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消えたにわとり

~消えたにわとり~


 終わってみればなんてことはない話しだった。でも、やっぱり思い返せばはじまりは俺だったのかもしれない。考えなしに上野に大河原のことを話したのがいけなかったのかもしれない。そう、すべてはあの日に始まっていたんだ。


 自習の途中に俺は教室に戻って行った。あのまま保健室に居座ってもよかったのだが、やはり約束は守らないといけない。それに、早くこのぞっとした真実を伝えてやりたい。でも、伝えることがいいことなのか俺にはわからなかった。でも、いいか、悪いかを判断するのは俺じゃない。上野だ。教室に入る。一瞬静かになるが入ってきたのが教師でないとわかったらまたどこかから話し声がする。実際廊下にまで話し声が聞こえているのだから気にすることはないのにと思うがとりあえず俺は席に座る。さて、どう切り出そう。ま、話さないといけないのだから仕方ない。俺は椅子を動かして上野の方を向いた。

「上野さん、ちょっといいかな?」

 そう声をかけたら近藤と田川も近くにやってきた。どうせ話しは伝わるんだ。まぁ、いてもいいかと思った。とりあえず俺はメールを紙に書き写した分を見せた。説明するためにまずこれを書いたんだ。紙を見せる。田川が言う。

「なんかメール不自然だと思ったんだよね。でも、暗号とかわからないし」

 確かに俺も赤土さんに言われなかったら気が付けなかった。

「これ、今日授業でやった『折句』なんだ」

「え?そうなの。でも、ちょっと待って頭文字を取ったって文章になんてならないし」

 気が付くとちょっと近いところに近藤がいてびっくりした。椅子をずらして少し離れる。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと」

 いや、近すぎたから離れたと言いにくかった。多分紙に書いている文字が小さかったんだな。だから覗き込んだら近くに俺がいたという感じなんだろう。でも、びっくりした。

「で、どういうことなの?」

 近藤はキレるイメージがあるが見た目は美人だ。目鼻立ちがはっきりしていている。髪がこれで茶髪でなくて、キレなければ持てるのではと思ってしまう。あ、黒髪は俺の趣味か。だから不意に近くにいたらドキドキしてしまう。こんなところで恋に落ちるなんてトラップにはまるわけにいかない。それに今は上野だ。

