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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その伍 勧誘開始

 前歯が差し歯の赤井真一がクラスメートの宿題を写し、スカートめくりにトラウマを抱えた村崎香織がクラスメートに怒鳴り、ハーフではないのにハーフみたいな名前をつけられ、いじめられている黒田パンサーが生徒会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこにポオッとしていた日の翌朝。


 Z県立鮒津高校の養護教諭である笹翠ささみどり茉莉まりは、見た目が変態過ぎる茶川さがわ博士ひろしという年齢不詳の変わり者に頼まれた事を一晩中考えていたため、酷い寝不足に陥りながら、出勤した。


(ふえー、寝不足だ。十時間しか眠れなかった)


 普段は乳児に負けないくらい睡眠を取る茉莉は、目の下に隈を作っていた。


 大学生の時にアルバイトの面接を受けた時、趣味の欄に「睡眠」と書き、特技の欄に「長時間眠る事」と書いて、不採用になった経験があるほどだ。


(赤井君は呼ばなくても必ずここに来るからいいとして、問題は村崎さんと黒田君ね)


 どちらかと言うと、人見知りの部類に入る茉莉は、村崎香織と黒田パンサーにどう接触するか、考えあぐねていた。


(そうだ、赤井君に連れて来させよう)


 茉莉は、赤井真一が自分以上の人見知りだと知らなかった。


 


 程なく、真一が保健室にやって来た。


 普段ならウンザリしてしまう茉莉だったが、今日は真一が来てくれた事が心の底から嬉しかったので、


「いらっしゃい、赤井君。コーヒー、飲むよね?」


 会心の笑顔で言った。


 真一は茉莉がいつもより接近して来たので、ドキドキしていた。


(ああ、笹翠先生……)


 ポオッとしてしまう真一である。


「待ってたのよ、貴方を」


 手を引かれて椅子に座らされたので、真一は告白されるのではないかととんでもない勘違いの航海に出そうになっていた。


「実はさ、放課後、一緒に行って欲しいところがあるの」


 笑顔の茉莉がそう言ったので、真一の勘違いの航海は一気に沖に出てしまった。


(え? まさか、婚姻届を出しに行くの? 僕はまだ結婚できないけど……)


 止め処ないバカである。


 茉莉は、真一が式は教会でとか酷い妄想を始めている事など知る事もなく、


「それから、他に二人一緒に連れて行きたい人がいるの」


 その一言で、真一の航海は座礁してしまった。


「え?」


 余命を宣告されたような顔になった真一の変化に茉莉は気づかず、


「この二人なんだけど、知ってる?」


 村崎香織と黒田パンサーの写真を見せた。


 真一は、くまさんパンツが丸見えになっている香織の写真を見て、目を見開いた。


「あ!」


 茉莉もそれに気づき、慌ててパンツの部分をパンサーの写真で隠した。


 見ようによっては、パンサーが香織に迫っているようである。


「いえ、知りません。このハーフの子は見た事があるような気はしますけど」


 確かにパンサーの顔は一度見たら忘れられないと茉莉も思った。


「女子の方は、村崎香織さん。一年五組よ。男子の方は黒田パンサー君。一年七組」


 茉莉は昨晩、生徒名簿で調べた成果を発表した。


「ちなみに、黒田君はハーフではないの。見た目は濃いけど」


 茉莉が言い添えると、真一は思わずパンサーの写真を二度見した。


 茉莉は真一にカップに注いだコーヒーを渡すと、


「行き先は町外れにある茶川トラウマ能力研究所(仮)よ」


「は?」


 真一は会心の間抜け面で茉莉を見た。


 茉莉は真一が意味不明の回廊に迷い込んでいると感じ、


「とにかく、今日、一緒に行って欲しいの。お願い、赤井君!」


 彼の両手を包み込むようにして握りしめた。


「はい、行きます!」


 真一は顔を真っ赤にして応じた。茉莉はホッとして、


「じゃあ、村崎さんと黒田君に話をしてね」


 真一の顔が引きつり、


「え? 僕が、ですか?」


 捨て犬のような目で茉莉を見つめる。


 茉莉はビクッとして、


「ダメ、かな?」


 小首を傾げて念を押すように尋ねた。


「だ、だ、大丈夫です! 笹翠先生のために、頑張ります!」


 真一は茉莉の両手を握り返した。


 茉莉は嫌な汗を掻いて、無理に微笑み、


「そ、そう。ありがとう。嬉しいわ、赤井君」


 心の中では、


(早くその手を放せ、エロガキ!)


 真一に罵声を浴びせていたが。


 やがて、一時間目の授業が終わり、真一はいつものようにクラスメートの宿題を移し終えると、保健室を出て行った。


 茉莉はフウッと溜息を吐き、椅子にどかっと腰を下ろした。すると、ドアがノックされた。


「どうぞ」


 真一が戻って来たのかと思ったが、入って来たのは、英語教師の津野原つのはら那菜世ななせだった。


「あ、津野原先生」


 茉莉は那菜世が自分の事をライバル視しているのを知らないので、立ち上がって微笑んだ。


 しかし、那菜世はニコリともせずに、


「笹翠先生、問題ですね」


 そう言って詰め寄って来た。


「はあ?」


 意味がわからない茉莉は首を傾げた。那菜世はその動作にカチンと来たのか、更に間合いを詰めて、


「一人の男子生徒を頻繁に保健室に呼び込むのは問題だと申しているのですよ!」


 茉莉はその迫力に気圧され、後退あとずさってしまった。


「この件は、次の職員会議で議題にさせていただきますから、そのおつもりで!」


 那菜世はそう言い放つと、ドアを勢いよく閉めて、立ち去ってしまった。


「何なのよ、あのひと?」


 茉莉には那菜世の言い分が全く理解できなかった。

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