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ヤンキー戦隊 グラスマン  作者: りったんばっこん(原案:小波奈子様)
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戦その玖 トラウマ能力の秘密

 英語教師の津野原つのはら那菜世ななせの尾行を無意識のうちに振り切った笹翠ささみどり茉莉まり一行。


 彼女達は、町外れに住む年齢不詳の奇人である茶川さがわ博士ひろしの運転する車で、彼の住居でもある「茶川トラウマ能力研究所(仮)」に向かっている。


 道すがら、茉莉は赤井真一、村崎香織、黒田パンサーに事情を説明した。


「という訳なのよ」


 茉莉は喋り疲れて、もうこれくらいで理解しろとばかりにそう言って三人を見た。


「了解です」


 ビビリのパンサーは、茉莉の目が怖いので、全然話がわかっていないにも関わらず、事を荒立ててはいけないと思う一心から、思わずそう言ってしまった。


「トラウマ……」


 真一は、その四文字に別の反応をしていた。彼は歯医者で痛い目に遭った事を思い出し、前歯がうずき出していた。


「トラウマ……」


 香織もまた、幼稚園児にいきなり後ろからスカートをめくられた事を思い出し、ゾワゾワしていた。


「百聞は一見に如かずじゃ。イーヒッヒ」


 意味もない笑い声を発し、茶川が口を挟んだ。


「君達は、その能力値が一般人に比べて異常なくらい高かったのじゃ。イーヒッヒ」


 いちいち話の最後に笑い声を持って来る奇妙な老人を見て、パンサーはすぐにでも車から降りたいと思った。


 だが、悪い事に、パンサーは真一と香織に押される形で、後部座席の右奥に座っている。そのせいで、車を降りるには二人を押しのけなければならない。


 そんな強引な事ができるくらいなら、ここまでビビリにはなっていないパンサーである。


「研究所に着けば、全てわかる。イーヒッヒ」


 茶川とは付き合いが長い茉莉でさえ、あまりにも「イーヒッヒ」をぶっ込んで来る彼に苛ついていた。


(このジジイ、調子こいてるんじゃないの?)


 真ん中の座席に座っている茉莉は、ルームミラー越しに茶川を睨みつけた。


 


 茉莉達の尾行を諦めた那菜世が校舎に戻るのを、生徒会室の窓から会長の明野明星あけのみょうじょう美奈子みなこが見ていた。


 その目は猛禽類のそれのように鋭く、また冷たい輝きを放っていた。美奈子はノックの音に振り返り、


「どうぞ」


 満開の薔薇の花を背負ったような微笑みを浮かべ、告げた。するとドアが静かに開き、副会長の二東にとうはやてが入って来た。


「ご依頼の、笹翠茉莉の過去の調査が終わりました」


 颯は抱えていたA4サイズの茶封筒を美奈子に差し出した。それには「杉下左京探偵事務所」と書かれている。

 

「聞いた事がない探偵事務所ね? 信用できるの?」


 美奈子は茶封筒を目を細めて見ながら、颯に尋ねる。颯は苦笑いして、


「心配要りません。元警視庁の刑事です。業界ではトップクラスの信頼度ですよ」


「元警察官だからと言って、信用できないわよ。クズはどこにでもいるのよ」


 美奈子の鋭い指摘に颯は顔を強張らせた。自分の応対がまずかったと思ったのだ。


 見た目は深窓の令嬢だが、美奈子は格闘技の達人で、生徒会はおろか、全校で一番強いのである。


 どちらかと言うと、腕力より頭脳で会を支えている颯は美奈子が切れるのが何よりも怖いのだ。


「承知しました。以後、気をつけます。ですが、仕事の内容は十分過ぎる程だという事だけはご理解ください、会長」


 颯は美奈子の間合いからゆっくりを離れながら告げた。美奈子は颯の怯えようにニヤリとしてから、封筒の中身を取り出した。


 そして、恐るべき速さで何十枚にも及ぶ資料を読み始めた。


「貴方の言う通りね。仕事はできる方のようだわ。以後、ここに継続して依頼するようにして」


 美奈子は自分の机の上にそれをそっと置いた。颯はホッとした表情になり、


「わかりました」


 美奈子が目で下がっていいいと合図したので、颯は会釈してドアに向かった。


「二東君」


 美奈子は窓の外を見たままで言った。颯はドアノブにかけていた手を放して振り向き、


「何でしょうか?」


 美奈子はそれでも窓の外を見たままで、


「明日の朝、緊急の会議を召集して。笹翠茉莉への対策を検討します」


「はい」


 颯は先程より深く頭を下げると、退室した。美奈子はそれを確認してから、もう一度探偵事務所の資料に目を落とし、


(笹翠茉莉……。貴女を私の奴隷ペットにしてあげるわ)


