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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その拾肆 遂に激突

「ヤンキーせんたい、だと?」


 黒田パンサーの変身後のあまりにも凄まじい顔に一瞬ビビってしまった士藤しとう四郎しろうであったが、パンサーの顔より遥かに怖い生徒会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこのお仕置きを思い出し、何とか睨み返す。


「そうじゃ。イーヒッヒ。ヤンキー戦隊グラスマンは、無敵の正義の味方じゃ。イーヒッヒ。お前如き、秒殺じゃぞ。イーヒッヒ」


 緊迫した場面であるにも関わらず、脱力系の発言を繰り返す茶川さがわ博士ひろしである。


「うるせえよ、ジジイ! この俺に楯突いた不良共が何人病院送りになったか、知らねえのか!?」


 四郎はお気楽発言を繰り返す茶川に目を向けた。そして、すぐにパンサーに視線を戻し、


「相手をしてやるだと? お前のような頭のおかしいヒーロー気取りのノータリンヤロウには正義の鉄槌を下してやるぜ!」


 四郎は余裕の笑みを浮かべ、パンサーに殴りかかった。


(ひいい!)


 パンサーの心の中は、全く変身前のままだった。


 何がどうしてどうなったのか、彼自身、全くわからないのだ。


 気がついたら、変身しており、四郎に向かって啖呵たんかを切っていたのだ。


 ところが、肉体は俊敏に反応していた。


 パンサーは四郎の右の拳を左のてのひらで容易く受け止めると、鋭い右フックを四郎の左脇腹に見舞った。


「ぐええ!」


 四郎が苦悶の表情で膝を折りかけたが、パンサーの肉体はそれを許さなかった。


「はええんだよ、デカブツ!」


 次にパンサーは右膝を四郎の下腹部に叩き込んだ。


「ほげええ!」


 四郎の口から大量の涎が流れ落ちた。パンサーはそれを避けるように四郎を突き飛ばして、床にうつ伏せに倒した。


「エセ正義の鉄槌は脆いんだよ。でかい口叩くんじゃねえよ、ボケが!」


 更にパンサーは四郎を足蹴にし、グリグリと背中を責め立てた。


(僕は一体何をしているんだ!?)


 パンサーの心は千々に乱れていた。


「うん?」


 四郎が反応しないので、パンサーは彼を覗き込んだ。四郎は白目を剥いて気絶していた。


「だらしねえ。口だけ星人かよ」


 今時誰も言わないような言葉を吐き、鼻で笑うパンサー。


(どうしよう、明日士藤さんに会ったら、大変な事になる!)


 パンサーの心は嵐の夜に船出したマグロ漁船の乗組員の心境だった。


緊急出動スクランブルは成功のようじゃな、イーヒッヒ」


 茶川が言った。パンサーは自分の姿が元に戻っているのに気づいた。


「え?」


 完全に茫然自失のパンサーを見て、


「君達ヤンキー戦隊は、わしがピンチの時、自動的に変身するのじゃよ。イーヒッヒ。作動が良好のようでホッとしたよ。イーヒッヒ」


 どこまでも自分本位の茶川の言葉に、パンサーは呆気に取られてしまった。


(ダメだ、この人に何を言っても通じないかも知れない……)


 ガックリと項垂れるパンサーである。


「ところで、どうしてわしの研究所(仮)に来たのじゃ、黒田君? イーヒッヒ」


 茶川が不意にパンサーに尋ねた。パンサーはハッとして顔を上げたが、


「いえ、偶然です。偶然、近くを通りかかりました」


 つい、嘘を吐いてしまった。すると茶川は嬉しそうな顔になり、


「そういう控え目なところが君の好いところじゃよ、黒田君。イーヒッヒ。わしの目に狂いはなかった。イーヒッヒ」


 まさかそんな事を言われると思っていなかったパンサーは、照れ臭くなってしまった。


「だから、是非、ヤンキー戦隊を続けてくれ。イーヒッヒ。君が戦隊のリーダーだ。イーヒッヒ」


 故意か偶然か、茶川がパンサーを持ち上げる。そのせいでパンサーは出鼻を挫かれてしまった。


(これほど喜んでくれているのに、辞めさせて欲しいだなんて、とても言えない)


 元来が気持ちの優しいパンサーは、当初の目的を完全に諦めてしまった。


 


 一方、茶川の研究所(仮)に向かう途中の路地で美奈子に呼び止められた笹翠ささみどり茉莉まりは、茶川のピンチを知り、その場を離れようとしたが、


「行かせませんわ、笹翠先生。貴女には私に忠誠を誓っていただきます」


 美奈子の目配せに応じ、生徒会役員の五島ごとう誓子せいこが行く手を阻んだ。


「どきなさい! 痛い目に遭いたくなかったら!」


 茉莉が凄むと、誓子は一瞬ビビったが、茉莉の背後にいる美奈子の鋭い目に気づき、


「望むところですわ、笹翠先生。お相手致します」


 空手の構えを取った。茉莉の眉間に皺が寄った。


(この子、できるの?)


