意外に素直なあいつ
「……って~っ!ちくしょう……。何で俺が殴られなきゃなんねーんだ……。けが人だと思って油断してたぜ……。次は絶っっ対にやられねえ」
俺は救急箱を閉めて、立ち上がった。右フックが当たったところは腫れていて、痛い。かなり痛い。でも、湿布のひんやり感でなんとかなってるけど。
次はマジで負けねえ。そう思いながらヤツの病室に入った。
ヤツは俺の気配を感じたのか、すぐ目を開けて俺をみた。
「あっ」
ばっちり目があった。来るっ!と思って一瞬構えたが、何も来なかった。あ、そうか。体力が底をついたんだな。うんうん。そうしとこう……。
「すいません……いきなり……殴ってしまって……」
ヤツはギリギリ聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。あれ?思ったより素直だぞ?
「お前、どうして俺を殴ったんだ。俺がそんなに気に入らなかったか?」
「いいえ……、違います……」
「そうか、ならいいんだ。俺がお前の担当だからな。初っぱなから嫌われてたらどうしようかと思ってたところなんだ」
でも、それなら本当にどうして俺を殴ったんだ?
「……先生」
考えていると声をかけられた。
「ん?」
「俺は……生きていてもいいんですか……?」
「はあっ?」
いきなり突拍子もないことを聞きやがる。
「お前、何言ってんだ。無駄な命なんてないんだぞ?教わらなかったか?」
「………」
なぜ黙る。……まさか。こいつ本当に……?警察が言ってたあれなのか……?
「……まあ、いい。お前の名前を聞いとこう」
「杉崎……雅也です……」
「スギサキ、マサヤ……っと。この辺の出身じゃないみたいだな。どのあたりだ?」
「……覚えて、ないです……」
気にするな、気にしちゃいけないぞ、俺。
「………そうか。じゃあ、仕方ない。マサヤ、俺に聞きたいことはあるか?」
「先生の……お名前を……教えてください……」
「俺はウィンストン・ジャーナルだ。呼び方は好きにするといいよ」
「はい……。あの……、ウィン先生……ここ、痛そうですけど……大丈夫ですか……?」
マサヤは自分の頬を示しながら聞いた。
確かに腫れて、熱を持っている。もちろん痛い。
「いや、大丈夫じゃねーよ。お前がやったんじゃねーか。……まあ、何か理由があったんだとは思うけど?なんで俺を殴ったんだ?」
マサヤは一瞬、間を空けて口を開いた。
「それは……」
ピンポンパンポーン
『ジャーナル先生、お電話が入っております。お近くのナースステーションまでお越しください』
めちゃくちゃタイミングの悪いとこで呼び出されちまった。しかも電話か。相手を待たせるのは失礼だよな。
「タイミング悪ぃな……。ちょっと行ってくるからおとなしく待ってろよ」
俺はマサヤが小さくうなずくのを見てから病室を後にした。
「……」
彼はゆっくりと起き上がり、深呼吸を繰り返した。次はヘマをしないよう慎重に点滴をはずす。
窓からロープ状にしたシーツを降ろし、足をかけた。
「ごめんなさい……。俺は……」
電話は警察からだった。
『どうですか?彼の意識は回復しましたか?』
「ああ、はい。ついさっき」
『では、すぐそちらに向かいますが、よろしいですか?』
「はい、どうぞ」
『じゃ、すぐそちら伺いますので。それでは、失礼します。』
俺は電話を置いた。すると、話を聞いていたらしいロナさんが来た。
「ウィンストン、さっきの電話警察でしょ?なんだって?」
「あいつのことについてですよ。あ、そうだ。あいつ、意識戻りましたよ。スギサキマサヤっていう名前だそうです。」
「あら、ホント?じゃあ、さっきも行っただろうけど、もう一回ね」
「はい」
俺たちはマサヤの病室に向かう。そして、ここが俺の運命を変える出来事の発端だった……。




