あいつの行き先
「あれ、ウィン。どうしたんだ?そんな急いで」
医局に戻るとニコルが研究レポートを書いていた。
「あ!ちょうどよかった!お前も手伝ってくれ!」
俺はニコルに簡単な説明だけして、救急箱を持たせた。
「お前はなにを持ってくんだ?」
「ああ、俺は……」
俺は引き出しを開け、箱を取り出した。
その中には一丁のモデルガンが入っている。だが、俺が医療用に地道に改造を重ねている。こいつで麻酔銃を打ち込むつもりだ。
「これを使う」
「うおっ!?何持ってんだお前!?銃刀法違反で捕まるぞ!?」
「あぁ、それなら問題ない。これで人殺せないから。見た目だけだよ。平気平気」
ホントは捕まるかもしれないが、黙ってりゃばれはしないだろう。
「よしっ。じゃあいくぞ。ついてこいよ」
俺たちは病院を出た。あてがあるとはいえないが、あるとすればアイツの発見された場所だ。まずはそこから行くことにした。
ニコルは何か聞きたそうな顔で俺についてきている。
「なあ、ウィン」
「あん?」
「何でその銃持ってきたんだ?」
「……実はさ、アイツ、自分が生きていちゃいけないんじゃないかって思ってるみたいなんだ」
「……どういうことだ?」
ニコルは首を傾げている。俺だって説明するにはなんて言ったらいいかわからないんだ。
「うーん……、死ぬ気?」
「漠然としすぎ」
「あ、そうだ。警察の言ってた話なんだが、推測だと、アイツが暴走した兵器なんじゃないかって。もし、それがホントならアイツは罪を償うために死ぬつもりかもしれない。だから、俺は威嚇の意味を込めてこれを持ってきたんだ。それでも、アイツが死ぬつもりなら……俺はこいつでヤツを撃つ」
「わかったような、わからないような?」
確かに推測だし、実際に本人から聞いた訳じゃないから俺だって信じてないし、ニコルだって信じないとは思う。まあ、しかたない。
「でもよ、相手はけが人だぞ?殺傷力はないにしても、当たりどころ悪かったらやばいんじゃないか?」
「言ってなかったっけ?こいつ、麻酔銃だぜ」
「……なんだ。先言えよー」
「悪い悪い」
気づくと、すぐそこにアリワナ兵器研究所が見えていた。
急いで敷地内に入ると、警備員が倒れていた。
「大丈夫ですかっ!?」
急いで声をかけると警備員はすぐに目を覚ました。
「あ、あなた方は?」
痛みがあるらしい首をさすりながら、警備員は俺たちを見た。
「俺たちは、ワーナル総合病院の医者です。ここに17,8くらいの男は来ませんでしたか?」
その言葉に警備員はがばっと起き上がり、すごい勢いで頷いた。
「来ました!そうです!自分を失神させたのはそのくらいの少年です!」
……やっぱり、そうだったか。
「そいつ、たぶんうちの患者だと思うんで連れ戻してきます」
警備員にはここで待ってもらうことにして、俺たちは建物内に進入した。