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口裂け女 A New Legend  作者: 来惧稀音(くるぐけいん)
第1章 伝説の女
5/7

運命の嘘

 2008年5月18日午後12時20分。


 青林高校2階2年B組で目を見開き、口をOの字に開いて「おおー・・・」とニコラスは声を出していた。その声は快楽に満ち溢れていた。しかし、その声はクラスの窓辺にある机に肘をつき手に顔を乗せていた西谷にしか聞こえていない。


 ニコラスの手は、彼の前でコックリさんを友達の斉藤麻耶と片桐杏里と一緒にしている中山典子の尻に触れていた。そして、何故かニコラスの左手首には買い物袋が結んであった。


 「いいケツしとるお嬢さんだわ!」


 中山の尻に触り興奮しているニコラスを西谷は冷ややかな目で見ていた。西谷がふと中山たちのいる席のとなりに目を向けると、山口咲と椎葉美香が弁当を食べながら話をしていた。


 「ホントに本崎先生ってかっこいいよね!」


 椎葉は生徒から学校一人気のある教師の本崎翔について目を輝かせながら山口と話をしていた。本崎は34歳の数学の教師で、その甘いルックスから女子生徒の多くは彼に憧れを持っている。


 「もう、知ってるよー!まあ、本崎先生は優しいところもいいよねー。あと、あの長いのにちゃんと整えられた髪型も素敵でしょ!」


 椎葉にそう返した山口の口調は自慢げに聞こえていた。そう聞こえる理由を西谷は知っていた。B組の女子たち一人一人の秘密を何でも知っているニコラスから、本崎と山口が教師と生徒の間では許されない交際関係にあることを聞いていたからだ。


 禁断の恋に落ちている女はいいねー。そのおかげで国語のテストは毎回満点だ素晴らしいじゃないか。


 西谷は山口たちに向けていた視線を再びニコラスに向けると彼の手は先ほどの中山の尻の位置から制服のシャツに圧迫されている胸の方に移動していた。


 「何か今日は胸がくすぐったいなー」


 本来ならニコラスの手の感触を感じることのない中山だが、この時はなぜか胸に違和感を覚えていた。


 中山の奴、ニコラスのエロい手で触られて感じてんのか?変だな。あいつにはニコラスの姿が見えないから感触もないはず。


 奇妙に思った西谷はふと中山の向かえ側でコックリさんに参加している女子の後ろを見た。


 ああ、なるほど、そういうことね。長谷川か。いたのか。


 西谷は何故中山が胸に違和感を感じているのかがわかった。ニコラスではないもう一人の幽霊の友達である長谷川碧の姿を見て。



 長谷川碧は22歳の女の幽霊である。童顔で可愛らしい顔をしている。身長は163cm。年を取るが、容姿の変化を止めることができる。5歳の時に父親の虐待により死亡した。死んだあとは霊となり、成長を続けている。現在の容姿を気に入っており、老化を止めている。老化を止めることが出来るが、若返ることはできない。


 また、特殊能力として、自身や霊を実体化することができる。そのため、自分を実体化して人間として生活することができ、その意味では長谷川は、幽霊なのか人間なのかは曖昧な存在である。


 実体化だけではなく、人間や物を透明にすることもできる。ただし、その能力は形のあるものにしか使えず、気体や液体を透明にすることはできない。


 長谷川はすでに死んでいるので、人間として生活してもまた「死ぬ」ことはない。その意味で彼女は最強の人間であり、最強の霊能力者である。


 中山が胸に違和感を覚えているのはニコラスの手を、長谷川が実体化させる途中で能力を止めているために中山の胸にニコラスの手の感触があるためだ。そうすることで長谷川はニコラスのわいせつ行為をやめさせようとしていた。


