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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その拾参 危機一髪

 生徒会の役員達が不穏な動きをしているとは全く思っていない笹翠ささみどり茉莉まりは、その日の仕事を終え、帰り支度をしていた。


(トラウマがないと、スーツを着ても何も起こらない? 体よく騙されたのかしら、ジジイに?)


 茉莉は、町の変わり者である茶川さがわ博士ひろしが、


「香織君は少なくともブスではないぞ。イーヒッヒ。わしの中では、茉莉君より上位じゃ。イーヒッヒ」


 そう言ったのを実は根に持っている。


(村崎さんの方が可愛いから、私に意地悪しているのね、あのジジイ)


 やはり、最終的には暴力に訴えてでも、自分用のスーツを作らせようと思う茉莉である。


 そのせいなのか、生徒会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこと第一書記の五島ごとう誓子せいこが彼女を校門を出たところから尾行しているのに気づいていなかった。


 美奈子はそのままでは目立つので、おかっぱのカツラをかぶり、黒縁の丸眼鏡をかけている。


 美奈子について来ている誓子は、地味さでは村崎香織といい勝負なので、何の変装もしていない。


「笹翠茉莉は必ず茶川博士のところに向かうはず。その前に押さえるわよ」


 美奈子は前を歩く茉莉を見たままで、誓子に言った。


「はい、会長」


 誓子も茉莉から視線を外さずに応じた。


 


 一方、そんな状況は全く把握していない赤井真一は、勇気を揺り搾って、香織に声をかけた。


 妄想世界では、すでにキスまですませている恋人関係だが、現実にはまだ親しいとも言えない関係なのを思い知った真一は、香織に断わられるかも知れないという恐怖心から、心臓が暴走していたが、


「はい」


 香織が二つ返事で一緒に帰る事を承諾してくれたので、そのまま文字通り昇天してしまいそうになった。


「茶川博士のところに寄りたいのですけど、いいですか?」


 香織が申し訳なさそうに尋ねた。真一は顔を強張らせたままで、


「もちろん、いいですよ。香織さんが行きたいところなら、どこへでも行きます」


「ありがとう、赤井君」


 香織が嬉しそうに言うと、真一は、


「下の名前で呼んでくれると、嬉しいです」


「え? そんな、図々しい事、できません」


 どこまでも控え目な香織は俯いてしまった。真一はそれでも、


「いや、図々しくなんかないです。僕達は只の友達ではないでしょう?」


 恋人未満なのは自覚しているが、そこに近づきたいと思って言ったのだが、


「そうですね。もっと強い絆で結ばれているのですよね」


 香織は、同じ「ヤンキー戦隊グラスマン」のメンバーだという事を真一が言ったと勘違いして、微笑んだ。


 だが、真一は香織が自分の事を友達以上だと思っていると勘違いし、照れ笑いした。


(何なんだ、あの二人は?)


 真一をマークするように美奈子に言われている生徒会の一番下っ端の六等むとう星太せいたは、訝しそうな顔をして、二人をつけていた。


(茶川博士って、確か士藤しとう君が会長に行くように命じられたところだっけ?)


 昼休みの会議の事を思い出した星太は、角を曲がった真一と香織に気づき、慌てて駆け出した。


 


 そして、もう一人の「ヤンキー戦隊」である黒田パンサーは、一人で茶川トラウマ能力研究所(仮)に向かっていた。


 彼だけノーマークになっているのは、偶然であったが、誰もそのような事を気にしてはいなかった。


(茶川博士は、僕の辞退を受け入れてくれるだろうか?)


 ビビリのパンサーは、茶川が凄んだらどうしようと思っていた。


 だが、語尾に「イーヒッヒ」を必ずぶっ込んで来る茶川が凄む図が思い描けず、その可能性はないと判断した。


(どうしても応じてくれなかったら、泣き落としをしよう)


 パンサーは決意し、歩みを速めた。


 


