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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その肆 正義の系譜

 前歯が差し歯の赤井真一がクラスメートの宿題を写し、スカートめくりにトラウマを抱えた村崎香織がクラスメートに怒鳴り、ハーフではないのにハーフみたいな名前をつけられ、いじめられている黒田パンサーが生徒会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこにポオッとしていた日の夜。


 Z県立鮒津高校から遠く離れた郊外の一角にひっそりと建つログハウス。その玄関には汚い字で、


茶川さがわトラウマ能力研究所(仮)」


 そう書かれた木の板が下げられている。


「イーヒッヒ」


 中からは、不気味な男の笑い声が聞こえている。


「笑い事じゃありません、茶川博士! 明野明星美奈子は鮒津高校史上最悪の生徒会長になろうとしています! 何とかしないと、学校が彼女の思うがままになってしまいます!」


 若い女の声が響いた。


「すまんな、茉莉君。これはわしの口癖でな。笑った訳ではないのだよ、イーヒッヒ」


 ログハウスの中には、鮒津高校の養護教諭である笹翠ささみどり茉莉まりと長い白髪が逆立っており、ヨレヨレの白衣を着ている老人がいた。白衣の丈が長いので、その下に何も着ていないように見えるが、グレーのハーフパンツを履いている。素足にサンダル履きなので、余計変態に見える。


「それから、わしは博士はかせではない。もちろん、博士はくしでもない。博士ひろしなのじゃ。何の資格ももっとらんからな。イーヒッヒ」


 いちいち笑い声を最後に付ける茶川を、茉莉は半目で見た。


(もしかして、本当は只の変態なのかしら?)


 少しだけ身の危険を感じる茉莉だが、いざとなったら、通信教育で勉強中の空手で倒そうと思った。


「もちろん、わしもその女の素性は知っている。Z県ばかりではなく、日本全体の経済を左右すると言われている豊本とよほん自動車の創業者一族の一人だという事もな。イーヒッヒ」


 茶川は真顔で笑い声を添えると、茉莉を見た。茉莉は思わず一歩退いた。


(絶対変態なんだわ、このジジイ……)


 嫌な汗が背中全体に伝わるのを感じる茉莉である。


「連中の目的は、日本の社会の格差の更なる拡大。貧乏人はパンの耳だけを食え。それが連中のお題目だ。イーヒッヒ」


 更に真顔で続ける茶川に顔を引きつらせる茉莉であった。


 その時突然、茶川がズンと茉莉に近づいた。茉莉は恐怖のあまり、固まってしまった。


「わしが長年研究して来たトラウマ能力をエネルギーにして戦う正義のヒーローとなる者達を遂に見つけたのじゃよ! イーヒッヒ」


「そ、それはよかったですね……」


 同意しないといけないと思う空気を感じ、茉莉は言った。


「そこでじゃ! わしの一番弟子である君にその者達をここへ連れて来るという指令を発する。イーヒッヒ」


 茶川のぶっ飛んだ話の展開に、茉莉は、


「はあ!? 誰が一番弟子ですって!? 指令って随分上から言ってくれますね!?」


 つい、昔の癖が出て、凄んだ顔で反応した。


「いや、その、何だ、指令というのは言葉のあやでな、そんな強い感じではないのであって……」


 茶川は茉莉の形相にチビりそうになったらしく、足をクネクネさせ、言い訳に終始した。


「最後に口癖言うの、忘れてますよ、茶川博士」


 茉莉は目を細めて茶川を見た。


「イーヒッヒ。そうだったかの、イーヒッヒ」


 茶川は苦笑いをして、埋め合わせのように言葉の前後に言った。


(私は何故こんなジジイに相談してしまったのだろうか?)


 今更ながら、そこを悔やむ茉莉であった。


「君に頼みたいのには、理由があるのじゃよ。イーヒッヒ」


 茶川は懲りずに話を続けた。茉莉は呆れながら腕組みをし、老人を見た。


「理由? 何ですか?」


 茶川はニヤリとして、


「その者達が、鮒津高校にいるからじゃよ」


「ええ!?」


 茉莉は自分のリアクションが必要以上に大きかったような気がして、顔を赤らめた。


「この三人じゃ。この三人をここへ連れて来て欲しいのじゃよ。イーヒッヒ」


 茶川が茉莉に差し出したのは、三枚の写真だった。


「これは……」


 その中の二人を茉莉は知っていた。一人は赤井真一。保健室の常連だ。そして、もう一人は黒田パンサー。嫌でも目につくくどい顔の生徒。


 茉莉はパンサーが美奈子に取り込まれるのを目撃した。そして、最後の一枚を見た茉莉は、


「この子の写真は、一体どこで撮影したのですか、博士!?」


 再び凄んだ顔で詰め寄った。茶川はビクンと身体を飛び退かせ、


「いや、それは偶然じゃよ。つけ回して何度も撮影していたうちのお気に入りの一枚という訳ではなくてじゃな……」


 笑い声を最後に付けるのを忘れる程気が動転していた。


(付け回したのか……)


 茉莉は半目になった。そして、もう一度写真を見る。それは、村崎香織が幼稚園児にスカートをめくられた瞬間を捉えたものだった。


 くまさんパンツもしっかり写っている。


「わかりました。この三人に話をして、ここへ連れて来ます。でも、それはあくまでも自由意志の下でですよ。強制はできませんからね」


 茉莉は写真を肩にかけていたバッグに入れて告げた。茶川は残念そうな顔で、


「え? その写真、持ってっちゃうの? イーヒッヒ」


「何か言いましたか、博士?」


 茉莉の目がギラッと光るのを見て取った茶川は、


「いえ、何でもありません、イーヒッヒ」


 チビってしまったらしく、股間を押さえて言った。


「全く……」


 茉莉はフウッと溜息を吐き、茶川を見た。


「それで、トラウマ能力って、一体どういうものなんですか?」


 茉莉はログハウスを出ながら、最後の質問をした。すると茶川は、


「それは、秘密じゃ。どこで誰が聞いているかわからんのでな。イーヒッヒ」


 茉莉は茶川の笑みに身震いした。


(このジジイ、いつか事件を起こすんじゃないの?)


 今のうちに警察に通報した方がいいのかも知れないと思ってしまった茉莉である。


「茉莉君、頼んだぞ。君の行動には、日本の将来が懸かっているのだからな。イーヒッヒ」


 妙なプレッシャーをかけて来る茶川を最後に一睨みしてビビらせてから、


「失礼します」


 茉莉は「茶川トラウマ能力研究所(仮)」を出た。


(昔から、よく遊んでくれた人だから、ついついいろいろ相談しちゃっているけど、大丈夫なのかな?)


 茉莉は一人暮らしをしているアパートへと帰る道すがら、茶川の事を考えた。


 小さい頃から友達が少なかった茉莉は、自分の話を聞いてくれる茶川の事をしたって、よくログハウスを訪れていた。


(そう言えば、あの頃から博士は白髪だったけど、実際の年齢は幾つなのかしら?)


 幼稚園に通っていた頃に茶川に最初に出会ったのだが、その時から茶川の風貌は同じなのだ。


(もしかして、妖怪?)


 夜道でそんな事を想像し、怖くなってしまった茉莉は、走って家路を急いだ。

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