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彼氏のログ

~彼氏のログ~


 近藤が俺に「サンキュー」と言った日。そうこの日は大きく俺の周りに変貌が起きた。

一体何があったのか振り返ってみる。振り返るのは俺の得意とする行動でもある。でも、なんでこうなったのかは俺にもわからない。まぁ、一つ言えることは俺もあの赤土さんと出会い「最低」と言われてからちょっと考えようと思ったからの行動なのかもしれない。

 けれどなかなかに難しいことが多い。これは文化の違いなのだろうか。

とりあえず、今日は赤土さんにお礼を言いたい。そう思っていた。だが、学校に着くとすぐに加藤先生に呼び止められた。

「昨日は助かったよ。羽島の言ったとおりだった。近藤の家には下駄箱の上に封筒とメモが置かれてあった。近藤を落ち着かせるために羽島から言われたことを話したんだ。はじめは『そんなことはない』の一点張りだったが、家について状況が変わった。そこで誰の推測だったのかと聞かれたから『羽島』だよ。と伝えておいた。『羽島』は誰も疑っていなかったんだ。そして、『近藤を信じていた』みたいだよって伝えておいたよ。ま、後で近藤からお礼を言われるかもしれないぞ」

 そういう事を言われた。俺がナゾを解いたわけではない。ナゾを解いたのは保健室の君と名乗っていた赤土さんだ。あの黒く長くキレイな髪をした、小さく日本人形のようなカンジの彼女だ。白い肌が本当に日本人形のように見える。やはり日本人は黒髪だよなと思うのは俺だけだろうか。まあ、俺の髪が赤っぽいというか赤に近いというか、赤そのものだからそう思うのかも知れない。

 今日も学校までを歩いていると意味不明なくらい道を開けてくる生徒がいる。俺は確かにごつい体系をしているが、道の端までいかないといけないくらい横幅はない。痩せようと思っているにも関わらずまたしても体重が増えてしまった。不思議なものだ。夜なんて鳥のささみをメインにした料理なのにだ。その食事を取った後痩せるために筋トレとランニングを行う。走る時は顔を見られないようにパーカーを深くかぶっている。顔というか髪の色を隠したいのだ。暗いとはいえ明かりがあたると赤い髪が目立つ。それを避けたいのだ。

 とりあえず教室にカバンを置いてから保健室を覗きに行こうと思っていた。教室に着いて席に座ったら近藤がいきなりこっちにやってきた。

「あのさ、サンキュー」

「おう」

 不意打ちに俺は弱いらしい。俺はちゃんと返事ができたかどうかわからなかった。その様子を見ていて、佐川だか香川だか田川だかわからない、なんとか川が近藤に言う。

「どうしたの?」

 そりゃそうだろう。クラスでも一人で浮いている俺に声をかけるなんて奇抜なことをしたのだ。多分そんなヤツは今までいなかった。俺がどれだけ空気になろうとしても周りは俺を怖がっていた。俺は妖怪か何かかよ。畏れとかあるのか?なんか思ったのも事実だ。

 だが、そんな俺に普通に近藤は話しかけた。それだけで近藤は注目されている。なんだか近藤は誇らしげに胸を張っている。不思議なものだ。俺と話すのがそんなに誇らしげに思うことなのだろうか。わからないがまあいいや。考えてもわからないことは考えないにこしたことはない。ただ、感謝を伝えられるのっていいことだって思った。

 近藤が何とか川に昨日なくなったと思っていたお金の場所を羽島くんが言い当ててくれたことを伝えた。近藤のヒステリックが収まり笑顔になっている。それを見て何とか川が次に俺をすごい人を見るような目で見てきた。

「羽島くんってすごいんだね」

 まさか何とか川にまで声をかけられるとは思っていなかった。俺は「たまたまだよ」とだけ伝えた。ここであの保健室の君こと赤土さんとの出会いについて説明をしようと思ったが俺にそこまでうまく説明できる自信がなかった。だから「たまたまだよ」としか言えなかった。それが勘違いの始まりだったのかもしれない。

「なんだかもっと話しにくい人かと思っていた」

 近藤がそう言う。近藤は少し面長だけれど目鼻立ちははっきりしている。まあ、黙っていればというかヒスっていなければ美人だと思う。だが、このクラスにいるものは近藤がいつ、どのタイミングでスイッチが入ってキレるのかがわからないのでビクビクしている。こうやって穏やかにしていればいいのにと思うが、そう言うことは心の中で思うだけにしておいた。

