リディナ先生と検査
(あ……おさまってきたかも)
俺は顔を上げる。多分30分くらいぐったりしてたんじゃないかと思う。
「ふう……」
またため息をついて座り直すと、廊下を歩いてくるおじさんと目があった。
「あれっ?君は……スギサキ君だよね?大丈夫なのかい?」
「えっ?は、はい。あの……失礼ですが、あなたは……?」
なぜかめちゃくちゃフレンドリーに話しかけてくるおじさんは、俺の名前を知っていた。
「あ、これは悪かったね。私はリディナというんだ。ウィンストンとニコルの上司をしているんだよ」
ウィン先生とニコル先生の上司か……。
「そういえば、スギサキ君はどうしてこんなところにいるんだい?」
リディナ先生は俺の隣の椅子に座る。
「ああ……少し早く目が覚めてしまって……。ずっと寝てても仕方ないんで、少し歩いてたんです」
「なるほど、それでここでテレビを見ていたんだね」
ほんとは疲れて休んでたら急に傷が痛んで、ぐったりしていたんだけど。
「そうだ、スギサキ君。ちょっと傷の様子を見させてもらっていいかい?」
リディナ先生は席を離れ、俺に来るよう合図をしている。
まあ、断る必要もないし行こう。
傷に響かないようゆっくりと動いているので、速度は自分で苛立つほど遅い。
ゆっくりとした動きで談話室を出る頃、ロナさんが急いでやってきた。
「スギサキくん!大丈夫?」
「あれ?ロナさんどうしたんだい?」
「リディナ先生……実は、談話室でぐったりしてる男の子がいるって聞いて」
それはもちろん俺のことだ。でももう平気そうだし。
「うん。それはスギサキ君のことだろうね」
あれ。気づいてたんだ。
「だから、ちょっと私が傷の具合を診ておこうと思ったんだ」
そうだったのか。瞬時に体調とかがわかるなんて、リディナ先生は結構すごいひとなんだな。
「スギサキ君、よかったら車椅子も用意できるけど……?」
「いいえ、平気です」
確かに痛みはあるけど、そこまでしてもらっちゃうと後で大変な気がするからな。今はこれでいいんだ。
そのままリディナ先生についていく。診察室に入り、リディナ先生は俺に椅子をすすめた。
「スギサキ君、実はまだ詳しい検査をしていないんだ」
「どういうことです???」
「まあ簡単に言えば、スギサキ君が脱走しちゃったから検査出来なかったんだ」
あああ……俺超迷惑かけちゃってるし……。
「す、すいません……」
「あ、いやいや。謝らなくても全然問題ないから大丈夫だよ。で、今から検査しても平気かい?」
「はい。大丈夫です」
俺はうなずく。
「じゃあ、早速血液検査からだ。腕を出して」
俺は言われたとおりに腕を出す。血圧を測りながら、リディナ先生は俺にいくつか質問をした。
「傷が痛む以外にどこか体の不調はないかい?」
「いえ、特には」
「じゃあ、今までに貧血で倒れたことはあるかい?」
「それもないと思います」
「ふむ……じゃあ、平気かな。ロナさん、よろしく」
「はいはい。じゃ、親指中に入れて手を握って」
手を握ると腕にゴムバンドを巻かれた。きつくてちょっと痛い。
「あ、傷にゴム当たってない?」
「はい」
腕を脱脂綿でゴシゴシ擦られ、注射針が刺さる。
あ、これヤバい……、意識が……ゆっくりと、でも確実に……遠のいてる……。
「スギサキくんっ!?……」
ロナさんの声は聞こえた。だが、そのあとなにを言っていたのか、俺にはわからなかった。