七不思議(2)
(2)
もやもやしたまま翌日を迎えた。とりあえず相談するしかない。でも、誰に何をどう話したらいいのかわからない。とりあえず去年取材したという葛原という人物にまず会ってみようと思った。
「おはよう」
教室に入る。そういえばもし赤土さんが幽霊だとしたらいつ学校に来て、いつ学校を出て行っているのかをみればいいのではと思った。流石に尾行するとなると取材のこともあるから近藤にも田川にも言わないといけない。それはうまく説明できそうにもないから下校時に尾行はあきらめることにした。でも、俺の席は結構教室も真ん中付近だ。窓の外を眺めるにしては無理がありすぎる。やっぱり登校時を見つけるのが一番なのかもしれない。明日は朝早く来てみようかと考えてみた。
「おはよう、羽島っち」
そう言ってきたのは近藤だった。田川はノートを開いて近藤と話しをしている。上野はビミョーに距離を取っているのがわかる。
「ねえ、見て見て」
そう言って田川が差し出したのはノートだ。そこには昨日新聞部の新谷さんからもらったメモがまとめられている。上野が言う。
「だから私苦手なんだって。そういうの。羽島っちはどうなの?」
「まあ、得意ではないけれど実際幽霊より人間の方が怖い」
なんか言ってから周りの空気が変わった。上野が言う。
「まあ、確かにそうだね。羽島っちはこの取材頑張るの?」
「やりかけたことを途中で投げ出すのって好きじゃないんだ」
そう、それに知りたいんだ。あの保健室の怪談が本当なのかどうなのか。いや、赤土さんのことなのか違うのかだ。上野が言う。
「わかった。じゃあ、協力する。でも、場所に行くのは勘弁してほしいんだ。どういう噂があるのかだけ他の子に聞いてみるよ」
そう言って走り出していった。よっぽど田川のノートが見たくなかったのだろうかと思ったが確かにどういう噂があるのかは知っておくほうがいいと思った。それにこのメモが嘘の塊かもしれないのだから。俺はこう言った。
「まず、去年取材したっていう人の話しを俺は聴いてみたいんだけれどいいかな?」
そう言ったら近藤も田川もびっくりしていた。田川が言う。
「うん、いいけれど、どうして?」
「なんか、七不思議が消えるって本当なのかなって」
噂が消えるのならわかる。でも銅像とかがなくなるのは変なことだ。だから知りたいと思った。上野が走って戻ってきた。
「ちょっと、まじ怖い。まじで、まじで」
どうやらまじを伝えたいらしいことはわかった。
「落ち着いて」
「どーどー」
ん?どーどーって言っているのは田川だった。そういえば近藤がキレた時も誰かがそう言っていた気がする。クセなのだろうか。それとも焦っている人を見ると人でなく馬に見えるのだろうか。上野が言う。
「さっき加藤先生に聞いてきたんだよ。うちの学校に二宮金次郎像ってあったのって。そしたら去年まではあったけれど色々あって、今年は撤去したらしいの。なんか色々の所は話してくれなかったんだけれど確かに去年まではあったみたいなの。それと、音楽と生物の先生にも聞いたんだけれど、去年はベートーベンの絵を飾っていたらしいんだけれど不評だったから外したそうだし、骨格標本は去年破損して今年は購入していないからないらしいの。なんだか心臓のドキドキ止まらないよ。どうしよう、どうしよう」
いや、ドキドキが止まるほうが危ない。ってか、多分偶然の様な気がする。そう、階段があるからだ。きちんと書かれていなかったが調べると12段の階段が1段増えるというのがこの手の七不思議にはよくあるものらしい。ということは、去年は12段だったと考えるのが振るうだろう。そうなると階段が2段も増えることはおかしい。そんな工事を行うとも思えない。だからこそ聞きたいんだ。葛原さんという人に。
「なあ、上野。後で2年の葛原さんとこに一緒に聞きに行かないか?」
「え?私?私でいいの?なら行く」
なんか自分で質問して自分で納得をしたみたいだ。
「近藤と田川は後2つの不思議を調べてほしいんだ。階段以外の」
そう言うと近藤はちょっとだけ表情が暗くなった。怖いのかと思った。仕方がない。俺は首からかけていた十字架を取り出した。
