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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その弐拾 茶川博士の秘密

 あまりの衝撃に硬直したように動かなくなった二東にとうはやて三椏みつまた麻穂まほを冷たくて侮蔑が籠った目で見た明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこは、


「それほど驚く事かしら、二人共? そもそも、私達の誰一人として、茶川さがわ博士ひろし本人を知り得る立場にはいなかったのよ。あの男が茶川本人だなんて、客観的な証拠は存在していないわ」


 美奈子は渡り廊下を進み、校舎に入ってしまった。颯と麻穂は顔を見合わせ、美奈子の後を慌てて追いかけた。


(そんな事より、私にあそこまで抵抗した不良おバカさん達の方を何としても見つけなさいよね)


 美奈子は苦悶に顔を歪ませ、赤いサングラスをかけて赤い特攻服を着ていたヤンキーに食らったキックを受け止めた右腕をさすった。


(あいつら、絶対に普通の人間ではない。私の完璧パーフェクト肉体ボディにここまでダメージを与えるなんて……)


 美奈子は決して無傷ではなかったのであった。


 


 その頃、「茶川トラウマ能力研究所(仮)」では、特訓が終了していた。


 歯医者の診察台に拘束されるという、これ以上はない拷問にかけられた赤井真一は失神し、失禁もしてしまった。


 それを妄想の中ではすでにステディな関係にまで発展させている村崎香織に見られたと知ったら、すぐにでも死を選んでしまっただろう。


 幸いな事に、香織は香織で、巨大扇風機によって巻き起こされる風でスカートが捲れ上がり、くまさんパンツが見えそうになるのを防ぐのに必死で、それどころではなかった。


 真一の異変に気づいた笹翠ささみどり茉莉まりが拘束を解いて、彼を地獄の責め苦から救出したのだ。


 少し前の真一だったら、憧れの笹翠先生に失禁を見られたのを知ったら、やはり死を選んでいたかも知れないが、すでに茉莉は真一にとって「良き思い出」になっているので、そこは無用な心配となっている。


 そして、真一の救出を終えた茉莉は、香織のパンツを見ようとして腹這いになっていた茶川の首根っこを掴み、そばにあったロープで雁字搦めにしてしまった。


 それを見た黒田パンサーは、慌てて視線を逸らし、


「僕は何も見ていません! 僕は何も見ていないんです! 僕は何も見ていないんですったら!」


 耳を塞ぎ、目を瞑って叫び続けた。茉莉はそのあまりの凄まじさに引いてしまった。


 そして、香織に目をやり、巨大扇風機の作動を停止させた。


「何考えてるんですか、博士!」


 茉莉は芋虫のように縛り上げられた茶川を睨みつけて怒鳴った。


「トラウマエネルギーは、トラウマの原因に強く刺激を与え続ける事で増幅するのじゃ。イーヒッヒ」


「それはわかりますけど、赤井君は失神して、おしっこまで漏らしてしまったんですよ!」


 念押しするように真一の醜態を発表してしまった茉莉。そのせいで、香織も真一の惨状に気づいてしまった。


「赤井君」


 しかし、香織は真一を侮蔑の目で見たりする事なく、悲しそうな表情になった。パンサーはどうしたらいいのかわからないらしく、オロオロしている。


 更に幸いなのは、真一が未だに気絶中だという事であった。


「それに、トラウマエネルギーの増幅と、博士が腹這いになる事はどういう関係があるんですか!?」

 

 茉莉は茶川の襟首をねじ上げて問い詰めた。すると茶川は、


「香織君は幼稚園児にパンツを見られた事がトラウマなのじゃ。イーヒッヒ。じゃから、わしが覗く事で刺激を最強に……」


 そこまで言った時、遂に茉莉が切れた。彼女の右ストレートが茶川の顔面にクリーンヒットしたのだ。


「ぶへえ!」


 茶川はそのまま後ろに飛ばされ、まさに芋虫のようにゴロゴロと転がった。


「結局、あんたの欲望を満たそうとしているだけじゃないの、変態ジジイ!」


 茉莉は涙を浮かべていた。全部、自分のせいだ。自分がこのエロジジイの甘言に乗って、三人をここに連れて来たのが間違いだった。


「今すぐ、三人のリストバンドを外しなさい! もうあんたの茶番に付き合うのはここまでよ!」


 茉莉が涙を流しながら叫ぶと、茶川は口から血の混じったよだれを垂らしながら、


「生徒会はどうするのじゃ、茉莉君? イーヒッヒ。君の願いは、生徒会の打倒ではなかったのか? イーヒッヒ」


 凄く深刻な会話のはずであるが、茶川の笑い声のせいで、緊迫感がないと思う香織とパンサーである。


「それは私一人で解決するわ。ヤンキーグリーンに変身してね!」


 茉莉は涙を拭って言い放った。


「無理じゃよ。イーヒッヒ。明野明星美奈子の強さは君も見たはずじゃぞ、茉莉君。イーヒッヒ。一人では死ぬぞ。イーヒッヒ」


 茶川の笑い声を挟みながらの反論に、茉莉はギクッとした。


「それでもやるわ! 私一人で! 死んでも本望だから!」


 鮒津高校の生徒会を正す。それが高校在学中からの茉莉の悲願であった。


「笹翠先生」


 すると、香織が茉莉の手を取った。茉莉はハッとして香織を見た。


「先生は間違っています」


 香織は微笑んでいた。


「え?」


 茉莉はキョトンとした。香織は両手で茉莉の右手を包み込むように握り、


「私、嬉しかったんです。いつも俯いてばかりいた人生で、初めて前を向けた気がして。だから、そんな寂しい事、言わないでください。一緒に戦いましょう」


「村崎さん……」


 香織の意外な言葉に茉莉はまた目を潤ませた。香織は両手に力を込めて、


「それは、赤井君も、黒田君も同じ気持ちだと思います」


 真一とパンサーを見た。


(赤井君はともかく、僕は脱退したいんだけど……)


 パンサーは心の中で思ったが、状況的にそんな事を言ってはいけないと判断したのか、作り笑顔で応じてみせた。


「ありがとう、村崎さん、黒田君」


 茉莉は涙を流して頭を下げた。そして、感動も束の間、


「ところで」


 茉莉は涙をもう一度拭い、茶川を睨みつけた。


「さっき、つい殴ってしまって、まずかったって思ったんだけど。でも、それは思い直した」


 茉莉の不思議な言葉に、香織とパンサーは首を傾げた。


「貴方、誰なの? 茶川博士じゃないわよね? 身体的特徴も声も口癖も動作も、何もかも博士そのものなんだけど、今、殴ってわかったの。さっきの感触は老人のものじゃないって」


 茉莉は何も言い返さずにいる茶川に近づいた。すると茶川は、


「さすが、茉莉君じゃ。イーヒッヒ。付き合いが長いと騙し切れんものじゃな。イーヒッヒ」


 その返答に茉莉は眉をひそめ、


「じゃあ、一体誰なの!?」


 鋭い口調で尋ねた。茶川は茉莉を見上げて、


「では、このロープを解いてくれんか、茉莉君。イーヒッヒ」


 真顔で言った。茉莉は香織やパンサーと顔を見合わせ、もう一度茶川らしき人物を見た。


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