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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その弐拾壱 茉莉の過去と茶川の過去

 目の前にいる老人が、実は老人ではなく、その上、茶川さがわ博士ひろしでもないと聞いた村崎香織と黒田パンサーは、まさに目を白黒させていた。


「茉莉くん、誤解せんでくれ。イーヒッヒ。わしは、正真正銘、茶川博士じゃよ。イーヒッヒ」


 ロープを解いている笹翠ささみどり茉莉まりを見ながら、その老人の容姿をした人物が言ったので、


「おちょくってんの、あんた!?」


 茉莉は解きかけたロープを放り出し、またその男の襟首をねじ上げた。


「話を最後まで聞いてくれ、茉莉君。イーヒッヒ」


 少しだけ焦った様子の男が言ったが、最後に笑い声をかましたので、説得力に欠けていた。


「だったら、あんたが茶川博士だっていう証拠、見せなさいよ」


 茉莉はロープを解き切って、その男を突き放した。すると男は、乱れた襟を直し、長い裾の白衣をパンパンと叩いて立ち上がり、


「茉莉君が幼稚園に通っている時、うんこを漏らした事を知っとるぞ。イーヒッヒ」


 いきなりの超黒歴史を発表した。茉莉の顔が湯ムキしたトマトのように赤くなった。


「ええ!?」


 香織とパンサーは仰天して茉莉を見た。


「それから、友達が一人もいなかった君は、誕生日になると、ここへ来て、わしに誕生日プレゼントをせがんだな。イーヒッヒ」


 またしても、黒歴史を明かされた茉莉はプルプルと震え出した。


「どうじゃ、茉莉君? そんな事を知っているのは、茶川博士しかおらんじゃろう? イーヒッヒ」


 茶川はドヤ顔をして言った。すると茉莉は、


「そんな話、村崎さんや黒田君がいる前でするな、バカジジイ!」


 もう一度渾身の右ストレートを茶川の左の顳顬こめかみに叩き込んだ。


「ぶへえ!」


 茶川は涎と血が入り交じったものを口から吐き出しながら、もんどり打って仰向けに倒れた。


「先生、暴力はいけません!」


 香織が茶川を足蹴にしようとする茉莉を後ろから止めた。茉莉はハッと我に返り、


「あ、ありがとう、村崎さん。私、取り乱しちゃった……」


 苦笑いして、香織に礼を言った。香織も苦笑いして、


「笹翠先生も、トラウマがあるんですね」


「そ、そうね」


 茉莉は恥ずかしさと照れ臭さで、頭を掻きながら、俯いた。

 

「さすがに二発も食らうと、効くぞ、茉莉君。イーヒッヒ」


 茶川は白衣の袖で口から流れ出た涎とも血とも判別がつかない液体を拭って、立ち上がった。


「ご、ごめんなさい……」


 やり過ぎたと思ったのか、茉莉は蒼ざめた顔で詫びた。しかし、茶川は、


「心配せんでいい。実はわしは、二十年前にすでに死んでいるのじゃからな。イーヒッヒ」


「えええ!?」


 茶川の超弩級の衝撃発言に、茉莉ばかりではなく、香織もパンサーも大声をあげてしまった。


「ゆ、ゆ、ゆ、ゆう、ゆう、幽霊いいいい!?」


 歯の根も合わない程怯えたパンサーは部屋の隅まで後退あとずさり、そこにあった工具を積んであるワゴンの陰に隠れた。


「幽霊ではない。イーヒッヒ。わしは確かに死んだのじゃが、生き返ったのじゃ。イーヒッヒ」


 茶川は真顔で茉莉と香織、そしてソッとワゴンの向こうから顔を出したパンサーを見た。


 パンサーは茶川と目が合うと、慌てて身を潜めたが。


「また嘘吐いてるんじゃないでしょうね?」


 茉莉は腕組みして半目で茶川を睨む。香織はパンサー程ではないが、茶川が怖いのか、茉莉の背後の隠れている。


「嘘は吐いてはおらん。イーヒッヒ。じゃが、今の話くらいで、そこまで疑われるのでは、この先の話はせん方が身のためのような気がするぞ。イーヒッヒ」


 茶川は汚れてしまった袖を気にかけながら告げた。


「もう殴ったりしないから、全部話して。でないと、私、博士とは一緒に行動できないよ」


 茉莉は少し拗ねたように口を尖らせた。


(笹翠先生って、いろいろあったみたいだけど、茶川博士を信頼しているのね)


 香織は茶川と茉莉の関係を誤解して、感動していた。


「わかった。イーヒッヒ。では、話そうか。イーヒッヒ」


 茶川は真顔で言った。茉莉と香織は唾を呑み込んだ。パンサーはまたゆっくりとワゴンの陰から顔を覗かせた。


 その時だった。


「はいしゃ、ハイシャ、歯医者ー!」


 さっきまで意識を失っていた赤井真一がいきなり飛び起き、叫んだと思ったら、ヤンキーレッドに変身したのだ。


「え?」


 茉莉と香織は目を見開いたが、茶川は、


「危険が迫っておる。イーヒッヒ。赤井君のトラウマエネルギーは現在振り切れたままじゃ。イーヒッヒ。そのお陰で、悪意のある者が近づくと、トラウマレーダーが発現し、探知するのじゃ。イーヒッヒ」


「一体誰が近づいているの?」


 茉莉が周囲をうかがうように眉をひそめて見渡した。


「トラウマレーダーが発現する程じゃから、明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこか、それと同等の強さの敵じゃろうな。イーヒッヒ」


 相変わらず、真顔のまま笑い声をぶっ込む茶川に呆れながらも、


「どうしたらいいの?」


 茉莉が尋ねた。すると博士は、


「変身じゃ。イーヒッヒ。茉莉君もな。イーヒッヒ」


 そう言うと、茉莉に翠のサングラスと特攻服を放った。


「変身、装着!」


 香織とパンサーは先にヤンキーパープルとヤンキーパンサーに変身した。


(あ、また変身しちゃった……)


 嫌だ嫌だと言いながらも、人が好いパンサーは、参加してしまうのだった。


「へ、変身!」


 まだどこか照れがある茉莉は、控え目な声で言い、特攻服とサングラスを身に着けた。


「おお!」


 パンサーと茶川が思わず叫んでしまう程、茉莉の変身は凄かった。


 腰まで届く長い髪は翠色で、胸は特攻服に包まれていても、それとわかる程の巨乳だった。


(やっぱり、笹翠先生、胸にコンプレックスがあるのね)


 香織は思った。


 次の瞬間、茶川トラウマ能力研究所(仮)のドアが蹴破られ、黒尽くめの男達がドヤドヤと入って来た。


「何だ、てめえらは!?」


 中の人とは百八十度性格が違うパンサーがドスを利かせた声で尋ねた。


 すると、黒尽くめの男の一人が前に進み出て、


「我らは明野明星家を陰から支える影だ。お前達には何の怨みもないが、消えてもらう。社会的にも、物理的にもな」


(ひいいい!)


 中のパンサーはビビりまくっていたが、


「おもしれえ! やれるもんなら、やってみやがれ、おっさん!」


 そう言って右手の中指を立てるパンサーだが、風貌的には彼が一番「おっさん」であった。

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