「これ、持って行けよ。怖いんだろう。でも、大事なやつだから後で返せよな」
そう言って十字架を渡したら笑顔になった。やっぱり近藤は怖かったんだろうな。近藤が言う。
「ありがとう。今度私に十字架ちょうだい」
おいおい、なんでいきなり頂戴となるんだ。でも、家に昔使っていたヤツがあったな。
「昔のでよかったらやるよ」
多分信心深いのだろう。そう思うことにした。いまいち近藤の行動はわからない。しかもそう言ってから上野がやたらと睨んでくる。元々狐顔だから余計に怖く見えてくる。笑っているとかわいいのにちょっと睨むと怖く見えるんだ。上野が言う。
「早く2年の教室に行きましょう」
そう言うなり腕を引っ張るようにして教室の外に連れ出された。まあ、早いに越したことはない。教室を出ると上野の機嫌は直っていた。本当に女性って不思議な生き物だと思った。
2年の校舎と言っても作りは1年の校舎と変わらない。ただ、当たり前だが知った顔がいないのだ。2年3組の教室の前まで行く。早くしないと朝のHRがはじまってしまうので急いでいた。けれど、顔も知らない人を探すのは難しい。そう思っていたら上野は教室に入り、一番近くにいた人に「葛原さんってどの人ですか?」と聞いていた。幽霊が怖いと言っていたがこういう知らない所に飛び込むことは怖くないんだとわかった。指差した先に居たのはメガネをかけた背も低い男性だった。
「葛原さんですか?」
上野が話しかける。
「え?そうだけれど。あ、そうか君たちが、新谷さんが言っていた1年生だね。何が知りたいんだ?いや、どこまで知っているのかな?」
知っている?何をだ。わからない。とりあえず周りを見る。当たり前だが歓迎はされていない。俺は上野の後ろに立ってこの葛原という男性を見つめた。おどおどしている。何におびえていると言うのだろう。とりあえず知りたいことを聞く。
「聞きたいことがある。去年の七不思議の取材の件なんだ。階段が12段だったのが今は14段になっている。その理由を知りたい」
そう言ったら、葛原はこう言ってきた。
「いや、1年前も14段だったよ。夕方になると13段になって1段減ったんだ。でもそのことを書いてしばらくしたらその現象は怒らなくなった。それに、取材はきちんとしたよ。もし気になるならおととしの記事を調べてみるといい。まったく違う内容だから」
そうか、過去の内容をさかのぼればいいのか。それにもう一つ教師にも聞いてみようと思った。どこかおかしい。この七不思議は。違和感があるんだ。どこにとは言えないけれどそう思えてくる。葛原が言う。
「そろそろ教室に戻ったほうがいいよ。HRがはじまるからね」
やはりどこかおどおどしている。そして何かを気にしている。目線の先にあったのは誰も座っていない机と椅子だった。机の中を覗くと何も入っていない。休みの人の席なのだろうか。そう思ったがチャイムが鳴ったので俺と上野は教室を出て、自分の教室へと走って戻った。多分何か確認をしわすれたはずだ。でも、何を忘れたのか思い出せなかった。
教室に戻ると加藤先生がすでに教卓の前に立っていた。加藤先生が言う。
「早く席につけ。それと連絡事項があるからな。、屋上はしばらく使用できなかったけれど、今日から許可制で使用できるから」
言われて意味がわからなかった。いや、意味はわかるんだ、ただ理解ができない。だが、俺はそこに何度も言っているのになんで使用できないとなっているんだ。わからない。
「ちょっと席をはずします」
そう言って俺は教室を出た。なんだか落ち着きたかった。こういう時は屋上に限る。今日も気持ちのよさそうな晴れの日だ。ちょっとだけ風が強いのが気になるがちょっと屋上で考えたいと思った。
屋上に上がると風がちょっとだけ強かったが太陽の柔らかい日差しが気持ちよかった。空を眺めながら考える。そんな簡単に七不思議がかわるものなのだろうか。もしそうなら七不思議以上の不思議だと思う。いや、不思議が消えることが7番目の不思議なのだろうか。だが、それならば6つを知ったものだけが7つ目を知ることができるに当てはまらないように感じる。それに何かが引っかかる。何が引っかかるのかわからないが引っかかるのだ。
