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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その拾捌 特訓開始

 Z県立鮒津高等学校の生徒会長である明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこはあまりにも強く、ヤンキー戦隊は危うく全滅しかけたが、生みの親である茶川さがわ博士ひろしによって、最悪の事態を免れた。


 


 その翌朝。鮒津高校の生徒会室で、緊急会議が開かれていた。


「茶川博士と笹翠ささみどり茉莉まりが共謀して組織していると思われる不良おバカさん達の集団は、私が撃退しました」


 仁王立ちで他の役員達を見渡しながら、美奈子は言った。


 ヤンキーパンサーこと黒田パンサーに叩きのめされてしまい、その後、いつの間にか、校庭に置き去りにされていた第二会計の士藤しとう四郎しろうは、美奈子の顔を見る事ができず、俯いたままだ。


「会長、ご無事で何よりでした」


 副会長の二東にとうはやてが愛想笑いをして言うと、美奈子は冷たい目で颯を見下ろし、


「ご無事で何より? どういう意味かしら、二東君? 私が負けるとでも思っていたのかしら?」


 その言葉に颯の顔色が急速に悪くなり、尋常ではない量の汗が額の各所を流れ落ちた。


 だが、美奈子はそんな颯のリアクションを嘲るように鼻で笑うと、


「警戒する必要などないレベルでしたが、それでも、茶川という得体の知れない男の事は今後も調査を続けさせます。私の家の調査員にね」


 疾風以下、全員が顔を引きつらせた。美奈子の家の調査員とは、政府の情報機関以上の情報網と能力を持った者の集まりなのだ。美奈子がどれだけ本気なのか、そこにいる者は肌身に沁みてわかっていた。


「士藤君」


 美奈子は下を向いたままで震えている四郎に声をかけた。四郎の巨体がビクッと揺れた。


「貴方と戦ったおバカさんは、黒い特攻服を着ていたのね?」


「あ、はい」


 四郎は顔を上げて美奈子を見た。美奈子はフッと笑い、


「あの程度のおバカさんにあっさり倒されてしまうなんて、貴方、最近、鍛錬を怠っているでしょ?」


 四郎の顔が青くなった。美奈子は更に、


「たまには私と手合わせしてみる?」


 今度は四郎の顔が汗塗れになる。美奈子は高笑いをして、


「冗談よ。貴方なんかと手合わせしたら、私が弱くなってしまうわ」


 そう言って、第一書記の五島ごとう誓子せいこに視線を移すと、


「五島さん、貴方が士藤君を鍛え直してあげなさい」


「はい」


 誓子は真顔で応じた。四郎はその会話を聞いて、顔を引きつらせた。誓子は美奈子には遥かに劣るが、四郎など太刀打ちできない程の強さなのだ。


 どちらにしても、四郎がボコボコにされるのは確定的だった。


「それから、六等むとう君」


 美奈子が第二書記の六等むとう星太せいたを見る。星太はギクッとして美奈子を見た。


「確か、一年生の赤井真一をマークしていたはずだけど、昨日はどうしたの?」


 美奈子は星太が途中で真一達の尾行に失敗しているのを知った上で尋ねているのだ。


「あ、ええと、そのですね……」


 星太は背中にたくさん汗を掻きながら、何と言い訳しようか考えていた。


 彼は真一と村崎香織を尾行中、大好物のたこ焼きの屋台を発見し、そちらに気を取られているうちに二人を見失ったのだ。


三椏みつまたさんの調べでは、赤井真一は一年五組の村崎香織、そして一年七組の黒田パンサーの二人と揃って下校したのがわかっているわ」


 美奈子は第一会計で、生徒会のIT部門担当でもある三椏みつまた麻穂まほをチラッと見て言った。


「その三人をマークしなさい。今度見失ったら、許さないわよ」


 美奈子は微笑んで告げた。


「は、はい!」


 そのせいで星太は結構な量を漏らしてしまった。




 やがて、一般生徒の登校時間になり、真一、香織、黒田パンサーが姿を見せた。


 茶川のアドバイスで、三人はバラバラに登校したのだが、校門のところで偶然出くわしてしまい、奇妙な譲り合いをして、他の生徒の注目を浴びてしまった。


(ああ、香織さん! 今日も可愛いよ!)


 真一の妄想劇場が開幕していた。それでも、生徒会の役員がどこで見張っているかわからないので、三人は会話を交わす事なく、校舎へと歩いた。


(取り敢えず、クラスの連中に聞き込みしてみるか)


 それを見ていた星太は、まずは一年三組に向かった。漏らしてしまったので、ジャージに着替えている星太である。


「ちょっといいかな?」


 星太は廊下で屯していた生徒に役員バッジが付けられた身分証を見せた。


「何でしょうか?」


 その生徒達は星太が生徒会役員だと知り、畏まって彼を見た。星太はちょっとだけドヤ顔になり、


「このクラスにいる赤井真一君だけど、誰と交友関係があるか、知らないか?」


「知らないです。あいつはクラスの誰とも話さないから」


 生徒の一人が他の生徒と顔を見合わせてから言った。


「そうか。わかった、ありがとう」


 星太は微笑んで礼を言うと、次に五組に向かった。


「赤井の事なんか訊いて、どうするつもりなのかな?」


 星太は訊いた相手が悪かった。彼等はいつも真一に宿題を移させているメンバーだったのだ。


 星太は五組の前に来て、開いた前のドアから中を窺っていたが、背後に気配を感じて飛び退いた。


「す、すみません」


 それは星太の目当てである香織だった。香織も星太がいきなり動いたので、びっくりして後ろへ飛んだ。


(ゆ、揺れた?)


 星太は香織の胸がユサユサ揺れるのを見逃さなかった。


(D? いや、もしかして、E?)


 バカな事を考えていたら、香織は会釈して中に入ってしまった。


(時間がないか)


 始業のチャイムが鳴ったので、星太は仕方なく自分の教室に戻った。


 結局、彼はその後も何度か五組と七組の教室を訪れたが、何も収穫はなかった。


(三人共、クラスで孤立しているのか)


 自分みたいだな。星太は少しだけ真一達に親近感を覚えてしまった。


 


 そして、放課後。警戒した茉莉は、茶川を学校の近くまで呼び寄せ、真一達を裏門から誘導して、ワゴン車に乗せた。


 そのお陰で、三人は星太に見つかる事なく、学校を離れる事ができた。


「特訓て、何をするの、博士?」


 茶川トラウマ能力研究所(仮)に到着するなり、茉莉が尋ねた。


「隣に用意してあるのじゃ。イーヒッヒ」


 茶川は真顔でそう言った。茉莉はまたイラッとした。そして、茶川の案内で入った隣の部屋には、奇妙なものが置かれていた。


「ひいい!」


 それを見て、途端に真一が悲鳴を上げた。そこにあったのは、歯医者の診察台と、巨大な扇風機だった。


「はいしゃ、ハイシャ、歯医者ー!」


 真一はあまりの恐怖にうずくまり、何やらブツブツ呟き始めた。


「これは何ですか?」


 嫌な予感がした香織が巨大扇風機を指差して尋ねた。すると茶川は、


「もちろん、香織君のトラウマ能力を鍛えるための装置じゃ。イーヒッヒ」


 全てを察した茉莉が、


「何考えているんですか!」


 激怒して、茶川の襟首をねじ上げた。


(僕はどうすれば……)


 手持ち無沙汰のパンサーは、顔を引きつらせていた。

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