「笹翠先生」


 茉莉は茶川の研究所への近道である路地に入った時、名前を呼ばれて立ち止まった。


 振り返ると、そこには生徒会役員の五島誓子と、見た事がないおかっぱの女子が立っていた。


「五島誓子さんと……ええと?」


 もう一人の名前がわからない茉莉が苦笑いすると、おかっぱの女子は眼鏡とカツラを取り、正体を明かした。


「明野明星……さん?」


 茉莉は美奈子の正体に薄々気づいているので、ギョッとして呟いた。


「どこへ行かれるのですか、先生? 貴女のご自宅は、こちらではありませんよね?」


 美奈子は優しい笑みを浮かべて尋ねた。茉莉はそれでも彼女の言葉に何かを感じ、


「私がどこへ行こうと、貴女には関係ないでしょう、明野明星さん!」


 語気を荒らげて言い放った。すると美奈子はわざとらしく身震いして、


「まあ、怖い。さすがに元スケバンの笹翠先生だわ。言葉に迫力がありますのね」


 茉莉は目を見開いた。彼女が元スケバンだという事を知っているのは、ごく一握りの人達なのだ。


「あら、噂は本当でしたの、笹翠先生? 先生はやはり、元スケバンでしたのね?」


 美奈子はまだ笑みを浮かべたままで続けた。隣の誓子は茉莉と美奈子の間にバチバチと交わされている火花のような闘気を感じ、顔を引きつらせている。


「私に何の用なの、明野明星さん?」


 茉莉は隠しても無駄だと悟り、目を吊り上げて昔のように凄んだ。誓子はチビりそうだ。


「貴女はかつて、鮒津高校に在学していた当時、生徒会と対立し、随分と派手な事をしたそうですわね?」


 美奈子は微笑むのをやめ、腕組みをして茉莉を見ている。


「それがどうしたの? もうずっと昔の話よ」


 茉莉ははすに構え、目を細めた。誓子は更に尿意を感じてしまった。


「そして今、また生徒会と対立しようとしていますわね?」


「え?」


 美奈子の思ってもいなかった言葉に茉莉はハッとしてしまった。


「茶川博士とは何者で、貴女とどういう関係なのですか?」


 美奈子は腕組みをしたまま、茉莉に一歩二歩と近づいた。誓子は美奈子の背後に隠れるようにしてついていく。


「関係も何も、ご近所さんというだけよ!」


 妙な誤解をされたくない茉莉はムッとして言い返した。すると美奈子はフッと笑って、


「まあ、いいでしょう。本当かどうか、ご本人に尋ねれば、すぐにわかる事です」


「まさか、ジジイのところに!?」


 茉莉は美奈子の言い回しにギクッとして叫んだ。


「もうすぐ、士藤君が到着する頃ですわ」


 美奈子は制服のポケットから懐中時計を取り出して眺めながら告げた。


「士藤?」


 茉莉は、身長二メートル、体重百キロ超の士藤四郎の姿を思い出し、愕然とした。


(今日がジジイの命日?)


 そんな事を考えてしまった。


 


 そんな危険が迫っているとは全く思っていない茶川博士は、ドアをノックする音に気づき、


「鍵はかけん主義なのじゃ。イーヒッヒ。お入りなさい」


 木製のドアが勢いよく開き、ヌッと入って来たのは、生徒会一の巨漢である士藤四郎だった。


「おや、ガスの集金かね? イーヒッヒ」


 ボケたのか、本気なのかわからない事を茶川が言ったので、四郎はキッとして、


「ふざけるんじゃねえ、ジジイ! お前は笹翠茉莉とどういう関係なんだ? そして、お前は何者なんだ?」


 すると茶川は四郎に近づいて彼を見上げ、


「茉莉君はわしの一番弟子じゃ。イーヒッヒ。そして、わしは日本有数の偉大な科学者なのじゃ。イーヒッヒ」


 緊張感の欠片もない事を言った。


「まだふざけるのか、ジジイ! 本当の事を言わないと、痛い目を見るぞ!」


 四郎はドスンと前に踏み出し、これでもかというくらいの凄みを利かせて茶川を睨みつけた。


「ああ、そうか、どこかで見た事があると思ったら、君は鮒津高校の生徒会役員か? イーヒッヒ」


 全くビビっていない茶川が四郎を指差した。


「それがどうしたああ!」


 遂に切れてしまった四郎が、右の拳を振り上げた。


「正直に言わない場合は、鉄拳制裁だ!」


 丸太のような腕から繰り出されるストレートが茶川に迫った。


「おいおい、いい若いモンが、老人相手に暴力とは、いただけねえなあ」


 そう言って、四郎の右腕を後ろから止めた者がいた。


「てめえ、何者だ!?」


 凄んだ四郎だったが、そこにいた者の顔を見て、漏らしそうになった。


 どう見てもその筋の方にしか見えない、黒い特攻服を着て、黒いサングラスをかけた、眉なしの坊主頭の男がいたからだ。


「俺はヤンキー戦隊グラスマンのヤンキーパンサーだ。文句があるのなら、相手をしてやるぜ」


 ヤンキー戦隊を辞退しようとしていたパンサーの変身した姿だとは、四郎は夢にも思っていなかった。

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