ぎぃぃぃ。
ゆっくり扉が開いた。そこに立っていたのは田川だった。田川が言う。
「やっぱりここにいた。私も教室出てきちゃった」
風が強いせいがスカートをノートで抑えながら近づいてくる。ノート?一体ここで何を書こうというのだろう。教師も黒板もないのに。そう思っていたら田川がこう言ってきた。
「昨日の新谷さんのメモをまとめたの。そしたらちゃんとした噂は6つだけ。それをまとめたのを話したかったの」
言われてノートに書かれているものを見た。
・多目的室にある開かない扉。開けると異世界に連れて行かれる。
・夜中に音楽室のピアノが勝手に鳴り、曲を最後まで聞いてしまったら死んでしまう。
・4時44分に家庭科室の奥にある三面鏡を覗き込んだら鏡の奥から出てくる悪魔に連れ去られてしまう。
・中庭にある桜のうち校門から4番目の桜の下に死体が埋まっていて、夜な夜な俳諧をしている。出くわすと桜の下につれていかれる。
・技術準備室に真っ赤に染まったはさみがある。手にしてしまうと身近な人を切りつけてしまう。
・保健室に日本人形のような片足がない女の子がいる。その子と仲良くなると足を切られてしまう。
確かに6つだ。だが、おかしい。何かがひっかかる。それにもしこの不思議を取材してしまって本当だったら取材者がいなくなってしまう。田川が言う。
「多分、この中のうち多目的室にある開かない扉。開けると異世界に連れて行かれるは間違いだと思う。さっき加藤先生がこの多目的室の奥にある屋上が使えるようになったと言っていたから」
なるほど、さっきの屋上はここではない屋上だったのか。確かに一度行った時に開けることができない扉があると思っていた。では、今回は七不思議ではなく六不思議なのだろうか。いや、もう一つだ。どうしても最後の「保健室に日本人形のような片足がない女の子がいる。その子と仲良くなると足を切られてしまう」が引っかかっている。いや、ずっと何かがひっかかっているのだ。だが、それが何かわからない。
「でも、なんかおかしくない?」
「確かに、何かが引っかかる」
どうやら田川も何かひっかかるものがあるらしい。田川が言う。
「どうしてこれで金一封が出るんだろう」
なんかそのセリフで色んなことが見えてきたような気がする。後は近藤に聞くだけだ。そう気づいたら教室に戻るだけだ。
「戻るの?」
「ああ、近藤に聞きたいことがあるから」
そう、それでこの謎のピースはつながるはずだ。
教室では当たり前だけれどすでに授業が始まっていた。授業は数学Ⅰだ。なんかⅠとⅡの違いがいまいちわからない。ただわかることは先生が違うという事だ。教室の扉をガラガラとあける教師は俺を見るが何も言わない。一緒に入る田川にも同じだ。いや、何かを言おうとしたのはわかるが何も言ってこなかったから大丈夫なのだろう。席に座ってノートを一部切り取ってメモにする。近藤にそのメモを投げる。帰ってきた返事を見てやはりと思った。気持ちが昂る。
「すみません、保健室行ってきます」
俺はそう言って保健室に向かって歩き出した。
保健室の扉をガラガラっと開ける。中央の机にこちら向きでいつものように赤土さんが座っている。赤土さんが言う。
「保健室の先生は、いま、せん」
いつも保健室の先生はいない。これを7不思議の一つに入れたいくらいだ。
「今日は赤土さんに聞きたいことがある」
「話したく、ない、です」
松葉づえを盾にしていつものように話してくる。ゆっくりで、そしてとぎれとぎれだ。でも、どうしてか安心してしまう。
「聞きたいことは、2年の新谷さんのことだ」
そう言った時に扉から大きな音がした。そこには近藤が立っていた。近藤が言う。
「羽島っち?何これ?どういうこと?何言っているかわかんないよ!」
「ちょっと待って」
「いや~」
叫びながら近藤は走って行った。俺は何を間違えたと言うんだ。わからなかった。ただ、少しだけ肌寒いと思った。強く吹いている風のせいだと思いたかった。そう、思うことにした。ただ、なぜかすぐに俺は振り返れなかった。