 「なんか、ホントさっきから胸に違和感があるんだけど!」


 中山が胸への違和感に声を大きくしたので、ニコラスは舌打ちして手を彼女の胸から離した。


 「おい!碧!何で邪魔すんだよ!?」


 ニコラスは長谷川の妨害に抗議した。それに対して長谷川は笑みを浮かべた。


 「あんたのわいせつ行為が目障りだったんでね。それに、最近はロケ番組に出てるアイドルたちの乳やケツに触ってるから満足してんでしょ!女子高生に手を出すんじゃないよ!」


 「おいおい、待て待て待て!何で俺が童顔の愛ちゃんの87cmもある素晴らしいオッパイを揉んでたこと知ってんだよ!?」


 「愛ちゃんだか、誰だか知らないけど、あんたがテレビカメラの前で堂々とセクハラを披露してるからよ!普通の視聴者には見えなくても私や亮人には見えんのよ!でしょ、亮人!」


 クラスの中央の席の位置から長谷川に声をかけられた西谷は親指を立てて、サムズアップを送った。すると西谷のその仕草が中山の目に映った。


 「ちょっと西谷、あんた何、私が胸に違和感を感じてることにサムズアップしてんのよ!?変態!」


 中山が西谷の行動に文句を付けたあとに彼女と一緒にコックリさんをしている斉藤もそれに続いた。


 「西谷君最低!優里亜ちゃんに言うよ〜」


 その様子を見ていた長谷川とニコラスは手を叩きながら爆笑していた。


 「いや、違げーよ!馬鹿!これは・・・」


 反論しようとした 西谷は言葉つまらせた。霊であるニコラスや長谷川にサムズアップをしたとは言えなかった。そんなことを言えばイカレてると思われるからだ。


 「これは、その、お前のそのデカイ胸を作った偉大なタンパク質や女性ホルモンに送ったんだよ!」


 「は?何言ってんのこいつ!?キモーい!イケメンでもキモーい!」


 中山たちの冷たい目を見た西谷は顔を左手で覆い、「本当のことを言ってイカれた奴と思われた方がマシだった」と思い、嘘をついたことに後悔した。


 「言い訳が下手な亮人君であった」


 ニコラスは西谷を茶化しながらニヤついていた。そして、なぜかその手は再び中山の豊満な手を目指していた。


 しかし、その手の野望に気づいた長谷川がそれを阻止する為に、ニコラスを力強く蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたニコラスの体は近くの机にぶつかって、それを倒してしまった。


