戦その拾 結成! ヤンキー戦隊
赤い特攻服とサングラスをかけた赤井真一は、身長が伸び、身体がたくましくなった。
(という事は?)
真一はついつい村崎香織を見てしまった。
(この法則に則れば、香織さんはボン、キュッ、ボン……)
邪な妄想を膨らませ、鼻血を垂らしそうになった真一は、違うところも膨らましそうになった。
「うおお!」
そんな妄想が影響したのか、真一の髪型が突拍子もない程のリーゼントになった。
しかも、かなりポマードベッタリ系である。
(ダサ……)
それを見た笹翠茉莉はそう思った。
「トラウマ能力が高い値を示していると、次々に変身するんじゃ。イーヒッヒ。君はわしが見込んだ通りの男じゃったよ、赤井君、イーヒッヒ」
誇らしそうに胸を張る奇人変人の代表のような茶川博士。
(それにしても、どういう仕組みなの、あの特攻服?)
貧乳の自覚がある茉莉は、トラウマエネルギー変換スーツに興味が湧いた。
「では、次は君じゃ」
茶川が言ったので、真一は嬉しそうに香織を見たが、茶川がスーツを渡したのは、黒田パンサーだった。
「……」
露骨にがっかりしている真一を見て、茉莉は半目になった。
(こいつ、考えている事が丸わかりよ)
黒の特攻服を差し出されたパンサーは、今まで以上にビクッとした。
「え? 僕、ですか?」
彼は濃い眉毛をハの字にして、悲しそうな目で茶川を見た。
まるで執行の日を告げられた死刑囚のようだった。
「僕は次回でいいです。先に彼女にどうぞ」
パンサーは身体中から汗を噴き出し、顔を引きつらせて言った。すると茶川は、
「そうか? 楽しみは最後に取っておきたかったのじゃがなあ。イーヒッヒ」
意味深な言葉を吐き、黒の特攻服をハンガーに戻した。
(楽しみ? どういう意味?)
茉莉の鋭い視線が茶川に向けられる。茶川は気づかなかったが、パンサーが気づき、ビクッとした。
「では、香織君、これを着てみたまえ。イーヒッヒ。君のトラウマエネルギーも赤井君に負けておらんからの。イーヒッヒ」
「そう、ですか?」
香織は怪訝そうな顔で紫の特攻服を受け取った。ある意味彼女の特攻服が一番格上っぽく見える。
香織は恐る恐る袖を通した。そして、次に茶川から紫色のサングラスを受け取り、かけた。
真一はゴクリと生唾を呑み込んだ。
(もしや、特攻服がビキニに変身するとか?)
妄想が大暴走してしまった真一は、リーゼントが更に長くなった。
(何を妄想しているんだ、このエロガキは?)
茉莉は真一を横目で睨みつけながら、香織の変身を見守った。
「ああ!」
ところが、香織の変身は茉莉と真一の予想を裏切り、茶川を落胆させた。
香織は身長は伸び、裾の長さが合うようになったが、決してボン、キュッ、ボンにはならなかった。
それに反して、パッツンな前髪が伸び、全体が金色に変化した。
しかも、強烈なウエーブがかかり、ロングヘアになったのだ。
「そうか、君は髪の毛にトラウマがあったのか。イーヒッヒ。ちょっと残念。イーヒッヒ」
茶川がそう言ったので、香織は俯いた。
(そうか、あのスーツは、それぞれのコンプレックスを補うのね。だとすれば……)
自分もスーツが欲しくなる茉莉であるが、その話は三人を帰してからにしようと思った。
真一も香織も、見た目だけは立派な田舎のヤンキーになった。
それを見てパンサーは更にビビり出した。
(あんな姿になったりしたら、ますますいじめられるよ!)
彼はゆっくりと後退り、「茶川トラウマ能力研究所(仮)」を逃げ出そうとした。
「待たせたな、黒田君。イーヒッヒ。さあ、着てみたまえ。イーヒッヒ」
いつの間にか茶川が回り込んで、背後から声をかけたので、パンサーは口から内臓が飛び出そうになった。
「ほい」
硬直してしまったパンサーに、茶川が勝手に特攻服を着せて、黒のサングラスをかけさせてしまった。
「おおお!」
すると、パンサーの身長は何故か縮み、スーツもそれに合わせて短くなった。
縮んだとは言っても、真一や香織と同じくらいになっただけである。
ゲジゲジだった眉毛は抜いたように薄くなり、厚ぼったかった唇も薄くなった。
彫りが深かった顔ものっぺりして、「ザ・日本人」という骨格に変わった。
髪型にはこだわりがなかったのか、丸坊主になってしまったが。
(こ、怖過ぎる……)
茉莉は生まれて初めて人にビビった。
パンサーの風貌は、ヤンキーどころが、その筋の方にも見えるくらい迫力があったのだ。
「え?」
パンサーはようやく我に返った。
「どうじゃ、自分の姿を見ての感想は? イーヒッヒ」
茶川がどこから持って来たのか、姿見を用意し、三人を写した。
「うわわ!」
「きゃっ!」
「ひいい!」
三人は自分の姿を初めて見て、仰天してしまった。
特にパンサーはちびりそうなくらい驚いていた。
(こんな姿で歩いたりしたら、間違いなく不良に絡まれてボコボコにされる)
それがパンサーの感想だった。
(憧れの不良……)
ところが、香織は違っていた。驚きはしたが、怖がったりしていない。
むしろ、喜んでいるのだ。彼女は自分をいじめている連中を見返したいと思っていたので、今の自分の姿を見て、湧き上がるものがあった。
(香織さんとお似合いじゃないか……)
一瞬、自分の姿にビビった真一だったが、香織と比べていい感じと思ったのか、ニヤついてしまった。
「君達はその姿の時はほぼ無敵じゃ。イーヒッヒ。県立鮒津高校を牛耳っている生徒会の横暴を許してはならない。悪を倒すのじゃ。イーヒッヒ」
カッコつけて決め台詞のように言い放つ茶川であったが、最後についてしまう「イーヒッヒ」が全てを台無しにしていると思う茉莉である。
(取り敢えず、三人を帰らせて、私用のスーツを作らせよう。締め上げてでも)
茉莉はチラッと茶川を見て決意した。
(そうだ。僕はそれが望みだったんだ。生徒会のやり方は間違っていると思っていたんだ。今こそ、立ち上がる時だ!)
真一は大きく頷き、香織を見た。そして、
「共に戦おう、香織さん。僕達の将来のために」
そう言って、香織の両手を包み込むように握った。
「え? ええ……」
香織は真一が何を言っているのかわからなかったが、取り敢えず返事をしておく事にした。
(どうしよう?)
まだビビっているパンサーであった。
「君達は今日からヤンキー戦隊グラスマンじゃ。イーヒッヒ。平和のために頑張ってくれ。イーヒッヒ」
茶川がまた誇らしそうに胸を張って告げた。
(ダサいネーミング……)
茉莉は白い目で茶川を見ていた。