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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その肆拾参 真の敵

 驚異的に強い生徒会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこに何とか打ち勝ったヤンキー戦隊。


 しかし、当のヤンキーパンサーこと黒田パンサーはパニックに陥っていた。


(生徒会長にき、キスしてしまったああ! 訴えられたら、とんでもない賠償金を請求されてしまう!)


 パンサーは家族が路頭に迷う様を妄想し、前途に絶望していた。


「明野明星さんには怪我はないみたいね」


 傷が回復したので、ヤンキーグリーンの変身を解除した養護教諭の笹翠ささみどり茉莉まりが告げたが、パンサーには聞こえていなかった。


「それにしても、生徒会長はどうしてあんなに強いのでしょうか? 私たちのようにスーツを着ている様子はないですけど」


 同じく変身を解除したヤンキーパープルこと村崎香織が茉莉に尋ねた。


「私にもわからないわ。でも、何か理由があるはずよ。そして、恐らく、あのジジイが知っていると思うわ」


 気絶したままの美奈子を木に寄りかからせた茉莉が香織を見て応じた。そして、ヤンキー戦隊の生みの親の茶川さがわ博士ひろしの気持ち悪い笑い顔を思い出して、身震いした。


「待て待て、ここからはこのヤンキーレッドが相手だ!」


 相変わらずのマヌケっぷりを晒しながら、保健室の壊れた窓から飛び出してきた赤井真一は、白い目で見ている茉莉と香織、そして、気を失っている美奈子、更には苦悩しているパンサーを見てキョトンとした。


「あれ? 生徒会長は疲れて眠ってしまったの?」


 真一はバツの悪さを隠すため、苦笑いして香織に尋ねた。そのせいか、自慢のリーゼントはすっかり縮こまっていたが。


「ええ。黒田君が倒したわ」


 何故か顔を赤らめて告げる香織の様子に気づきもしない真一であるが、


「そうか、それは残念。黒田君が生徒会長に勝てたのは、僕がダメージを与えておいたからだという事は、黒田君には内緒にしてね」


 最後まで空回りの大言壮語をかました。香織は半目になって真一を見た。


(黒田君がどうやって生徒会長を倒したのか知ったら、赤井君、卒倒しそうね)


 そう思いながらも、パンサーと美奈子のキスを思い起こして、香織は頬を紅潮させた。


「う……」


 その時、美奈子が呻き声を出し、薄っすらと目を開いた。


「あ、気がついた、明野明星さん?」

 

 茉莉が視線を巡らし、片膝を着いて美奈子の顔を覗き込んだ。


「え?」


 パンサーは美奈子が意識を取り戻したのを知ると、慌てて変身を解除し、サッと美奈子の前に駆け寄ると、


「申し訳ありませんでした!」


 今年一番と後に言われた程の見事な土下座をした。茉莉は香織と顔を見合わせてしまったが、真一にはパンサーの土下座の理由がわからず、ますます置いてきぼり感を募らせた。


「黒田君、危ない! 離れて!」


 美奈子がパンサーを見たのに気づき、真一は二人の間に割って入った。


(笹翠先生も香織さんも黒田君も変身を解除してしまっているから、僕が戦わないと!)


 自分自身では、呆気なく美奈子に叩きのめされたのを理解している真一は、今度こそリベンジマッチだと考えていた。


「私、殿方からキスをされた事がありませんでした」


 美奈子はスッと立ち上がり、土下座したままのパンサーを見下ろした。


「ひいい!」


 変身を解除したパンサーには美奈子の言葉は恐ろし過ぎ、震えが止まらなくなっている。


「黒田君!」


 土下座したまま気絶ししそうなパンサーを見て逃げるように促す真一だったが、パンサーが全く動く気配がないので、


「このヤンキーレッドが相手だ!」


 一歩前に踏み出して見栄を切った。ところが、


「邪魔しないで!」


 美奈子の鋭い一睨みに気圧され、固まってしまった。


(まずい! 明野明星さん、まだ戦えるの?)


 茉莉と香織はハッとしてもう一度変身しようとしたが、美奈子が微笑むのを見てまた顔を見合わせた。


「どういう事?」


「さあ……」


 美奈子は真一を押しのけて、土下座のまま震えているパンサーの前に両膝を着いて、


「顔をあげてください。貴方には責任を取ってもらいますから」


 そう告げると、パンサーの手を取った。


「え?」


 まだ震えたままのパンサーは何が何だかわからないという表情で天使のような微笑みを浮かべている美奈子を見た。


「わ……」


 今まで、女子に手を握られた事がないどころか、間近で話をした事もないパンサーは、まさに卒倒しそうだった。


(せ、生徒会長に手を握られているう! それに顔が近過ぎるう!)


 美奈子はパンサーの心の中の葛藤など気づく様子もなく、


「責任、取ってくれますよね?」


 その念押しの言葉にパンサーはハッとした。


(責任!? 損害賠償!? 一体いくらになるのおおお!?)


 天文学的数字を請求されると思ったパンサーは、思わず涙ぐんだ。


「ぼ、僕にできる事なのでしょうか?」


 恐る恐るパンサーは美奈子に質問した。すると美奈子はニコッとして、


「ええ、できますわ。貴方次第ですから」


 パンサーはそれを聞いて、


(よかった、それほど巨額ではないようだ)


 安心したのか、微笑み返した。美奈子はパンサーの手をギュッと握りしめ、


「私は初めてキスをしてくれた方と結婚する事にしていましたの」


 その衝撃的な発言に、パンサーは意識が飛び、茉莉と香織は呆然としてしまった。


 只一人、真一だけが、ビビったせいで、全く聞いていなかった。


「ですから、責任を取って、私と結婚してください」


 頬を朱に染めた美奈子はまさに美の女神の如く美しかったのだが、意識が飛んでしまったパンサーには彼女の姿は見えていなかった。


 


 その頃、明野明星邸にある美奈子の姉の美祢子みねこの部屋には、明野明星家の影である宵野明星よいのみょうじょう家の宵野明星治がいた。


「妹が敵の軍門に下ってしまったようです。貴方が始末をつけてきてくださいな、治さん」


 黒革張りのソファにゆったりと腰をかけた美祢子が言った。


「はい、美祢子様」


 美祢子の前に直立不動の体勢で立っている治は無表情な顔で応じた。美祢子はそんな治を見上げると、


「いくら貴方の昔の恋人であろうと、邪魔するようなら、叩きのめしなさいね、治さん」


 嫌らしい笑みを浮かべて言い添えた。


「もちろんです、美祢子様」

 

 治は美祢子を見ずに部屋の壁に掛けられた風景画を見たままで応じた。


(明野明星家に逆らった者がどうなるか、思い知るがいいわ、愚か者共が)


 美祢子は狡猾な笑みを浮かべ、脚を組み替えた。


 


 他方、明野明星邸の地下牢に監禁されたままの茶川は、美奈子の敗北を知っていた。


「やはり、黒田君が倒したのか。イーヒッヒ。美奈子君の強さの秘密は、私が知っているよ、茉莉君。イーヒッヒ」


 真顔で呟く茶川は、茉莉の想像通り、薄気味悪かった。

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