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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その拾弐 裏生徒会動く

 赤井真一は、人生の絶頂期を迎えていると思っていた。恋人もできた(妄想だけど)。


 正義のヒーローにもなれた。そして何より、Z県立鮒津高等学校の生徒会と戦える事が嬉しかった。


(人は学校の成績のみに生きるにあらず! 人に一番必要なのは、愛だ!)


 真一の場合、愛が妄想の域を出ていないのが難点である。


(だから僕は、香織さんのためにも、生徒会と戦う!)


 香織とは、真一と同じく、町の変わり者でしかない可能性がある茶川さがわ博士ひろしによって、正義のヒーロー(?)である「ヤンキー戦隊グラスマン」に選ばれた少女である。


 彼女は、些細な行き違いから、真一の「彼女」に確定してしまっている、不幸な子だ。


 香織視点から見れば、真一は鮒津高校で一番気を許せる友人でしかない。


 百歩譲っても、親友止まりである。決して、恋愛の対象ではないのだ。


「よお、赤井ィ。今日も頼むぜ、宿題」


 教室に入るなり、真一はクラスメートの男子五人に数学のノートを差し出された。


「うん、わかったよ」


 一瞬、右手首に嵌められた赤いリストバンドに目が行ったが、


(これは私怨を晴らすために使うものではない)


 自分をいいように使っている連中に鉄槌を下したくなったのを何とか我慢した。


(倒すべきは生徒会。そして、その頂点に君臨する明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこ


 美奈子の麗しい姿を思い出し、もう少しでウットリしてしまいそうになったが、


(香織さんに申し訳ない)


 訳のわからない理由で、思い留まった。どこまでも妄想癖が激しい男なのだ。


(確かに生徒会長は美人で成績優秀で、人望も厚いけど、裏では成績の振るわない生徒を弾圧させていると聞く。もし、それが真実であれば、断じて許せない)


 美奈子は生徒会の役員達を使ってさまざまな弾圧を行っていると妄想している真一は、配下の役員を倒せば、美奈子は泣いて謝るだろうと想像していた。


(どうしてもというのであれば、香織さんの次くらいの彼女にしてあげてもいい)


 途轍もなくバカな妄想を膨らませる真一であった。


「おい、サッサと行けよ。早くしねえと、那菜世ななせちゃんが来ちまうだろう?」


「あ、うん」


 クラスメートに小突かれて我に返った真一は、元カノ(妄想だけど)の笹翠ささみどり茉莉まりがいる保健室へと向かった。


 


 真一の妄想彼女にされているとは夢にも思っていない村崎香織は、自分の席に着き、右手首の紫のリストバンドをニヤニヤして眺めていた。


 周囲のクラスメートは、元々暗くて気持ち悪い香織が意味もなく笑っているのを見て、更に気持ち悪がっていた。


 しかし、当の香織は全くと言っていい程、気にしていない。


 彼女は憧れの「不良」に変身できたのが嬉しくて、「茶川トラウマ能力研究所(仮)」から帰宅して、部屋で何度も変身していたのだ。


 クラスメート達の嫌がらせや無視も、茶川に授けられたリストバンドに比べれば、どうという事はなかった。


(早く家に帰って変身したいなあ)


 香織の思いは、どこかズレていた。


 


 そして、自分の思いとは裏腹に、成り行きで正義の味方に選ばれてしまった黒田パンサーは、右手首に巻かれた黒のリストバンドを悲しそうに見つめていた。


 茶川の研究所から帰宅したパンサーは、部屋に籠って、何とかリストバンドを外せないかといろいろ試してみた。


 まずは無理矢理引っ張ってみた。だが、リストバンドはパンサーの手首に同化しているかのように離れなかった。


 次にカッターナイフで少しずつ切ってみる事にした。ところが、カッターの刃がボロボロになるだけで、バンドは全く傷つけられなかった。


 自棄糞やけくそになったパンサーは、変身した時に特攻服とサングラスを外そうと試みた。


 ところが、研究所では脱げた特攻服が身体から離れなくなっていた。


(どういう事なんだ!?)


 パンサーは涙ぐみ、一度リストバンドに戻して、風呂に入る事にした。


 石鹸を塗って、滑らせて外す作戦は当然の事ながら、徒労に終わったが。


(茶川博士に辞退を申し出よう。僕より正義の味方に相応しい人は必ずいるはずだから)


 そう思ったパンサーは放課後、「茶川トラウマ能力研究所(仮)」に行く事にしていた。


 


 昼休みになった。


 生徒会室には、また役員が召集されていた。


「新しい情報が入ったわ。昨日、笹翠茉莉を乗せて走り去った黒のワゴン車は、茶川の車だった。二人が繋がっているのは確実」


 美奈子は不敵な笑みを浮かべ、議長席から一同を渡した。そして、第二会計の士藤しとう四郎しろうを見た。身長二メートル、体重百キロの巨漢が、その鋭い視線にビクッとする。


「茶川の家に行き、彼が何者なのか、探りなさい。場合によっては、鉄拳制裁も許可します」


 美奈子の冷たい口調に士藤は黙って頭を下げた。次に美奈子は第一書記の五島(ごとう誓子せいこに目を向けた。


「貴女は私と来て。笹翠茉莉を追いつめるわ」


「はい」


 おかっぱ頭で、ガリガリに痩せている見た目とは裏腹に、アクティブで、スポーツ万能な誓子は、ニヤリとして応じた。


六等むとう君」


 次に美奈子が見たのは、生徒会では一番下っ端の六等(むとう星太せいただった。星太はまさか自分に「お声」がかかるとは思っていなかったので、一瞬硬直したが、


「あ、はい!」


 直立不動になった。美奈子はその反応に失笑し、


「貴方は一年三組の赤井真一をマークして。彼は生徒の中では、一番笹翠茉莉と接触しているから」


「はい!」


 星太は敬礼して応じた。美奈子は副会長の二東にとうはやてを見て、


「情報は貴方が統括して、二東君。分析完了後、私に報告してちょうだい」


「はい」


 二東は軽く会釈して応じた。


 美奈子は第一会計の三椏みつまた麻穂まほに目を向け、


「貴女は二東君をサポートしてあげて」


「はい、会長」


 ボブカットの地味な顔の麻穂は、イケメンの颯との行動に満足そうに応じた。彼女は身の程をわきまえている女子なので、颯と恋人になろうとは全く思っていないが、彼との行動は嬉しいのだ。


「では、解散。各自、行動は迅速に、他の生徒には気取られないように」


「はい」


 美奈子は「部下」達の心地良い返事に満足そうに頷いた。

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