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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その参拾玖 果てしなき戦い

 謎めいた言葉を吐いたヤンキー戦隊の生みの親である茶川さがわ博士ひろし。それを盗聴器を使って聴いていたのは、明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこであった。


(そういう事だったのね)


 美奈子はニヤリとして立ち上がると、生徒会役員室を出て行った。


(矢野先生が何故生徒会の顧問だったのか、ようやくわかりましたわ。そして何故、歴代の生徒会役員達が矢野先生に従っていたのかもね)


 美奈子はギリッと歯噛みして、廊下の先を睨み据えた。


(矢野先生の背後にいるのが誰なのかもわかりましたし。我が敵はあの妙な不良おバカさん達ではないという事です)


 美奈子はその身体から闘気を沸き立たせ、大股で進んだ。


 


 幾人かの生徒や教師達が、保健室で何かが起こっているのに気づいていた。しかし、彼らが現場に向かうより早く、美奈子の指示で動き出した生徒会の役員達がその行く手を阻んでいた。


「これより先に行く事はこ遠慮願います。全て我ら生徒会の指示に従ってください」


 副会長の二東にとうはやてが教頭以下、五人の教師達を止めて告げた。


「何を言っているんだ、二東君? 教師に向かってその言い方はおかしいとは思わないのか?」


 いきり立った教頭が声を荒らげて反論したが、二東はフッと笑って、


「これは生徒会長である明野明星美奈子さんの指示です」


 その名を聞き、教頭達は一様に顔色を変えた。彼らがたじろいだのを見て取ると、


「さあ、あなた達にはそれぞれ職務があるでしょう? お戻りください」


 二東は得意満面の顔で告げた。教頭達は拳を握りしめ、歯ぎしりをしたが、美奈子の名を出されては何も言い返す事ができない。きびすを返して引き上げるしかなかった。


 同じように、保健室に向かおうとしていた生徒達も、他の役員達に止められていた。そして、同様に美奈子の名を出され、何も反論する事なく、すごすごと引き下がったのだった。


 


 そして、その保健室では、ヤンキーレッドこと赤井真一の猛攻が続けられていた。すでに彼の拳は数百発は矢野新の顔に叩き込まれていた。


 矢野は意識がないのか、全く反応する事がない。それでも真一のラッシュは止まらない。


「痛かったんだぞお! もの凄く痛かったんだぞお!」


 意味不明の雄叫びをあげながら、真一は矢野の顔面を殴りつけた。


(赤井君、もうやめた方がいいかも……)


 ヤンキーグリーンこと笹翠ささみどり茉莉まりは、養護教諭としての立場から、矢野の生命の危険を感じ、そう思った。


 思いはしたのだが、声に出して言う決心がつかない。先程、ヤンキーパープルこと村崎香織が矢野を失神させた時も、矢野は泡を吹いて気絶したのだが、すぐに意識を取り戻し、香織に反撃したからだ。


(矢野のタフさは人間離れしている。一体どういう事なのかしら?)


 まさか、自分達と同じく特別なスーツを矢野が身につけているとは夢にも思わない茉莉である。


「赤井君、もうやめて! 矢野先生が死んでしまうわ!」


 香織が我慢できなくなったのか、大声で叫んだ。真一は愛しい香織の声に我に返ったのか、矢野を殴るのをやめ、立ち上がって振り返った。


 真一の拳からは、矢野の血と思われる赤いものが滴り落ちていた。それを見て、香織は息を呑んだ。


「了解、ヤンキーパープル」


 そう言ってニコッとした真一の前歯は奇麗に治っていた。香織はホッとして微笑み返し、


「矢野先生を縛りましょう。また起き上がる前に……」


 そこまで言いかけた時、また息を呑んでしまった。矢野がその瞬間、起き上がっているのを見たからだ。


「やってくれたな、クソガキが!」

 

 異変に気づいた真一が振り返るよりも早く、矢野が突進し、ボディアタックで彼を吹き飛ばしていた。


「ぐはっ!」


 真一は背中を攻撃され、そのまま香織に向かって飛ばされて来た。


「え?」


 香織はかわす間もなく真一に激突され、二人で反対側の壁に叩きつけられてしまった。


「リーダー、ヤンキーパープル!」


 回復が進んだヤンキーパンサーこと黒田パンサーは、ハッとして叫んだ。


(みんな殺されちゃうよおお!)


 パンサーは恐怖のあまりパニックになりかけた。


「てめええ!」


 ビビりが極限に達してしまったパンサーは、トラウマエネルギーが振り切れた。


「ほお、もう回復したのか、ビビりの黒田? お前如きが私に刃向かうとは、片腹痛くて仕方がないぞ」


 矢野は余裕の表情でパンサーを見て、あざ笑った。しかし、パンサーの身体が輝き出したので眉をひそめた。


(こいつも赤井と同じ現象が起こっているのか? 一体あの輝きは何だ? 茶川め、何を開発したのだ?)


 矢野は茶川が真一達に渡したと思われるスーツが自分がもらったものより進化していると考えた。


「ならば、その力が発現する前に砕き散らすのみだ!」


 矢野はパンサーにボディアタックを見舞った。


「ヤンキーパンサー!」


 真一と香織の様子を見に行こうとしていた茉莉が振り返って叫んだ。


「トロ過ぎだぜ、おっさん!」


 パンサーは目にも止まらぬ速さでそれをかわした。矢野のボディアタックは不発に終わり、彼は壁の間際で踏み止まった。


「おのれ!」


 矢野は嘲笑するパンサーに再び突進した。


「無駄だっつってんだろ、おっさん!」


 パンサーはまた素早くそれをかわし、中指を突き立てて挑発した。


「許さん!」


 矢野は目を血走らせ、鼻息を荒くしてもう一度パンサーに突進した。


「あらよっと!」

 

 今度はパンサーは突進してきた矢野の頭に両手を着き、跳び箱のようにしてその上を滑空した。


「うおおお!」


 バーコードのような髪を乱された矢野は慌てて櫛を取り出すと、ササッと整えた。するとそれを見たパンサーが、


「おうおう、残り少ない髪の毛を乱しちまってすまなかったな、三段腹のハゲ先公!」


 ゲラゲラ腹を抱えて言い放った。


「ギャヒ!」


 すると、奇妙な叫び声をあげて、矢野がバタンと床に倒れてしまった。


「あん? 死んだふりか、ハゲ? そんな昭和みたいなつまらねえギャグ、誰も笑わねえぞ」


 更に汚い言葉で罵るパンサーであった。


 


 矢野が倒れたのを感じたのか、明野明星邸の地下牢にいる茶川はニヤリとした。


(やはり、君が倒したか、黒田君。イーヒッヒ。矢野の唯一のウイークポイントは、メンタルなのじゃ。イーヒッヒ。奴のスーツは超回復と超防御と超高速が可能だが、精神面は何も保護してくれんのじゃよ。イーヒッヒ)


 驚天動地の真相を心の中で明かす茶川であった。

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