第一章 第一節 始まりの始まり
「お願い・・・やめて・・・」
「顔を見られたからな。悪いけどあきらめてくれ」
男はナイフを振り上げた。ナイフが月に照らされ、輝きを増した、と同時に
「いやぁぁぁぁ〜!!!」
という女の叫び声が響いた。その瞬間、女は何も言わない物と化した。
「ちっ、やっちまったか。」
男はそう言ってつばを吐いた・・・その顔には女の血が飛び散って赤く染まり、まるで鬼そのものだった・・・。
・・・
「ねぇねぇ、知ってる?」
桜井琴子はそう言って僕の肩を叩いた。新聞部の部室の窓際に座り、そろそろ咲きそうな桜を見つめたまま僕は、
「いや、知らないな。」
そっけなく答えると、琴子は、
「まだ何も言ってないじゃ〜ん。ってかそれなら聞いてびっくりだよ。T市の連続女子高生殺人事件。昨日また被害者が出たんだって!これで三人目だよ。」
僕はようやく振り向いて彼女を見た。
「昨日?いや、知らなかったな。」
「徳井高校新聞部ともあろうものが・・・ちゃんとニュースくらい見てよね。」
ふくれっつらで僕を見つめる琴子。本気で怒っていない事は分かっている。
「ごめんごめん、で、どんな状況?」
笑顔で僕は質問をした。
「やっぱり出ましたよ、お兄さん。被害者の首筋に『鬼』の傷文字。犯人はやっぱり一人目二人目と同じ、"鬼"ですね。」
僕はそれを聞いて口元がゆるんだ。それを琴子に見られていたみたいで、
「おっ、興味をそそられたかい?徳井高校始まって以来の天才。高宮秀太君。」
「ん?まぁね。」
「ではでは一緒に取材に参ろうではないか。」
琴子はそう言って僕の腕を強引に引っ張っていった。
・・・確かに興味をそそられる事件だ。