「そんなに壁を作っていたかな?」

 そう言いながら自分で壁をわざと作っていたことをごまかした。ええ、作っていました。がっちりガードをしていましたから。まあ、いきなりは変われなくても少しずつ変わって行こうと思った。

「いつも寝ているイメージがあるよね。授業中は起きているけれど」

 おや?何とか川もやけにやさしい。そういえばこの何とか川は男性がいるときと女性だけの時では一気に態度が変わるのだった。どちらかというとのっぺりした感じの顔をしている。それをメイクでなんとか盛りたてている。メイク美人といったら怒られそうだがそう見えるのだ。

「うまく説明ができない。迷惑をかけていたらすまない。○川さん」

 川の前はごまかしてみた。

「田川でいいよ」

 どうやら何とか川の前の文字は「田」らしい。話してみるとわかるものだ。時計を見るとまだ時間的余裕はある。とりあえず俺は「ちょっと行くところがある」とだけ言って教室を出た。行く先は保健室だ。

 廊下を走ってはいけませんというルールがある。だから俺は急いでいるが早歩きをしている。ルールというものは守るためにあるからだ。ルールを破ることは簡単だ。だが、それは俺が忌み嫌っている不良と思われてしまう。

 俺は180センチもあり筋肉質なこと、赤い髪をしていることから不良に絡まれることが多かった。仲間になろうと誘われることだってあったが、話してみるとこれまた話しがかみ合わない。俺は平和と平穏を好むのに彼らは喧嘩を自分から売りに言ったりする。俺とポリシーが違いすぎるのだ。だから相容れないものとしてしか認識がない。同じと思われたくなんだ。だから違うことをアピールするために勉強も力を入れるし、授業も聞く。ルールだって守る。だが、不思議と皆が「お前は不良だろう」というレッテルを勝手に貼ってくれる。

 そんな中俺が感謝されたんだ。まさかこんなことになるなんて思っていなかった。赤土さんに感謝を伝えたい。

 保健室の扉をガラガラと開ける。

 保健室の中にいたのは養護教諭の西里先生だけだった。

 西里先生が言う。

「お、昨日の青年だね。そういえば君派手な髪しているね」

「これは地毛っす」

「あ、君が例の羽島くんか」

「有名なんですか?」

 どうやら教師の中でも俺は有名らしい。何も騒ぎを起こさずにいるというのに有名になってしまう。この髪のせいなのだろうか。

「まあ、ちょっとね。で、どうしたの?」

「いや、赤土さんが来ているのかと思って」

「あ、授業がはじまらないと赤土さんは保健室に来ないわよ」

 そう言われて残念に思った。いや、不思議というべきかもしれない。ま、もうすぐ授業が始まってしまう。俺は教室に戻ろうと廊下を歩いていた。急ぐ必要もない。授業前のHRがあるからだ。そう思いながら俺は赤土さんがひょっとしたら近くにいるのではと思って探してみた。意外と近くにいた。そう、中庭のベンチに座っているの発見したのだ。

「よう」

 声をかけると松葉杖を盾にして俺に向かう。

「何です、か?また、居場所が、なくなったの、です、か?」

 黒髪を振り乱しながらそう言ってくる。

「いや、そのありがとうっていいたくてな。また保健室に行ってもいいかな」

「来ないで、くだ、さい」

「わかったよ、赤土さん」

 一瞬変な間があった。赤土さんが言う。

「ストーカーです、か?」

 そうか、名乗ってないのに相手が名前を知っていたことに恐怖を覚えたのか。

「いや、名前は保健室で聞いたんだよ。その悪かったよ」

「わかり、ました。羽島ストーカー、さん」

 どうやら俺は赤土さんの中ではストーカー決定らしい。チャイムが鳴る。

「授業に行って、くだ、さい」

「じゃあ」

 そう言って俺は教室に向かった。教室ではすでに教師が授業を始めようとしている。なんだかデジャブのような気がしたが気にせず席に座る。授業に間に合わないというのは不良っぽいような気もするが授業をはじめている教師の前まで言って謝るのもどうかと思ってしまう。言われたら謝ろう。そう思っていたが何も言われなかった。授業は古典だった。古典は苦手だ。日本ですら難しいと思っているのにそのまた古典なのだ。これがわかるってすごいと思いつつ、これは何の役に立つのだろうとも思ってしまう。ま、役に立つのかと言われたら三角関数なんか日常で使うことはない。多分何かの研究をしない限り出くわさないのではと思ってしまう。町を歩いていてコサインとかが必要になるシーンが思いつかない。だからと言って授業をサボるわけにもいかないので勉強を続ける。