「これは頭文字じゃないんだ。文章の最後の文字を抜き出していく」

 そう言って、最後の文字だけを抜き出して書いていく。

「ちょっと、これ何?」

 田川が叫ぶ。俺は上野の様子が気になって声をかけた。

「すまない、なんだかこんな結果にしかならなくて。その知らない方がよかったんじゃないかとか、どうしたらいいか迷ったんだ。けれど、やっぱり知りたいのではと思って」

 なんかまとまらない。言葉って本当に難しい。もっとうまく伝えられる方法があればいいのに。そう思ってしまう。

「なんなのこいつら」

 怒っているのは田川と近藤だ。

「そんな怒らないでよ。怒りたいのは私なのに」

 近藤は怒ると言うより意気消沈している。

「私ちょっと行ってくる」

 田川がそう言って教室を出て行った。まだ授業中ですよ。

「なんでそんな感情的になるかな。もっと落ち着けよ」

「羽島っちは感情的なの嫌いなの?」

 近藤がそう言ってきた。俺からみたら感情的な行動の代名詞の近藤が俺の横にいて田川が飛び出したことのほうがびっくりだった。

「うん、あんまり好きじゃないな。もっと平和的に話せないいのに」

「そうなんだ・・・私も気をつけなきゃね」

 なんだかそう言った近藤はすごくきれいだった。近藤が言う。

「でも、どうしてこんなめんどくさいことを二人はしたんだろうね」

 これは言うかどうか悩んだ。赤土さんが俺に教えてくれたセリフは今の上野には痛いんじゃないかと思ったからだ。上野が言う。

「多分だけれど、初めは隠れてメールするためだと思う。でも、多分二人で共有する秘密が余計に二人をくっつけたのかも」

 伝えなくても気が付くものなんだ。そう思った。

「言葉がでない」

「出てるわよ」

 近藤に上げ足を取られた。そのやり取りをみて上野が笑った。よかった。泣かれたらどうしようかと思っていたからだ。上野が言う。

「ホント、怒ろうと思ったら田川っちが先に怒るし、泣きそうって思ったら笑わせに来るし、ありがとう」

 そう言いながら上野は笑いながら泣いていた。下を向いて「よし」って言ったかと思うと国語辞典を出した。

「どうしたの?」

 近藤が言う。上野が笑ってこう言った。

「だって、二人だけの世界作ってくれちゃってるじゃん。だから、私もメールで告げようって思ってさ。しかも二人にメール。へへへ。だって悔しいじゃん」

 そう言って上野は紙に書きだした。しばらく見守っていたら、田川が帰ってきた。田川が言う。

「ち、授業中なんだよね。休み時間に乗り込んでやる」

「やめてよ。少なくともメールを送った後にしてほしい」

「わかった。じゃあ、放課後捕まえる。どうせ向こうは部活してるんだしね」

 田川はなんか自分のことのように怒っている。近藤が近くに来て小声で言う。

「田川っちは正義感強いの。そういう所が好きなんだけれどね」

 そうなんだ。そう言えば、最近田川も上野も近藤の悪口を言わなくなったな。まあ、近藤もキレなかったらいいヤツなんだって思えるようになった。とりあえず頷いてみた。

「ねえ、このメールで伝わるかな」

 そう言われてメールを見た。そう。このメールを送ったことをそう言えば田川は知らなかったんだ。その中身と、その意味と。


 次の日。学校について席に座る。

「おはよう、羽島っち」

 俺を羽島っちと呼んだのは上野だった。振り向くと髪が真っ黒になっていた。

「おはよう、ってか、どうしたのその髪」

「びっくりだよね」

 近藤もそう言ってきた。なぜか近藤はいつも近くによって来ようとする。

「ちょっとイメチェン。どう、羽島っち。黒髪好きなんだよね」

「え?そうなの?」

 近藤がやけに絡んでくる。

「そうなんだよね、昨日羽島っちから聞いた」

「うん、そう」

 近藤は自分の髪の端をつかんでみている。

「近藤は今のままでもいいんじゃない。黒髪は俺の好みなだけだし」

「私の髪が黒いのと今だとどっちがいい?」

 なんだか返答に悩むことを告げられているような気がする。近藤を見る。近藤の髪は少しだけ茶色い。結構自然な感じだ。しかもプリンにもなっていない。確かに黒髪だと栄えそうだが今のままでも他の男性に好まれそうだ。いや、B男あたりが近藤を良いと言っている。確かに見た目だけだと近藤は美人だと思う。化粧が濃いわけでもないし、派手なわけでもない。

「うん、今のままでいいと思うよ」

 そう言った。確かに自分の周りに黒髪が増えるのはいいと思うし、日本黒髪化計画とかあったら迷わず支持すると思うが、なんだか今近藤に黒髪化を言ったら変えてきたらどうしようという思いが先行してしまった。

「そう、よかった。ほかにある?」

「そうだな、笑顔がいいな」

 そう、キレるより笑顔がいいと思っている。近藤が言う。

「そう、わかった。気を付けるね」

 そう言って笑った笑顔はものすごくきれいだったのでびっくりした。

「はぁ~」

 なんかすごくため息が聞こえた。発信者は田川だ。いつもなら元気いっぱいなのに、今日は元気がない。

「どうしたの、どっか悪いの?」

 上野が田川にそう聞いている。近藤が言う。

「あれ、田川っち。今日ピアスしてないよね」

 言われたら耳にいつもピアスを付けているのだが今日はつけていなかった。田川が言う。

「見つからないの。昨日から」

 いつまでつけていたのかなんて全く覚えていない。

「あのピアスは特別なのよ。どうしても見つけたいの。でもどこにあるのか」

 どこで無くしたのかわかれば別なのだが、そうでない限り探しようもない。学校でなくしたのか学校以外でなくしたのかでまったく変わってくるし。近藤が言う。

「でも、昨日放課後はつけていたよね。ほら、上野っちの件で怒りに行くって言ってたじゃない」

 そう言えばあの後どうなったんだろう。そう思っていたら田川がこう言ってきた。

「怒りに行くために放課後グラウンドに行ったの。そしたら、大河原も吉野も顔真っ青にして携帯見ているの。なんかテンション低そうだったの。そこに私が出て行ったらいきなり吉野は逃げ出すし、大河原は謝り続けるし拍子抜けたの。でも、ケジメってのもあるじゃん。だから吉野を呼び出してもらったの。グラウンドでやりあうわけにいかないじゃん。だから人のいなさそうなところに呼び出したの」

 おいおい。フィクサー的な存在かと思っていたら意外と武闘派だったということを知った。うん、びっくりだな。しかも一人で乗り込むあたりが強いと思った。俺は180センチ、筋肉質ということから集団で襲われそうになったことはあるが。ちなみに、走って逃げて一人ずつ相手をするという事で乗り切ったが。田川が話し続ける。

「んで、人のいない所と思って体育館の裏とか雑草ばっかりで何もできないから鶏の飼育小屋前に呼んだんだよね。そしたらなかなか来ないから仕方ないから鶏を見ていたのよ。そう言えば、飼育委員会とかいるよなとか思いながらちょっと網ごしにちょっかい出したら動いて楽しかったの」

