空間少女の苦悩
「あら、茜ちゃん朝からお疲れさま。」
「や、弥生さん!!」
ようやく、一家全員を送り出し(引きこもり以外)店を開けると暖かい微笑みを浮かべた女性が立っていた。
「茜ちゃん珈琲と何か適当に食べれる物お願い。」
悪戯っぽく笑う女性に茜は苦笑した。
「弥生さん、娘さんいいんですか? 高校生なんですよね。」
「いーのよ。うちの娘には騎士様がついてるから。私は優雅にモーニング珈琲。それに、まだあなただって高校生の歳でしょ。」
「...そーでした。」
茜は今年で17歳になるのだが高校には通っていない。
義務教育期間もあまり学校には行っていなかったため学力的な問題もあるのだが、それでも茜の偏差値でも通える高校はいくつかあるのだ。
だが、茜は高校には行かなかった。
否、行けなかったのである。
理由は彼女の持っている新奇恐怖症にあった。
新奇恐怖症とは、新しい変化を極度に恐れるというもの。
中学にあがる時もパニック状態になり入学式では倒れたという黒歴史だ。
「私も高校生には憧れてたんですけどねー。」
「あら、高校生なんて案外つまらないものよ。私はあなたの生き方好きだけど。」
「...ありがとうございます。」
ベーコンエッグを食パンにのせ、チーズに塩コショウさらにバジルを振る。
軽くオーブントースターで焼くと【喫茶・滝川】名物ベーコンエッグトーストの出来上がりだ。
可愛い皿に盛り付け運ぶと弥生さんは茜に向かって無邪気に笑った。
「ほら、あなたがこういう風に料理を魔法のように作れるのもこの生活があってのものじゃない?」
「魔法ですか?弥生さん大袈裟ですよ。」
「あら、魔法だって料理と似たような物よ。人の手で生み出されたものなんだから。」
「...さすがですね。」
小説家である彼女の感性には茜は舌を巻いてばかりだ。
かなりの堅実家で現実主義の彼女を掌で転がすように遊ぶのだからかなりの強者である。
「...まあ、茜ちゃんも周りの変化には気をつけなさいね。いまの生活でいたいならの話だけど。」
「えっ? 注文ですか」
皿を洗っていた茜に届かなかった言葉を弥生は笑いながらなんでもないのよと告げる。
珈琲の芳ばしい香りが店内を満たしていた。