空間少女の苦悩
カーテンを開くと、柔らかな春の日差しが室内へと入ってくる。
「皆ー、早く起きて準備してーっ!!」
そして、その穏やかな朝を楽しむことなくせわしなく声を張り上げる少女が一人。
「新学期早々寝過ごさないでよっ」
愚痴をこぼしながらも朝食の準備をてきぱきと進めるこの少女こそ滝川家長女である滝川 茜である。
祖父が自衛隊の幹部で、その祖父の友人が警察官であるため引き取り手がなく何らかの事情で孤児院にも入れない子供を預かるのが滝川家の特徴である。
そして、自衛隊の幹部である恐面の祖父が子供たちの世話などできるはずもなく、その面倒をみるのはほとんど茜の役割であった。
「茜ちゃん、瓏兄学校遅れそうだからってもう出発したよ。」
「...えぇっ!?朝御飯はっ」
「食パン持っていったみたいだよ。ほら、一袋丸々ない。」
「...はぁっ」
「あとね、じーちゃんーはろーじんかいがあるからってもう出発したよ。」
「...ありがと。琅くんも準備しちゃって。」
「うんっ、わかった!!」
限りなく白に近い銀色の髪がふわふわと揺れ動く。
その後ろ姿を確認しながら手元の卵焼きの火を止めた。
「...お店間に合うかなぁ。」
ドタドタと明らかにいま起きたばかりの音を確認しながら本日何度目かのため息を吐き出した。