 そういえば5月に実力テストがあるのを思い出した。このテストである程度の学力が把握されるのだろう。不良でないことはここで証明しないといけない。そう思っていたら横から手紙が届いた。手紙には「羽島くんへ」と書いてある。渡してきたのが近藤だったからびっくりした。こんな青春イベントがやってくるなんて思っていなかった。授業中に女子から手紙だと。一体何のフラグだ。ひょっとしたら今日これから俺は死ぬのではないかと思ってしまった。だが、内容は可愛いものじゃなく俺を何かと勘違いしているようなものだった。

 内容はこうだ。

「私の友達の上野ちゃんが、彼氏が浮気しているんじゃないかって不安がっているの。ちょっと話しを聞いてあげてくれないかな?」

 俺はどうやら便利な推理する人になったらしい。ドラえもんのようなものか。だが。俺は青くない。どちらかというと赤い髪に白い肌だ。白い部分くらいならばかぶっているがやはり赤と青とでは全く違う。そっと後ろを覗き見ると上野の田川が祈るように俺をみている。俺は畏れられる妖怪から神様にでもなったのだろうか。賽銭がもらえるわけでもない。ただの便利屋でしかない。まあ、ありがとうと言われるとうれしいが、自分で解決できるわけでもない。

 いや、待てよ。もしかしたらこういうナゾがあったほうが赤土さんに会って話すネタができるのではと思った。俺はどちらかというと面長で黙っていれば美人のヒステリック近藤や、のっぺり化粧美人の田川、頭がプリンになっている狐女上野より、このクラスならば黒髪がキレイでおしとやかな上岡さんがいい。いや、結構理想に近い日本人美人は赤土さんだ。小さく弱々しい日本人形のような白い肌に黒い髪。ちょっと毒舌だが、ゆったり話す癒し系だ。うん?毒を吐く癒し系ってなんだ。イヤ死刑なのだろうか。

 うん、よくわからない。けれど、もう少し赤土さんのことは知りたい。特にあの足のことは聞いてみたいと思う。保健室登校をしているのも気になる。

 それに、昨日のことで画期的に俺の環境は変わってきている。それもまた伝えたい。伝えたいことが多いが授業中のためどうすることもできない。

 俺はとりあえず手紙に「OK!」と書いて近藤の机に投げつけた。なかなかいいコントロールだ。教師が黒板に清書している時に放物線を描いて近藤の机の端に届く。近藤はその手紙を見て小さくガッツポーズをした。それを見て田川も上野もガッツポーズをする。

 ま、俺には神通力も何もないのだが、それをうまく伝えられるとは思えなかったのでそのままにしておいた。

「そこ、何している?」

 古典の先生が田川と上野を指している。古典の先生は一言でいうとマイペースなおばさんだ。歳は40代くらいなのだろうか。結構疲れた感じの人だ。だが、いつもピンクのスーツを着ている。クラスでのあだ名はピンクから派生してピンになっている。怒る時も授業の時も自分のペースだ。スイッチが入ると語りだす。スイッチが入ると授業をしつづける。中間はない。つまり1時間まるまる話し込む時もあれば、雑談なしで授業が続くこともある。雑談が始まると面白くないので寝るか参考書を開いて問題を解いている。この雑談も「私が若い時は」という学生時代のときの話しから入る。しかも大体同じ話しだ。昔はもっとおしとやかだったとか、手紙を書いて相手に思いを伝えるのが楽しかったなど青春が一番楽しかったことをアピールするのだ。そして、最後は「あなたたちは今その青春の真っ只中にいるのよ。もっと青春を謳歌しなさい」と終わるのだ。今日は授業の日なので一旦注意をしてもすぐに黒板につらつら書き始め、そして教科書を読み始める。