 え?これいつ本題来るのとか思ってしまった。ま、鶏小屋があるのは俺も知っているし、そこの卵を使って料理研究部がなんか料理を作っているのも知っている。というか食べてみたいと思いながらいつも興味ないふりをしている。確か鶏は二羽いたはずだ。C男あたりが、「裏庭には庭、庭には二羽にわとりがいる」とか叫んでいたのでそう覚えている。田川が話す。

「そしたらさ、いきなり後ろから押されたのよ。もうびっくり。網が壊れるかと思ったよ。んで、振り返ったら吉野がいたのよ。立ち上がったらなんて言ったと思う。『それ、雷轟丸?』とか意味わからないことを言ってきたの。だから『はぁ?何言っているの。私は田川よ』って言い返したの。そんな変な名前で呼ばれたくないじゃない。そしたら『わかんないか』とか言い出して、本当にムカついてさ。網に押し付けられたから仕返ししてやろうって思ったけれどいきなり暴力振るったとしてもスカッとはするけれど、あの吉野に何も伝わらないじゃない。だから『大河原とどうするの?』って聞いたの。そしたら、吉野こう言ったのよ。『ちゃんと付き合う。これからは』って。上野の気持ちも考えろってね。そう言ってやった。そしたら上野っちからメールが来ていて、すべてお見通しなんだって思った。勝てないと思った。だからちゃんと付き合っていこうって思ったって言われたの。上野っちわかる?」

 テンションが低かったはずの田川のテンションが上がっている。不思議なものだ。ひょっとしたら話したかったのかもしれない。そう思うことにした。上野が言う。

「うん、もういいの。私吹っ切れたし」

「イメチェンってその影響だったりする?」

 近藤がそう話す。上野は髪を少しさわりながら、えへへって笑う。田川が話し続ける。

「まあ、そんなこんなでなんかわけわからないし、とりあえずひっぱたいてみたけれどやり返してもこないし、むなしくなってそのまま帰ったの。んで、お風呂に入るときにピアスが亡くなったことに気が付いたの。もう、それでテンションが落ちて今に至るわけ」

 そう言って田川は机に突っ伏した。上野が言う。

「あのピアスってあの時のだよね」

「うん、そう。なんか片方だけつけるのもかっこ悪いから今日は外してきた」

 なんだか思い出のピアスらしい。俺は知らないけれど今聞くべきじゃないと思ったのでスルーをした。近藤が言う。

「あの時って?」

 空気読めよ。ってか、すごいな。俺にはそんな土足で上がり込むようなこと出来ないと思った。だが、田川も話したくないのかそのまま突っ伏している。俺はこう言った。

「とりあえず落としたと思われるところを探すくらいしかないんじゃないか?」

「もう、それやったんだ」

 田川が顔をあげてそう言った。なるほど、だからテンションが上がらないのか。でも、そんなにピアスって落としやすいものなのだろうか。俺はピアスをしないし、このがガタイでつけるとなんだか不良っぽく思われそうだ。そういえばピアスには意味があったような気がする。どちらかが「守る」でどちらかが「守られる」だったような記憶がある。ま、今はどうでもいいことなんだろう。そう思っていたらチャイムが鳴った。HRが始まる。加藤先生がやってきてこう言ったんだ。

「昨日、飼育小屋に近づいたものはいるか?もしくは今朝でもいい。壊されていて鶏がいなくなったんだ。心当たりがあるやつは手を挙げるように」

 ふと田川を見ると田川の顔色が真っ青になっていた。何があったと言うのだろう。後ろで手を挙げた人がいる。誰かわからないが、こう言った。

「今朝田川さんがその付近に行くのを見かけました。いつもあんな早く学校に来ないのでどうしたのかと思っていました」

 教室がざわざわする。加藤先生がこう言う。

「田川、どうなんだ。何か知っているなら教えてくれ」

「何も知りません」

 突っぱねるように田川は言い放つ。また、教室がざわつく。俺はこういう空気が嫌いだ。机をバンとたたいて立ち上がる。

「田川はそんなやつじゃない」

 そう言ったはずだ。でも、俺は何か間違えたのかもしれない。教室がさらに変な空気になった。

「保健室に行ってきます」

 そう言って教室を出た。チャイムが鳴る。教室を出てすぐ加藤先生に手をつかまれた。加藤先生が言う。

「なあ、羽島。お願いがあるんだが、田川に聞いてくれないか。何か知っているはずなんだ。羽島になら話してくれるかもしれないし。頼むよ」

 そう言われて俺は断ればいいのに柄にもなく頷いてしまった。もう一度教室の扉を開けて顔を出す。田川を見る。目があった。俺は手招きをして田川を呼び出したんだ。本当に柄にもないことをしたものだ。



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