 フッと笑い、また窓の外を見た。


 


 茶川が運転する黒のワゴン車は、「茶川トラウマ能力研究所(仮)」と汚い字で書かれた木の板が下げられたログハウスの前に着いた。


「さあ、こっちじゃ。イーヒッヒ」


 茶川は素足にサンダルで降り立つと、スタスタと歩き出した。それに茉莉が続き、顔を見合わせた真一と香織が後を追いかける。


 心なしか、真一は顔が赤く、嬉しそうである。香織は別段何の感情も浮かんでいないようだ。


(逃げるなら今だ)


 そう思うパンサーであるが、どうしても足が言う事を聞かない。ビビリなので、そんな行動もできないのだ。


 ふと振り返ると、そこは辺りに人家もないような町外れだった。怖くて一人で逃げるなどできそうになかった。


「これが、わしが開発したトラウマエネルギーによる変身を可能にしたスーツじゃ。イーヒッヒ」


 部屋の壁にハンガーで吊るされた服を見て、胸を張る茶川だが、茉莉は、


(どこからどう見ても、ヤンキーの特攻服にしか見えないですけど)


 完全に呆れていた。


 それは真一と香織も同じだった。


(何これ?)


 やはりついて来てはいけなかったと思う二人である。


(こんな事なら、香織さんとデートをするべきだった)


 すでに香織とは交際していると妄想世界で確定している真一である。


(このおじいさん、どこかで見た事があるような気がするんだけど……)


 香織はジッと茶川の顔を観察している。それは当たっているのだ。


 茶川はかつて、香織を一週間つけ回していたのだから。ところが、


「か、かっこいい……」


 パンサーの反応は違っていた。


「はあ?」


 茉莉は思わず彼を見た。パンサーは茉莉の視線を感じてビクッとし、


「ああ、すみません、お話を続けてください」


 慌てて真一の陰に隠れて言った。


(黒田君、そんなに私が怖いの?)


 茉莉は茉莉でパンサーの過剰な程のビビりように憂鬱になりそうだった。


 特攻服は三着あり、赤と紫と黒である。


(まさかこのジジイ、赤と紫と黒だから、この三人に目をつけたんじゃないでしょうね?)


 茉莉が疑惑の視線を茶川に向けたが、茶川はそれには気づかず、


「このスーツとセットで、このサングラスがある。イーヒッヒ」


 そのサングラスも、赤と紫と黒だった。赤と紫はともかく、黒は完全に普通のサングラスにしか見えない。


「博士、これ、本当に特殊なものなんですか? どう見ても特攻服とサングラスにしか見えないんですけど?」


 茉莉が茶川に詰め寄った。それを見てパンサーがまたビクッとした。


「茉莉君、まだ話の途中じゃよ。イーヒッヒ」


 茶川は少しちびったかも知れないと思いながら、苦笑いして応じた。そして三人を見ると、


「とにかく、スーツとサングラスを装着してみてくれ。イーヒッヒ。そうすれば、それがどんなものか、わかる。イーヒッヒ」


 三人は顔を見合わせてから、救いを求めるように茉莉を見た。茉莉は頷いてみせた。


「まずは君からじゃ。イーヒッヒ」


 茶川は赤のスーツを真一に手渡した。真一はそれが見た目より重く、しかも自分の身長より丈が随分長いのに気づいた。


「サイズは気にせんでいい。イーヒッヒ」


 言われるがままに袖を通す。やはり、丈が長いので、裾を引き摺ってしまう。


「それから、このグラスを装着するのじゃ。イーヒッヒ」


 やはり言われるがままに、真一は赤いサングラスをかけた。


「うわわ!」


 その途端、長かった裾が短くなったような気がしたが、そうではなかった。真一の身長が伸び、身体が大きくなったのだ。


「ええ!?」

 

 これには茉莉と香織も仰天してしまった。パンサーに至っては、卒倒しそうだった。


「これが名づけて、トラウマエネルギー変換スーツじゃ。イーヒッヒ」


 誇らしげに語る茶川であった。

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