 そういえば、このピンク先生の名前が何だったのかが思い出せない。赤土さんに倣えば古典の君とかになるのか、ピンクの君になるのだろうが、そんなことはどうでもいい。

 とりあえず、俺としては授業がつつがなく進んでくれさえすればいいのだ。

 今授業でしているのは「伊勢物語」という古典だ。どうしてこう昔の人は直接伝えずわかりにくいことをするのだろう。

 そう、思いながら授業を聞いていた。

 今日の授業の和歌の内容は東国の方へ、友達としている人一人二人を誘って行った。三河の国八橋という所に行ったとき、その川のほとりに、かきつばたの花が面白く咲いているのを見て、木蔭に馬から下りていて、かきつばたという五文字を句のはじめにおいて、旅のこころを詠もうとして詠んだ歌だそうで、在原業平朝臣という俺は会ったこともない人が書いた?詠った?らしい。

 なんで、こんな回りくどいことをするのだろう。しかも使者がその和歌を届けるというシステムだ。もし、この時代に携帯があってメールなんかできたら画期的に変わったんだろうな。なんて思いながら黒板を清書していた。

予定通り授業は進んだみたいだ。ひと段落着く。ちなみに、このピンク先生はチャイムが鳴ろうが区切りがくるまで授業を続ける。たまに次の先生がやってきて困っている時だってある。だが、今日はチャイムが鳴る少し前に区切りが来たらしい。この時が実は一番めんどくさいのだ。無言で生徒を一人ずつ眺めてくる。にらめっこなのだろうかこれは。不思議な空気が流れている。しかも静寂なのだ。とりあえず、俺は寝たふりをすることに決めた。だって、目があってにこりと笑ったほうがいいのか、それともにらんだほうがいいのかわからないからだ。一言でいうとピンク先生に付き合ってはいられないからだ。

静寂を苦痛と感じているのは多分俺だけじゃないはずだ。クラスの半分くらい目線を合わせられた時にチャイムがなった。ピンク先生が教室から出て行く。ま、俺はそのまま寝たふりを続けていたら近藤が話しかけてきた。

「ねえ、ピンってまじでヤバいよね。あの儀式みたいなのマジなんなのって思う」

 ちなみに、俺はこういう軽い話し方があまり好きではない。ちゃんとした日本語を話せばいいのにと思う。とりあえず俺は体を起こして近藤に向かい合った。

 近藤は少し面長だけれど目鼻立ちははっきりしている。多分キレなければもてるのだろうが如何せんどこがキレるスイッチなのかわからない。とりあえず今は笑っているのでスイッチは入っていないみたいだ。

「そうだな」

 俺は生返事だけをした。眠いわけじゃない。いきなり話しかけられたりしたら友達にでもなったと思われるじゃないか。というか友達の定義って何だろうとか思ってしまった。別に友達になりましょうっていう誓約書を交わすわけでもない。いつから友達と呼ぶ関係になるのだろう。朝、挨拶をしたら友達なのか?じゃあ、校門前に立っている教師は友達だらけになってしまう。携帯番号を交換したら友達なのか。俺の携帯のメモリーは空に等しい。そういう意味では俺には友達はいない。いや、いつでも孤立して孤独だ。だからこんな風に話しかけられたら友達ができてしまったのではと勘違いをしてしまいそうだ。そう思っていたら上野がやってきた。

「ねえ、相談乗って欲しいんだけれどいい?」

 そういえば、さっきの授業で手紙が来ていたな。

「私の友達の上野ちゃんが、彼氏が浮気しているんじゃないかって不安がっているの。ちょっと話しを聞いてあげてくれないかな?」

 こんな感じの手紙だ。上野が言う。

「はじめまして、私上野みくって言います。みくって呼んでください」

「いや、上野さんで」

 なんで名前で呼ばされなきゃならんのだ。ドキドキしてしまうだろう。ま、俺の好みはプリン頭じゃない真っ黒な髪の女性だ。そういう意味ではこの3人の女性は皆好みから外れる。上野が言う。

「まあ、いいわ。で、相談なんだけれど、2組の大河原くんって知っている?」

 大河原といわれても誰かがわかるのがいやだ。体育の授業で一緒になるからだ。背が高いので何かと一緒に組まされることが多い。茶髪で背が高い男性。一言でいうと「勝ち組」だ。言葉を選ばなければ「遊んでそう」な男だ。多分不良っぽい雰囲気を出しているが、俺にはどこか及び腰だ。身長はあるが華奢なのだ。確かサッカー部に入っているとか言っていたがなんであんなに体が細いのだろうって思ったのも事実だ。

