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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その捌 遂に集合

 Z県立鮒津高校の養護教諭である笹翠ささみどり茉莉まりは、一方的にライバル視されている英語教師の津野原つのはら那菜世ななせの告げ口により、校長室に呼び出されていた。


「赤井君は確かの保健室に毎日のように来ていますが、私が呼んでいる訳ではありません」


 茉莉は嫌味が具現化したような教頭の顔を睨みつけて言い返した。


「なるほど、その生徒が頻繁に来ている事は認めるのですね?」


 教頭はニヤリとした。しかし、茉莉は怯まない。


「赤井君はクラスメートの一部にいじめられています。その事実をクラス担任の水森先生に訴えたそうですが、全く取り合ってもらえなかったと言っていました。だから彼は、そのいじめから逃れるために保健室に来るのです」


 茉莉の反論に教頭はギョッとした顔になり、校長を見た。校長は目が全く笑っていない微笑みを浮かべて茉莉を見ると、


「そのような事実は水森先生から報告を受けていませんね。その赤井という生徒の思い込み、あるいは嘘ではないですかね、笹翠先生?」


 茉莉は今度は校長を睨みつけて、


「赤井君から事情を聞いてください。そうすれば、彼の話が本当なのがわかります」


「そう思うのは、貴方がその生徒に特別な感情を持っているからではないですか?」


 ずっと黙っていた那菜世が目を細めて口を挟んだ。茉莉は那菜世に視線を移して、


「特別な感情?」


「そうです。教師と生徒の恋愛はあってはならない事ですわ、笹翠先生」


 ボブカットの髪を耳の後ろに掻き揚げながら、那菜世は語気を荒らげて言い返した。


「何をおっしゃっているのか、理解しかねます、津野原先生。赤井君と私が恋愛関係? そんな事はあり得ません」


 茉莉は身体全体を那菜世に向けて、射すくめるような目で彼女を見た。


 那菜世は茉莉の目の鋭さにビビったのか、視線を逸らした。


「いずれにしても、赤井君と私の間には教師と生徒以上のものは何もありません。失礼します」


 茉莉はスッとソファから立ち上がると、何か言いたそうな教頭を一睨みして黙らせ、校長に会釈すると、ポニーテールを揺らして校長室を出て行ってしまった。


「何ですか、あの態度は!?」


 茉莉が出て行ってから、教頭が立ち上がって毒づいた。那菜世は茉莉が出て行ったドアを睨みつけ、悔しそうに唇を噛み締めている。


「まあ、仕方ないですね。これといった証拠もない訳ですからね」


 校長はまたしても目が笑っていない微笑みを浮かべて言った。


 


 茉莉は携帯で時間を確認して、保健室へと急いだ。


(赤井君、二人に伝えてくれたのかな?)


 赤井真一が自分と同じく人見知りだと思っているので、それだけが心配だった。


「遅くなってごめんなさい」


 茉莉が保健室のドアを開けて中に入ると、奇妙なトライアングルができているのに気づいた。


 濃い顔の黒田パンサーは、部屋の隅に立っていた。


 そして、入口に一番近い位置にいたのは、真一。


 更に見覚えのないおかっぱ頭の前髪パッツン女子が、真一にやや近い位置で立ち止まっている。


(あの子が、村崎香織さん?)


 茉莉も、つい、香織のパンツ丸見えの写真を思い出してしまった。


(写真と印象が随分違うわね)


 すると真一が、


「こちらが一年五組の村崎香織さんです」


 何故か顔を赤らめて紹介してくれた。


 茉莉は真一の妙な感情の揺れに気づく事なく、


「初めまして。笹翠茉莉です」


 香織に近づいて挨拶をした。しかし、香織は、


「初めましてでもないんです、笹翠先生。私、何度か保健室に来ていますから」


「え? そうなんだ」


 その言葉に茉莉はバツが悪そうになり、


(この子、印象が薄いのよね。だから、全然覚えていない)


 自分に言い訳してしまった。


「大丈夫です、慣れてますから」


 だが、香織は気にしている様子はなかった。茉莉はますますバツが悪くなってしまった。


「黒田君よね? 覚えているかな? この前、廊下で声をかけたよね?」


 茉莉はパンサーに歩み寄って声をかけた。パンサーは茉莉が近づいたので身体をピクンとさせた。


「あ、は、はい、覚えています」


 後退あとずさりするパンサーに茉莉は少しだけ傷ついた。


(私が怖いの?)


 パンサーは誰に対してもそういう反応をするので、仕方がないのである。


 話を長くしていると、更に気まずい雰囲気になると判断した茉莉は、


「じゃあ、行きましょうか」


 無理に笑顔になって言った。


「え? 行くってどこへですか?」


 香織が茉莉を見てから真一を見た。パンサーも真一を見ている。真一は決まりが悪そうに茉莉を見た。


(もしかして、何も説明していないの、赤井君?)


 茉莉は項垂れそうになったが、それを押しつけたのは自分なので、真一を責める訳にもいかない。


「とにかく、ついて来て。詳しい事はそこにいる人に説明してもらうから」


 結局、茉莉も近所の怪しい存在である茶川さがわ博士ひろしに押しつけてしまうのだった。


「はい……」


 真一達は互いに顔を見合わせてから茉莉を見て、頷いた。


 


(今度は何をするつもりなの?)


 真一達を連れて校舎を出て行く茉莉を廊下の角からこっそり観察していた那菜世は不審感を募らせた。そして、尾行しようと考え、校舎を出た。


 校庭を抜けて外に出ると、茉莉達はまるでカルガモの親子のように一列縦隊で歩いていた。


(バカみたい)


 校門の陰から見ていた那菜世はその姿を嘲笑あざわらった。そして、更に尾行を続けようとした時、学校の脇の路地から真っ黒いワゴン車が出て来て停止した。


 茉莉がそのワゴン車の運転者と何かを話しているらしいが、声は聞こえず、運転者の姿も見えない。


「ああ!」


 そうこうしているうちに、茉莉達はそのワゴン車の乗り込み、ワゴン車はそのまま走り去ってしまった。


「何て事!」


 那菜世は周囲を見渡して、都合よく現れるタクシーを探したが、現実はそれ程甘くはなく、茉莉達を乗せたワゴン車を見失ってしまった。


(笹翠茉莉、貴女の企みは、私が必ず阻止してみせるわ!)


 那菜世は思い込みが激しい性格であった。


 


「イーヒッヒ。ちょうどよかったみたいだな」


 ワゴン車の運転手は「茶川トラウマ能力研究所(仮)」の所長である茶川博士だった。


 長い白髪が逆立っており、ヨレヨレの白衣を着ている老人を見て、真一も香織もパンサーも唖然としている。


「紹介するわ。この人が、あなた達に会いたがっていた、茶川トラウマ能力研究所(仮)の茶川博士よ」


 若干呆れ気味に紹介する茉莉である。

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