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第一章 第二節 現場百回

 放課後、琴子に連れられT市に向かう。T市は僕達が通う徳井高校の隣町。電車で20分くらいで着く距離だ。市、というよりは町といった方がいいのではないかと思うくらい田舎で、こんな街で殺人事件なんかが起きたから、T市は街始まって以来の大騒動だ。


「さて、T市に着いたわけですが・・・どうしようか?」


 自分からさそっておいてさっそく頼りない。


「とりあえず、遺体が見つかった現場に向かってみようか。


「そ、そうだね。ではでは、いっそげ〜」


〜その1、地下道〜


「え〜と、私の調べによると、ここが第一の殺人、『野宮加奈』さんが殺害された所ね」


 現場を見てみると一見して普通の道だ。とても殺人があったとは思えないほど閑散としている。二人で現場を歩くと、たくさんの花が飾られている一角があった。


「ここね。んっ?何か書いてある・・・」


  (加奈、やすらかに眠ってね。)


  (加奈ちゃん何で・・・)


  (犯人はきっと捕まるからね)


 たくさんの手紙が花と一緒においてあった。と同時にそれは、ここで人が死んだということを教えてくれるものであった。


「何だか・・・こんなとこで殺されて、可哀想だね。」


 琴子はそう言って花に向けて拝んだ。 


〜その2、神社〜


「ここが、二人目の現場かぁ・・・。」


 二人が立っているのは名もないような小さい神社だった。ここもやはり人っ子一人いないみたいで寂しさのみをそこに主張しているように見えた。

 

 ここにも先ほどと同じように花が手向けられているところを見つけた。先程の現場よりも花の数は少なく、手紙などはなく、コーラのペットボトルなどが置かれている。


「第二の被害者『田村理恵』さんは知り合いが少ない子だったのかな?」


 琴子がそうぼそっと言うと、後ろから、


「お知り合いの方ですか?」


 びっくりして振り向くとそこに、坊さんみたいな人がいた。


「いや、私達、新聞部・・・じゃなくって、そう、友達だったんです。ここで亡くなった理恵さんの。」


 琴子にしては上手い嘘だ。坊さんはすっかり信じこみ語りだした。


「そうですか・・・。いやぁそれは悲しいことでしょう。いや、先日ね、ここに母親が来られまして。それがもう見るに見られないくらい泣いていましてね。もう娘さんの名前を叫び続けて泣き崩れてましたよ。」


 琴子は下を向き、ちょっと泣きそうになっているみたいだ。僕はそれを見て、


「そうですか。僕らもそんなに深い付き合いではなかったのですが・・・。手厚いご加護をお願いします。」


 そう言うと、坊さんは祈りをささげてくれた。僕と琴子もそれに倣って手を合わせた。


〜その3、空き地〜


「ここが、今朝のニュースで見た三人目『田上光』さんの遺体発見現場ね。」


 現場を見るとさすがに昨日の今日ということでまだ捜査員の人たちが何かをしているようだった。この中を押し入っていくことはさすがに強引な琴子でも出来そうにないので少し離れたところで様子を伺う。


 二人でぼ〜っと見ていると、琴子が、


「ねぇ、高宮。何で人は殺人なんかするんだろうね。」

 

と言った。僕は、


「僕は殺人者ではないから分からないよ。」


と顔も見ずに答えた。


「私ね、テレビでニュースとか見るのが好きで、こんな事件があった、こんな事故があったって人に話すのが趣味だったんだ。それで新聞部に入ったんだけど・・・今日初めてこんなに近くで人が死んだ殺されたって話を聞いて、何だかすごい悪いことをしている気になっちゃったんだ。そっとしておいた方がいいんじゃないかって。私なんかが割り込んで行っちゃいけないんじゃないかって。」


 琴子はそう言って下を向いてしまった。かなりまいっているみたいだ。僕は彼女の肩を抱き、


「君はただの趣味でこの取材をしているのかい?違うだろ?君が取材をして出来上がった記事をみんなが読む。みんなはこの事件の怖さから周囲を気をつけるようになる。そして亡くなった人への気持ちから人が亡くなるということを考えるようになる。今の君のようにね。今日、君が思ったこと。みんなが求めているのは今の君なんだ。」


 僕はそう言って琴子の眼を見た。琴子は一瞬うるっとしたが、下を向きもう一度僕の目を見た時にはいつもの琴子に戻っていた。


「へへへ。高宮に慰められるなんてね。私ともあろうものが。うし、取材もすんだし、マック行って帰ろう!」


 琴子はそう言って、僕の腕を引っ張った。

 








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