 俺は中学までは『こっち』にいなかったため良く知らないがこの高校ではサッカー部はそこそこ強いらしい。もちろん大河原はレギュラーには選ばれていない。身長は高いが当たり負けをするので体作りを言われているらしい。こういう情報は孤独を愛する俺が習得した聞き耳スキルによるものだ。身長のためか俺もサッカー部に誘われたこともある。だが、俺は中学で行っていたのはバスケットだ。一度バスケット部は覗きに言ったがほとんど練習もしていない同好会みたいだったので入るのは諦めた。

「ああ、知っているよ」

 そう答えたら上野はこう言ってきた。

「私、告白されて付き合っているんだけれど浮気されているみたいなの。どう思う?」

 情報少なすぎる。さすがにこれだけだと誰も何もわからないだろう。そう思っていたら上野は更に続けてきた。

「実は一回浮気されているのよね。サッカー部のマネージャーの吉野って子に。なんか小さくて黒髪おかっぱの目立たないヤツなんだけれど、ちょっかいだしてきたみたいでさ。んで一回ちゃんと大河原と吉野ってのと3人で話し合って終わったはずなのにまたなんか大河原と吉野がメールしてるのよ」

「メール?」

「そう、私同意得て大河原の携帯のログを取っているの。誰とどういう内容でメールしたとか、電話したとか、どこに言ったとかGPSでわかるの。なんかこの前は携帯家に忘れたとか嘘っぽいことを言うし」

 なんだか上野を見ているとこの子もヒスってくるのではと思った。なんで皆騒ぎ立てたがるのだろう。不思議だ。平和を愛する人はここにはいないのだろうか。黙っていたら田川がこう言って来た。

「まさかあんたカレログを入れたの?」

「カレログはサービス終わっているからカレピコというのを入れているわ。カレログのままがよかったのに」

 そう言えばそういうニュースを聞いたことがある。彼氏の携帯にアプリをダウンロードしたらメールや電話の履歴がわかるって。もうプライバシーなんて存在しないんだなって思ったことがある。上野が言う。

「まあ、そういうわけでメールとかしているのが信じられない。きっとこっそり会っているはずよ。だから調べて」

 なんだがすごい勢いで何も言えなくなった。だが、横を見ると近藤と田川が俺を見ながらニヤニヤしている。そういうことか。俺は今人身御供になったことがわかった。多分そうなのだろう。とりあえず、俺は大河原と吉野の二人のメールを転送してもらうことにした。

 まず、気がついたのはやたらとメール数が少ないということと長いということだった。

「大河原ってメールすぐに返さないの?」

 俺は気になったので上野に聞いた。返信の最短でも2時間。長いと1日経っている時もある。これは吉野も同じだ。もし恋焦がれている相手ならいち早くメールを返したいと思うだろう。上野が言う。

「そう、そこよ。それが吉野がちょっかい出しているっていう証拠よ。私とのメールなんて速攻で帰ってくるのよ」

 胸を張って自慢された。

「大事にされているんだな」

 そう言うと上野は破顔した。でも、一瞬だった。

「私、安心したいの。だから調べて。何かあるのならとっちめてやるんだから」

「誰を?」

「もちろん、吉野を」

 俺は吉野という子を知らない。もし、まともな子なら大河原は吉野を選んだほうがいいのではと思ってしまった。まずメールを読もうかと思ったがそこそこメールはあるので後にしてとりあえず大河原に話しでもしてみようかと思った。今日の3時間目はちょうどいいことに体育だ。準備体操で体格が近いのでいつもコンビを組まされている。

 そう言えば今日はずっと後頭部に視線を感じる。A男たち男性4人衆だ。なぜか会話に混ざりに来ない。いつもなら近藤や田川に話したいはずなのに。あ、俺がいるからか。そんなに俺が怖いのだろうかと思ったが、180センチの赤い髪をした目つきの悪い男性を怖くないというほうがおかしいのかも知れない。

 しかも、俺はまた筋肉がついたらしく体育で着替えると胸や腹がわれているためかすごいため息がどこからともなく出てくる。鍛えたくて鍛えているわけでもないのだが。

「ま、今日の体育の時に大河原にそれとなく聞いてみるよ」

「ありがとう」

 ま、ありがとうと言われて嫌な気はしない。今まで言われることなんてなかったからだ。というか、会話すらまともにしてきた記憶がない。何とかなるものなんだなと思った。

というわけで2時間目の記憶はノートを黙々と書いていたくらいで3時間目の体育がやってきた。




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