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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その参拾伍 保健室の死闘

 ヤンキーグリーンこと笹翠ささみどり茉莉まりの渾身の右回し蹴りを受けても、涼しい顔をしている数学教師の矢野やのあらた


 茉莉、そしてヤンキーパープルに変身した村崎むらさき香織かおりは唖然としてしまっている。


「その程度の攻撃で、裏生徒会に挑むとは、低能だね。いや、命知らずと言った方が正しいのかな?」


 矢野はバーコードハゲで三段腹。どう見ても、戦いが苦手そうである。


(もしかして、痩せ我慢? いや、さっきの蹴りは痩せ我慢できるような強さじゃない)


 茉莉は嫌な汗を尋常ではない程掻きながら、矢野を観察した。


「どうしたのかね、笹翠先生? 私に自分の攻撃が通用しないのが信じられないのかね?」


 矢野は不敵な笑みを浮かべて、茉莉を見た。茉莉は背筋がゾッとしてしまい、更に後退した。


「ならば!」


 香織が動いた。彼女は、矢野が服の下に何か仕込んでいて、茉莉の蹴りを無効にしたのではないかと推理し、容赦なく右のハイキックを矢野の左顔面に見舞った。


 矢野は防御の体制もとらず、回避する事もなく、まともに香織の蹴りを左顔面に食らった。


(今度こそ!)


 香織と茉莉はほぼ同時に同じ事を思った。しかし、


「だから、その程度では私には効果はないよ、村崎香織君」


 先程と同様に、矢野は微動だにせず、あまつさえ香織を見てニヤリとしていた。


「ひっ!」


 香織は思わず呻き声を上げて飛び退いた。


「あんた、何者なの!?」


 茉莉が香織をかばうようにして立ち、怒鳴った。


「はあ? 私は県立鮒津高等学校の数学教師、矢野新だが?」


 矢野は茉莉をあざけるような顔をし、乱れた紺のストライプ柄のスーツの襟を直しながら応じた。


「見て、村崎さん。奴の顔面、全く傷つていない。痛みを感じていないだけなら、蹴られた衝撃で皮膚が裂けて血が出るか内出血して変色するはず……。そのどちらも起こらないという事は……?」


 茉莉は香織を抱きかかえるようにしてジリジリと後退した。


「はい……」


 香織も矢野の異様さに気づいていた。


(蹴りにえたばかりではなく、よろける事もなかった。この人は一体……?)


「もう攻撃はおしまいか? ならば、私から仕掛けるが、いいかね?」


 矢野はそう言い放つと、いきなり二人の目の前まで踏み込んできた。


「くっ!」


 茉莉と香織は辛うじて矢野の突然のボディアタックをかわした。


「素早いね」


 矢野がフッと笑って呟いた次の瞬間、その向こうにあった茉莉の机が粉微塵に砕け散った。


 茉莉と香織は目を見開いた。


(奴が触れてもいないのに、机が破壊された? どういう事なの?)


 茉莉は何が何だかわからなくなりそうだった。


「ぐう……」


 香織も同じだったが、茉莉よりかわすのが遅れたせいか、左肩に激痛が走った。


「そんなバカな……」


 香織は痛みのあまり、左膝を床に着いてしまった。


「村崎さん!」


 茉莉が香織を助けに行こうとすると、


「はあ!」


 方向転換した矢野が茉莉にボディアタックを見舞ってきた。


「ぐはっ!」


 無防備の状態でそれを受けてしまった茉莉は、部屋の反対側まで吹っ飛ばされ、ベッド諸共壁に叩きつけられた。


「弱いよ、弱過ぎる。がっかりだよ、笹翠先生、村崎君」


 矢野は肩を竦め、二人を軽蔑の眼差しで見た。


「先生……」


 香織は左肩を右手で抑えて、壁からずり落ちて仰向けに倒れたままの茉莉を見た。


「ぼんやりしているんじゃないよ!」


 次に矢野は立ち上がる事もできずにいる香織にボディアタックを見舞った。


「きゃあ!」


 香織は激突寸前に両手でガードをしたので、多少は衝撃を減少できたのか、茉莉程は跳ね飛ばされず、床を転がっただけですんだ。


 だが、最初の攻撃でダメージを受けた左肩が余計に痛み、起き上がる事ができない。


「何だよ、ウォーミングアップにもならないよ。拍子抜けだな」


 矢野はスーツの乱れを直し、逆立った残り少ない髪を上着の内ポケットに入れていた櫛で整えた。


(ダメージを回復するためにしばらく動けないふりをするしかない)


 香織はヤンキー戦隊のスーツの自動治癒装置の機能に期待する事にした。


「おやおや、二人共、もう動けないのかな? つまらん。どこまでもつまらんな」


 矢野はクルッと身を翻すと、茉莉に歩み寄って行く。


(何をするつもり?)


 香織は胸騒ぎがして、少しだけ顔を上げ、茉莉の方を見た。


「私に無駄な時間を過ごさせた償いをしてくれないか、笹翠先生?」


 矢野は下卑た笑みを浮かべ、茉莉の横に立った。


(何のつもり?)


 少し回復が始まっている茉莉は薄眼を開けて矢野を見た。するとなぜか矢野は上着を脱いだ。


(え?)


 茉莉にも矢野がこれから何をしようとしているのか察しがついた。


(この外道、この状況で何を考えているのよ!?)


 茉莉は焦ったが、まだ負傷箇所の治癒はほとんどされていない状態で、手足が少しだけ動かせるだけであった。


「笹翠先生は、英語の津野原つのはら那菜世ななせ先生と人気を二分する程の美人だからね。一度お味見をさせてもらいたかったのだよ」


 矢野はニヤニヤしながらネクタイをほどき、シャツのボタンを外し始めた。


(やっぱり! このスケベ、何を考えてるのよ!?)


 茉莉はこの上なく焦っていた。こんな男に身体をもてあそばれるのは願い下げだからだ。


(治さん、助けて!)


 恐怖の極限に達してしまった茉莉は目を閉じ、かつて思いを寄せていた宵野明星よいのみょうじょうおさむを思い浮かべた。


「待てこらあ!」


 その時、誰かが保健室に飛び込んできた。茉莉はハッとして声の主を確認したが、残念な事にそれは治ではなかった。


「ヤンキーグリーンとヤンキーパープルに好き勝手やってくれたじゃねえかよ、先公? 俺が相手をしてやる。かかって来な」


 颯爽と現れたのは、ヤンキーパンサーに変身した黒田パンサーだった。


(黒田君か……)


 無情にも心の中で項垂れてしまう茉莉である。


「ほお。威勢がいいね、黒田パンサー君」


 矢野は狡猾な笑みで振り返った。


(ええ!? どうしてばれてるの?)


 ヤンキーパンサーの中の人であるパンサーは、ビビりまくっていた。しかし、


「うるせえよ。ごちゃごちゃ抜かしてねえで、さっさとかかって来い!」


 表のヤンキーパンサーは更にヒートアップして右手の中指を立てて挑発した。


「気をつけて、黒田君。奴は強いわよ」


 香織が告げたが、表のヤンキーパンサーはグイッと右手の親指を立ててみせて、


「心配いらねえよ、ヤンキーパープル。俺を誰だと思ってるんだ?」


 自信満々の笑顔で応じた。

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