幼い頃の思い出したくない記憶
ロナは、ニコルを発見した途端ニコニコ笑顔で近付いてきた。
それに言いようのない恐怖を感じ、逃げようとするニコル。
「あんた待ちなさいよ……どういうことだかわかってるわよねぇ……?」
「う、は、はい……」
「スギサキくん、すごく迷惑そうだったわよ。何がしたかったわけ?」
「それは……。ちょっといたずらしてみようかと……。でも、あいつは散々俺達に迷惑掛けたんだ。あのくらいならかわいいもんだろ?」
ニコルの必死の言い分により、ロナは何とか納得した。
「まあ、確かに……そう言われてみれば、そうなのよね。……いいわ。今回は許してあげる」
その言葉にニコルは胸をなで下ろす。
「よかったぁ……。で、そのマサヤはどうしたんだ?ロナがここにいるってことはあいつは1人ってことだろ?落ち着いてんのか?」
「ええ。今は寝てるわよ。たぶん……意識を保ってるのが限界になっちゃったんだと思うわ」
ニコルはロナの言葉を覚え、メモをとる。
「何でメモってるわけ?」
「ウィンに伝えないとだろ?」
「まあ、あんた意外と気が利くじゃない」
「他になんかあった?」
「ないない。傷も化膿してないし、体温も正常だったわ」
「ふーん。わかった。ウィンの見舞い行くときに渡しとけばいいか」
ニコルはメモをポケットの中にしまい、歩いていく。
「ロナって今日夜勤だっけ」
「ええ、明日の朝までよ。丸一日なんて、この病院も人使い荒いわよねえ」
「大変だなあ。俺は定時までだから。がんばれ。じゃあな」
ニコルはロナにひらひらと手を振りながら医局に戻っていった。
……夢を見ていた。幼い頃の恐ろしい記憶……
少年と少女はたくさんの大人に追いかけられていた。堅くお互いの手を握りしめ走る。だが、少年と少女の手は離れ、少女が地面につまずき、倒れた。
「ユキ!」
少年は少女の名前を呼ぶ。
「私のことはいい!お兄ちゃんは逃げて!!」
大人たちは少女を捕まえ、少年には殴る蹴るの暴行を加える。
少年は気を失う。遠ざかっていく意識の中で大人たちの声がした。
「この少年はどうするんだ?」
「こいつもナハネ族だ。実験しない手はないだろう。ましてや少女の双子の兄だ……適応率は少女と近いものがあるに違いない」
少年の記憶は一旦そこで切れ、別の記憶が流れ込んできた。
「ユキをどこへやった!?教えろ!」
少年は叫ぶ。後ろ手に縛られ、身動きのとれない状態なのにじたばた抵抗した。
その様子を大人たちはあざ笑うかのように見つめている。
「少女の実験は大成功だ……。次はお前だ……」
少年は捕まえられ、手術台のようなものに腕と脚を固定された。
大人の1人がメスを少年の胸にあてた。
「なにをするんだ!はなせ!」
そのメスは少年の胸を開いていく。
(止めろ……やめてくれ!)
「やだっ……痛い……!」
少年は痛みで顔を歪める。
「こいつを黙らせろ」
少年は猿ぐつわを噛まされ、言葉を発することもままならなくなった。
(……嫌だ……俺はこんな記憶……いらないっ……!やめてくれ……!こんなもの……見たくない……!!)