 そのため、教室にいる生徒たちの視線は倒れた机に集まった。西谷、長谷川、ニコラス以外の者たちの目には机が勝手に倒れたようにしか映らなかったから無理もない。


 「典子、まずいよ!これはコックリさんの呪いよ!」


 斉藤の声は大きく怯えていた。


 「ま、間違いないね・・・」


 コックリさんに参加しているメンバーの一人である片桐杏里が斎藤の言葉に同意した。

二人の言ったことを聞いた中山の顔は引きつっていた。


 「そ、そうね変態西谷のせいでコックリさんがお怒りみたいね!」


 「いやー、今の僕は怒りじゃなく、可愛い碧ちゃん蹴られた喜びで満たされてるんだけど!」


 ドMのニコラスは目をつぶり口を開いて、快感に酔っていた。


 変態ドM霊。西谷と長谷川の頭には同じ言葉が浮かんでいた。


 「ねえ典子、コックリさんの怒りを納めなきゃ!」


 斉藤はそう言うと、自分の鞄の中から塩を取り出し、中山に手渡した。


 「そうね!」


 塩を受け取った中山は倒れた机に塩をかけたが、そこにニコラスがいたので、彼の目に振りかけられた塩の一部がついた。


 「痛てて!こんな塩責めプレイは初めてだ!」


 西谷は妙な性癖を持ったニコラスに呆れていた。


 「さあ、仕事の時間よ!コックリさん、ガキ共の質問に答えて、金を稼ぐのよ!」


 長谷川はニコラスに手を伸ばし、立ち上がらせた。


 「へいへい」


  立ち上がったニコラスは中山たちのもとに近づいた。そして、中川の手に触れていた。


 中山たちで金を稼ぐ?何言ってんだ?長谷川は?長谷川の言うことに疑問を持った西谷は中山たちのもとへ近づいた。


 「何よ?西谷!まだ私の胸を見たいの!?」


 近づいてきた西谷に中川が警戒する声を出した。


 「いや、本当に10円玉が動くのか、見ようと思ってさ」


 「ふーん、まあいいわ。見てなさい」


 「ねえ、典子、何を聞く?」


 「千穂美と大輝のことよ」


 大輝とは岳下と付き合っている永田大輝のことだ。


 「コックリさん、コックリさん、岳下千穂美と永田大輝は何年付き合うんですか?結婚はしますか?」


 中山は2人の未来について質問した。


 それを聞いたニコラスは10円玉に触れている中山の手を動かし始め、紙に書かれた「あ」から「ん」の平仮名を使って質問に答え始めた。


 ニコラスには未来のことはわからんだろ。西谷はその様子を馬鹿馬鹿しく見ていた。


 「よ」


 中山たち5人はニコラスが示す答えの最初の文字を同時に口に出した。


 「ね、ん」


 「4年かー、結構付き合うだね!」


  片桐が答えの感想を言ったが、ニコラスはまだ10円玉を動かしていた。


 「け、つ、こ、ん、は、し、な、い」


 「結婚しないんだとさ。はっ、それが本当なら残念だな。ドンマイ岳下!」


 西谷はニコラスが適当なことを言ってると思っていたので、その口調は答えを信じているようなものではなかったが、なぜかその答えの内容に笑っていた。


 「西谷、あんた人の未来の不幸を笑うなんて最低ね!」


 中山は笑っている西谷を責めた。


 「あれー?一番嬉しいのは中山、お前だろ?中学の時からずっと大輝君のことが好きだったからねー。おめでとう!」


 「え!?そうなの典子!?」


 斉藤が西谷の言ってることが本当かどうかを中山に聞いた。


 「ち、違うわよ!何言ってんのよ、西谷!」


 「変だなー、ニコラスじゃなくて、コックリさんからはそう聞いたんだけどなー。確か、中山は中学2年の時のバレンタインデーにチョコを愛する大輝君に渡そうとしてたのに、唾液入りチョコを渡して先に告白した岳下の方を大輝君は選んじまったとか。てか唾液入りのチョコを渡すなんて結構グロいことする岳下だから別れるのも当然だわな!」


 「も、もうやめて。辛い過去を思い出させないで!」


 「本当のことなんだ。もうこの件はやめよう典子」


  恥ずかしさと悲しみから顔を左手で隠す中山に斉藤が優しく声を掛けた。


 「そんなことよりさ、典子!今度はこの最低野郎の西谷と優しい優里亜という不釣合いなカップルがいつまで続くかをコックリさんに聞きましょう!」


 「そうね!見てなさいよ西谷!人の辛い過去を蒸し返した罰を受けさせてやるわ!」


 そのきっかけを作ったのはお前だろ。と呆れた西谷が長谷川とニコラスの方を見ると、2人とも笑みを浮かべていた。


 「さあ、ニコラス、ここからがショー・タイムよ!」


 「了解!」


 こいつら、何を企んでやがる?


 西谷は自分と沢田優里亜のことがネタにされることよりもニコラスと長谷川が考えていることの方に気が向いていた。


 中山と斉藤と片桐はお互いに見つめ合ったあとに10円玉に視線を移動させた。そして3人同時に声を出した。


 「コックリさん、コックリさん、西谷と優里亜はいつまで付き合いますか?」


  彼女たちがニコラスに質問をした直後にクラスの全生徒たちの机にかかっていた鞄が一つずつ床へ落ち始めた。それを見ていた西谷以外の生徒たちの顔には動揺した表情が浮かんでいた。


