ウィンストン、復帰する
少年は成長し、大人たちから逃げ出すことも不可能ではないくらいの力を持つようになった。だが、彼は逃げ出さずにそこにとどまっていた。
彼は妹の行方を突き止めるために大人たちを捕まえては話を聞き出す、ということを繰り返していた。
そして……ある時、彼は見てしまった……。
「発見しました!MSAAAの生命反応です!」
薄暗い部屋の中でモニターを操作する男とその様子を見ている男……二人の男がそこにいた。
「でかしたぞ……、場所はどこだ。」
「ワーナル総合病院、例の研究所に近いところに反応が見られます。この様子だと……おそらく兵器としての機能は停止しているでしょう」
「ならば……処分は簡単だな」
様子を見ていた方の男はその場から立ち去っていく。
モニターには任務遂行者の写真が映し出されていた。そしてその写真は……。
時計をみた。時間はなんと六時半。俺にはあり得ない快挙だ。
「なんか……あるのか……?」
インフルエンザにかかって一週間、俺は家で療養していた。そのおかげでインフルエンザウィルスは俺の体から消滅した。はずだ……。
「さて」
あ、もしかして俺の存在を忘れてる人がいるかもしれない。俺はウィンストン・ジャーナルだ。
医者なんだが……情けないことにインフルエンザになっちまった。まあ、仕方ないか。
「もうそろそろ時間だし、行くか」
久々に病院に行くと早速ニコルがやってきた。
「あ、ウィン。早いじゃんか。復帰一日目で遅刻するわけにもいかないってか」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
「ま、インフルエンザが治ってよかったじゃねえか」
「そうだな。…ところでマサヤは?」
気になっていたことを聞く。まあ、こいつが毎日電話で報告してくれたおかげで大体のことは分かってるんだけど。でも、見舞いには一度も来てくれなかった。ちょっとは期待してたのに。
「ああ。元気だぜ。たまに何か言いたそうな顔するけど……」
「何だろう……?一応聞いてみるか」
俺はニコルと別れ、マサヤの病室にやってきた。
だが、やつはいない。
そういえば報告で院内を散歩してることがよくあるって言ってたな。
「どんだけ元気なんだよ……?まだ一週間とちょっとしか経ってないぜ……?」
とりあえず、あいつを捜し歩く。
「あ、ウィンストン!大丈夫?よかったわねぇ治って!」
ロナさんが俺を見るなりテンション高めに近づいてきた。
「あ、あの、マサヤ知りませんか?」
俺の言葉を聞くとロナさんはすぐに普通のテンションに戻った。
「あら、スギサキくん探してたのね。スギサキくんなら、多分談話室かしら」
「ありがとうございます」
お礼を言って談話室に向かう。
言われたとおり、マサヤは談話室でぼーっとテレビの画面を見ていた。腕には一応点滴が刺さっているが、そんな強いものじゃなさそうだ。
「よっ。マサヤ」
「あっ。ウィン先生!大丈夫ですか?インフルエンザはすぐに人にうつりますからね、ちゃんと治さないとですよ?」
何で俺……、重症患者に心配されてんだろ……?
「もうちゃんと治ったよ。その前にもう既にうつしちゃったみたいだし」
マサヤはあらら、みたいな顔をしてお俺を見ている。
「お前、気づかなかったか?本来お前のところに絶対に来る奴が来なかったの」
「……?」
マサヤは首を傾げている。まあ、わからなければいいや。
「先生、俺、聞いてもらいたいことがあるんですけど、時間は大丈夫ですか?」
「ん?ああ、いいけど」
「じゃあ、部屋に行きましょう」
俺はマサヤのあとについていく。
でも、こいつ意外と頑丈だなぁ。あんだけ怪我してたのにもう動けんのか。