって印刷してもらうだけ・・・」
部室の扉が急に開き、髪が薄くなりかけて地肌がうっすらといた頭が見えた。
顧問の中林だ。
「何を作っているんだ?ん?」
そう言って琴子の持っていた新聞を取り上げじっくりと見つめた。めがねを時おり、くいっとあげるその姿はとてもじゃないが人に好かれるものではない。
すると、急に中林は新聞を一気に引き裂いた。
「何するんですか!」
琴子が叫んだ。僕も思わず立ち上がった。が、それを制するように中林は新聞を放り投げた。そして、
「人の不幸をみんなに広めることなんてないだろう?君たちが逆の立場だったらどうする?そっとしておいてもらいたいだろう?君たちには人の不幸が分かる人間になってもらいたい。」
中林はそう言って部室を出て行った。琴子は破られた新聞をつかみ、
「ひどいよ・・・二人でこんなに頑張ったのに・・・。写真まで撮って文章も考えて何とか出来上がったのに・・・」
琴子は泣き続けた。僕は破られた新聞を拾い上げ、見つめた。それには第三の被害者『田上光』が殺害された現場の写真で、捜査員や制服警官がうじゃうじゃ写っているものだった。僕はそれを見て、口元が微笑んでしまった。
(なるほどね・・・。)
琴子はまたもや僕を見たらしく、
「こらっ、乙女が泣いてたら慰めんかい!」
と言ってフックをかました。