 スケバンで鳴らしていた頃の茉莉は、まさに向かうところ敵なしであったが、もうそれから長い年月が経っている。


(どうしよう?)


 茉莉は不安になった。通信教育で勉強中の空手では太刀打ちできそうにない。


(ここはハッタリで正面突破よ!)


 肉体的には衰えたが、心はまだ女子高生の茉莉は、誓子を勢いで押しのけようと思った。


「この私も舐められたものね! こんな小娘一人で止めようとするなんてさ!」


 ドスの効いた声で誓子を睨みつけ、走り出した。


「ひ!」


 誓子はまさか茉莉が突進して来るとは思わなかったので、対応が一瞬遅れてしまった。


「五島さん、逃がしたりしたら、どうなるか、わかっていますわよね?」


 氷のように冷たい声で美奈子が告げる。誓子は意を決して、迫って来る茉莉を迎え撃つ事にした。


(明野明星さん、どこまでこの子を支配しているの? ビビったはずなのに、どかないなんて!)


 茉莉は美奈子の縛りの強さに戦慄してしまった。右にフェイントをかけて、左をすり抜けようとしたが、誓子はそれに機敏に反応した。


「くう!」


 茉莉は誓子に襟首を掴まれ、立ち止まってしまった。


「逃がしませんわ、先生」


 誓子はホッとした表情をすぐに隠し、ニヤリとして茉莉に囁いた。


 


「どうしよう、香織さん?」


 茉莉と美奈子の遭遇を路地の入口からこっそり見ていた赤井真一が、村崎香織に尋ねた。


「どうしようって、助けないの?」


 香織は目を見開いて真一を見た。真一はその目にドキッとした。


(ああ、香織さん、そんな目で見つめないで! 僕の心臓が爆発してしまうよ)


 こんな時でも、妄想タイムは怠らないバカである。


「助けるって、無理だよ。生徒会長はともかく、五島誓子さんて、スポーツ万能で、格闘技もするって聞いたよ」


 真一はそれでも何とか現実世界に帰還して答えた。すると香織は、


「赤井君、見損なったわ。それなら、私だけ行く!」


 紫のリストバンドを撫で、


「変身装着!」


 そう叫んだ。すると、たちどころに香織は金髪のヤンキーパープルに変身した。


「ああ、香織さん!」


 真一は香織に、


「見損なった」


 そう言われた事より、


「私だけ行く!」


 そう言った事の方がインパクトがあったらしく、顔が赤い。


 妄想危険レベルが5になってしまったようだ。


 


「む?」


 茉莉の襟首を掴み、得意になっていた誓子だが、路地の入口の方から、金髪で、紫の特攻服と紫のサングラスという奇抜なファッションで現れたヤンキーに気づき、思わず茉莉の襟を放してしまった。


「きゃっ!」


 その拍子に、茉莉はドスンと尻餅を突いた。


「五島さん、何をしているの!?」


 美奈子がムッとして怒鳴ると、誓子は慌てた様子で美奈子の後方を指差した。


「会長、妙な人物が!」


「え?」


 美奈子も背後から迫る妙な気配に気づき、振り返った。


「正義の味方、ヤンキー戦隊グラスマン、ヤンキーパープル、只今参上! 生徒会の横暴は許さない!」


 香織は喜びに溢れた状態で、啖呵を切った。


「ヤンキーせんたい? どこの劇団よ?」


 美奈子はビビるでもなく、眉をひそめ、訝しそうに変身した香織を見た。


「え……?」


 茉莉は痛めた首を撫でながら、聞いた事がある名前に反応し、振り向いた。


(あれは、村崎さん?)


 美奈子はフッと笑い、


「まあ、いいでしょう。正義の味方ですって? 笑わせてくれるわね。どれほど強いのか、見せていただけるかしら?」


 構えるでもなく、香織の方に身体を向けて直立した。

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