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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その陸 真一、奮闘する

 養護教諭の笹翠ささみどり茉莉まりは、英語教師の津野原つのはら那菜世ななせに妙な事を言われて戸惑っていたが、今はそれどころではないと思い直した。


(津野原先生の奇妙な言動は今に始まった事じゃないから、気にしても仕方ないわね)


 茉莉は那菜世の事を頭から追い出し、仕事に集中する事にした。


 那菜世が茉莉に嫉妬しているのを茉莉は全く気づいていない。


 いや、彼女は、男子生徒達の人気を那菜世と二分している事にも気づいていない。


 睡眠が何よりの趣味である茉莉にとって、男子生徒達は邪魔以外の何者でもないからだ。


(赤井君、大丈夫かな? もしかして、私と同じで、人見知り?)


 近所の変態と噂されている茶川さかわ博士ひろしの頼みで、三人の生徒を彼の住まいでもある「茶川トラウマ能力研究所(仮)」に連れて行く事になっている茉莉。


 その三人のうち、一人は保健室の常連である赤井真一。


 彼については、何の問題もなかった。学校で一番よく顔を合わせているし、話もしている仲だからだ。


 しかし、問題はあとの二人である。


 一人は、昨日、少しだけ話をした一年七組の黒田パンサー。


 見た目はハーフっぽいが、実は先祖を何代遡っても外国の血は入っていないこてこての日本人である。


 平べったい顔の両親の願望から名づけられた「パンサー」という突飛な名が、彼のその後の人生を決めてしまったのを茉莉は知らない。


 そして、もう一人は、話した事はもちろん、見かけた事すらない女子生徒。


 村崎香織。一年五組。


 もしかすると、廊下ですれ違った事くらいはあるかも知れないのだが、全く記憶の片隅にも存在していない。


 茉莉は人見知りだが、人間観察は好きで、顔を覚えるのも得意だと自負している。


 だが、それでも思い当たらないのだ。


自惚うぬぼれていたのかな?)


 茉莉は自分の記憶力を疑ってしまった。


 


 茉莉が保健室で仕事をしながら葛藤していた頃、赤井真一は隣の隣のクラスである一年五組の教室のドアの前に来ていた。


 一時間目が終わったばかりなので、ドアは開け放たれており、中が見通せる状態だった。


 だが、彼は決断しかねて、ドアの前でソワソワしながらキョロキョロしていた。


「何か用?」


 挙動不審そのものの動きをしている真一を訝しそうな目で見ていた一人の女子生徒が声をかけた。


 真一は呼吸困難になりそうなくらい驚き、飛び退いた。


「え、えっと、そのあの……」


 彼の狼狽ぶりに声をかけた女子生徒の方が驚いてしまった。


「そんなに慌てなくてもいいでしょ? 誰かに用なの?」


 真一は何とか気持ちを落ち着かせて、


「ええと、あの、その、む、む、村崎香織さんはいますか?」


 何とか用件を伝えられた。するとその女子生徒はあからさまに嫌な顔をして、


「ここにはいないわ。きっと、トイレでしょ?」


 そう言うと、ツイと顔を背け、自分の席の方にスタスタと歩いて行ってしまった。


「え? あの、ええと……」


 真一はどうしたらいいのかわからなくなり、他の生徒を見た。


 しかし、どの生徒も彼と視線を合わせてくれない。皆、背けてしまうのだ。


「はあ……」


 これ以上ここにいても仕方がないと考えた真一は、諦めて自分の教室に戻る事にした。


 


 真一が一年五組の教室の前で不審な行動をしていた頃、彼が探している村崎香織は、クラスの女子が言った通り、トイレにいた。


 彼女は用を足しに来たのではない。


 休み時間、嫌がらせを受けないために、個室にこもる習慣があるのだ。


 香織は便器の蓋を閉じたままで腰掛け、じっと時が過ぎるのを待っていた。


(もう大丈夫かな?)


 香織は長い習慣のお陰で、時計なしで時間がわかるようになっていた。


 彼女は意を決して個室を出ると、廊下へと歩を進めた。


「きゃっ!」


 その時、ちょうど歩いて来た真一と鉢合わせをした。


 香織が飛び出したのも原因だったが、俯いて歩いていた真一にも非はあった。


 勢いがあった香織が真一を跳ね飛ばす形となり、真一は尻餅を突いてしまった。


「だ、大丈夫ですか?」


 香織は慌ててしゃがみ込み、真一に声をかけた。


「あ、すみません……」


 真一は顔を上げて相手を見た。そして、ハッとした。


(あ、くまさんパンツの……)


 つい、そこから記憶が甦るのが男子である。そして同時に、香織の顔が間近にあるので、鼓動が激しくなった。


 香織は前髪パッツンのおかっぱ頭で、表情が暗いので男子には全く気にも留められていないが、実は目が大きくて可愛いのだ。


 真一はそれに気づいてしまい、心臓が壊れそうなくらいドキドキしていた。


 しかも、香織のパンチラ写真を見た後なので、尚更なのだ。


「どうしたんですか?」


 リアクションが意味不明な真一を不審に思い、香織は眉をひそめて尋ねた。


「ぼ、僕、一年三組の赤井真一って言います。あ、あの、もしかして、村崎香織さんですか?」


 真一は立ち上がって尋ね返した。香織も立ち上がり、


「そうですけど。私に何か用ですか?」


 いじめっ子には見えない真一に安心した香織は微笑んで言った。


「そのですね、笹翠先生から頼まれたんですけど、放課後、保健室に行って欲しいんです」


 真一が告げると、香織はまた首を傾げて、


「え? どういう事ですか?」


「詳しい事は笹翠先生に訊いてください。じゃあ、授業が始まるので、これで!」


 真一はこれ以上香織と話していると彼女を好きになってしまうと思い、廊下を駆け去った。


「ええ?」


 まだ理解が完全にできていない香織は、真一の後ろ姿を見ていたが、チャイムが鳴ったので、教室へと歩き始めた。


(赤井君か……。お友達になれそう……)


 香織は香織で、真一に自分と同じ何かを感じ、好感を抱いていた。


 真一は真一で、


(僕は笹翠先生一筋だ。ぶれないぞ!)


 相変わらず、バカな事を考えていた。


(あの子、一体どういうつもりなの?)


 それを廊下の端から見ていた那菜世は、真一への疑惑を更に深めていた。

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