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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その弐 暗い少女

ヒロインの紹介です。

 差し歯の赤井真一がたちの悪いクラスメートの宿題を移したノートを渡していた頃、同じ階にある一年五組の教室でも、一人の女子生徒が屈辱にえていた。


「村崎、あんた、もう学校に来ないでよ」


 クラスメートの女子グループの一団の中の一人が村崎と呼ばれた女子生徒に詰め寄っていた。


 女子生徒は前髪パッツンのおカッパ頭で、目が大きくて可愛い顔立ちながら、その醸し出す負のオーラが強過ぎて、全く美少女に見えないという不幸な子である。


「えっと、どうして?」


 オドオドとした表情と声で、村崎は詰め寄った女子を上目遣いに見上げる。


 するとその女子はムッとして、


「あんた、自覚してないの? あんたはね、暗過ぎて、薄気味悪いの! だから、あんたには友達いないでしょ?」


 村崎はその言葉にハッとし、俯いてしまった。詰め寄った女子は更に畳みかける。


「あんた、自分がクラスで一番成績がいいからって、図に乗ってるんでしょ? 誰とも話さないしさ。自分だけは特別って思っているんでしょ?」


「そんな事、思ってない……」


 まさしく蚊の鳴くような声で反論する村崎だが、


「はあ? 声が小さ過ぎて聞こえないんですけど?」


 詰め寄った女子はニヤリとして耳を傾けてみせる。村崎は、


「そんな事、思ってない」


 先程より多少は大きい声で言った。すると耳を傾けていた女子は、


「思ってなくたって、アタシ達にはそう感じられるんだから、学校に来るのをやめてくれない?」


「それはできない……」


 村崎の声がまた小さくなった。


 彼女は一番後ろの席に座っているので、その背後に女子グループの別の一人がスッと立った。


「生意気言ってんじゃないわよ、村崎。言う通りにしなさいよ!」


 その女子が怒鳴った時だった。突然、村崎がスッと立ち上がり、


「私のォ、後ろにィ、立つなァァッ!!」


 教室だけではなく、廊下にまで轟くような大きな声で叫んだのだ。


 後ろに立った女子は驚いて、パンツ丸見え状態で尻餅を突き、詰め寄っていた女子も思わず後退あとずさりした。


 彼女達ばかりではなく、クラス中の生徒の視線が、いきなり大声を出した村崎に集中していた。


「何を騒いでいるの? 授業は始まっているのよ。席に着きなさい」


 授業開始のチャイムと同時に英語の教師の津野原つのはら那菜世ななせが入って来た。


 女子達は慌てて席に着いた。他の生徒達も村崎を見るのをやめた。


 その当の村崎はと言うと、大きな声を出したせいなのか、ふらつきながら腰を下ろした。


 村崎を囲んでいた女子達は彼女を一睨みしてから、教科書を鞄から取り出した。


(また、村崎さんをいじめていたのかしら? でも、私には関係ないわ)


 村崎が女子達に陰湿ないじめを受けている事を察している那菜世だが、何もするつもりはない。


(そういう事は、クラス担任がするべき事よね)


 彼女は後ろめたさを押し隠すように自分に言い聞かせた。


(今のところ、実害がある訳ではないし、村崎さんから訴えがあった訳でもない。それに村崎さんはクラスで一番成績もいいし。問題にすれば、逆に彼女にとってよくない事が起こる可能性も考えられるわね)


 更に自分に言い聞かせる那菜世であった。


(ダメだ、またやっちゃった……)


 村崎は落ち込んでいた。


 彼女は鮒津ふなつ高校に入学した当初、登校中に遭遇した幼稚園児の一人にすれ違いざまにスカートをめくられ、


「わーい、くまさんおぱんつだあ!」


 そう言ってはやし立てられ、以来、それがトラウマとなっている。


 そのせいで、誰かが不意に背後に立つと、先程のように大声で叫んでしまうのだ。


 電車やバスに乗る時に背後に立たれるのは大丈夫なのだが、全く予期していない状況下で立たれると、トラウマが頭の中に鮮明に甦り、叫んでしまうのだった。


「はい、全員に行き渡りましたか? では、小テスト、始め!」


 ハッと我に返ると、周囲は配られたプリントに向かって氏名を書いている。


 しかし、自分のところには何も来ていない。


 前の女子が意地悪をして、彼女にプリントを渡さなかったのだ。


「村崎さん、何してるの? 時間は10分よ。早く取りかかりなさい」


 その事に気づいていない那菜世が村崎を注意した。村崎は呆然とした顔を那菜世に向けて、


「あの、解答用紙をもらっていません」


 那菜世はその応えに不機嫌そうに、


「嘘を言わないで。私は数を間違えてはいないわ。そんなに私の授業を受けたくないのであれば、教室を出て行きなさい!」


 那菜世はいじめだとわかっていたが、それを指摘するのが嫌なので、村崎に当たった。


 プリントを渡さなかった女子がニヤリとする。


「嘘ではありません。もらっていないんです」


 村崎は立ち上がって弁明したが、那菜世は、


「もういいです! 出て行きなさい!」


 教室の後ろのドアを指差して怒鳴った。村崎は唖然としていたが、誰一人彼女を庇おうとする者はいない。


「はい……」


 村崎は項垂れ、教室から出て行った。那菜世はそれを見届けてから、


「今の中断の時間は差し引くので、あと10分です」


 にこやかな顔で告げた。


(私、ひどい教師だ)


 自己嫌悪に陥る那菜世だった。

次は最後の一人の紹介です。

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