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生命の行方・第一部  作者: 杉谷ゆぬの(果樹)
第1章・運命が変わる前触れ
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意外に素直なあいつ

「……って~っ!ちくしょう……。何で俺が殴られなきゃなんねーんだ……。けが人だと思って油断してたぜ……。次は絶っっ対にやられねえ」

俺は救急箱を閉めて、立ち上がった。右フックが当たったところは腫れていて、痛い。かなり痛い。でも、湿布のひんやり感でなんとかなってるけど。

次はマジで負けねえ。そう思いながらヤツの病室に入った。

ヤツは俺の気配を感じたのか、すぐ目を開けて俺をみた。

「あっ」

ばっちり目があった。来るっ!と思って一瞬構えたが、何も来なかった。あ、そうか。体力が底をついたんだな。うんうん。そうしとこう……。

「すいません……いきなり……殴ってしまって……」

ヤツはギリギリ聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。あれ?思ったより素直だぞ?

「お前、どうして俺を殴ったんだ。俺がそんなに気に入らなかったか?」

「いいえ……、違います……」

「そうか、ならいいんだ。俺がお前の担当だからな。初っぱなから嫌われてたらどうしようかと思ってたところなんだ」

でも、それなら本当にどうして俺を殴ったんだ?

「……先生」

考えていると声をかけられた。

「ん?」

「俺は……生きていてもいいんですか……?」

「はあっ?」

いきなり突拍子もないことを聞きやがる。

「お前、何言ってんだ。無駄な命なんてないんだぞ?教わらなかったか?」

「………」

なぜ黙る。……まさか。こいつ本当に……?警察が言ってたあれなのか……?

「……まあ、いい。お前の名前を聞いとこう」

「杉崎……雅也です……」

「スギサキ、マサヤ……っと。この辺の出身じゃないみたいだな。どのあたりだ?」

「……覚えて、ないです……」

気にするな、気にしちゃいけないぞ、俺。

「………そうか。じゃあ、仕方ない。マサヤ、俺に聞きたいことはあるか?」

「先生の……お名前を……教えてください……」

「俺はウィンストン・ジャーナルだ。呼び方は好きにするといいよ」

「はい……。あの……、ウィン先生……ここ、痛そうですけど……大丈夫ですか……?」

マサヤは自分の頬を示しながら聞いた。

確かに腫れて、熱を持っている。もちろん痛い。

「いや、大丈夫じゃねーよ。お前がやったんじゃねーか。……まあ、何か理由があったんだとは思うけど?なんで俺を殴ったんだ?」

マサヤは一瞬、間を空けて口を開いた。

「それは……」


ピンポンパンポーン


『ジャーナル先生、お電話が入っております。お近くのナースステーションまでお越しください』


めちゃくちゃタイミングの悪いとこで呼び出されちまった。しかも電話か。相手を待たせるのは失礼だよな。

「タイミング悪ぃな……。ちょっと行ってくるからおとなしく待ってろよ」

俺はマサヤが小さくうなずくのを見てから病室を後にした。


「……」

彼はゆっくりと起き上がり、深呼吸を繰り返した。次はヘマをしないよう慎重に点滴をはずす。

窓からロープ状にしたシーツを降ろし、足をかけた。

「ごめんなさい……。俺は……」



電話は警察からだった。

『どうですか?彼の意識は回復しましたか?』

「ああ、はい。ついさっき」

『では、すぐそちらに向かいますが、よろしいですか?』

「はい、どうぞ」

『じゃ、すぐそちら伺いますので。それでは、失礼します。』

俺は電話を置いた。すると、話を聞いていたらしいロナさんが来た。

「ウィンストン、さっきの電話警察でしょ?なんだって?」

「あいつのことについてですよ。あ、そうだ。あいつ、意識戻りましたよ。スギサキマサヤっていう名前だそうです。」

「あら、ホント?じゃあ、さっきも行っただろうけど、もう一回ね」

「はい」

俺たちはマサヤの病室に向かう。そして、ここが俺の運命を変える出来事の発端だった……。

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