 「え!?何これ!?何かヤバくない!?」


 不可解な現象が起きた後に最初に声をだしたのは、恐怖に震えた斉藤であった。


 「ね、ねえ・・・もうやめた方がいいかも・・・」


 斉藤と同じく恐怖に震えた片桐は、中山の方を向き、コックリさんをやめることを提案した。


 「大丈夫よ!西谷と優里亜のことなんて全くコックリさんの怒りを買うような話じゃないもん!」


 怯える斉藤と片桐とは対照的に中山には、恐怖心などなく、あるのは辛い過去を暴露した西谷への抑えることのできない怒りだけだった。


 地味な作業だったな、碧。


 中山から怒りをぶつけられていた当の西谷は、視線を自分の席に疲れて座っている長谷川に向けていた。生徒たちが動揺した不可解な現象の真実が西谷には見えていた。それは、全生徒の鞄を長谷川が走りながら落としているという単純な作業の繰り返しだった。


 疲れから回復した長谷川は西谷の席を立ち、ニコラスの方に近づいた。


「ねえ!典子!杏里!10円玉が動き始めたよ!」


 「わかってるよ、麻耶。私の手が勝手に動いてるもん」


 沈黙を守っていたニコラスは中山の手を動かし始めていた。ニコラスが最初に10円玉を止めた文字は「な」だった。


 「な・・・ん・・・で・・・お・・・ま・・・え・・・ら・・・は・・・な・・・じ・・・ゆ・・・う・・・え・・・ん・・・だ・・・ま・・・を・・・つ・・・か・・・う・・・ん・・・だ・・・ゆ・・・き・・・ち・・・を・・・つ・・・か・・・え」


 10円玉の動きを見ていた西谷が声を出し、ニコラスの言いたいことを代弁した。


 「要は10円玉じゃなくて、1万円を出せってことか。金に困ってるみたいだなニコ、じゃなくてこっくりさんは。」


 「おう、最近は俺も長谷川も金欠でな。今は毛利のマスターや明葉ちゃんのいる『エンドレス・パラダイス』で飲みもできねえんだよ!だからこのガキどもから質問の手数料をもらおうと思ってな!へっへっへっへっへ!いい商売だぜ!」


 ニコラスは事情を把握した西谷に自分たちの意図を伝えた。もちろん西谷はそれを聞くだけで返事はしなかったが、呆れた表情を示すことで、自分の心中をニコラスと長谷川に示唆した。


 「どうする?典子?杏里?1万円だってよ。持ってる?」


 斉藤が中川と片桐に1万円を持ってるか尋ねると、中川と斉藤と片桐はお互いに「お前が出せ」と言いたそうな目で見つめ合っていた。すると、3人を見かねたニコラスが10円玉を動かし始めた。それを西谷が代弁した。


 「さ・・・つ・・・さ・・・と・・・だ・・・せ・・・だ・・・さ・・・な・・・い・・・な・・・ら・・・く・・・ら・・・す・・・の・・・れ・・・ん・・・ち・・・ゆ・・・う・・・の・・・た・・・い・・・せ・・・つ・・・な・・・も・・・の・・・を・・・ぜ・・・ん・・・ぶ・・・う・・・ば・・・う。さっさと出せ。出さないならクラスの連中の大切なものを全部奪う。生徒全員を殺すってことか?ずいぶん物騒なこと言いやがるな」


 西谷の言葉を聞いたクラスメイトには動揺する者もいれば、バカバカしく思う者もいた。


 「くだらねえな。お前ら、コックリさんを利用して、金を盗む計画か?」


 クラスの席の後方で5人組で集まっていた男子生徒の1人が、中山たちを馬鹿にし始めた。


 「ずいぶん手の込んだことすんなー。なあ、お前らゲーセン行こうぜ!」


 男子生徒は一緒にいた男子生徒たちをゲームセンターに行くことに誘うと、ズボンの左後方のポケットに手を入れて、すぐにポケットから手を出し、何かを持つような手を自分の顔の横に掲げた。しかし、その手には何も持たれてはいなかった。


 「集団詐欺に遭う前にな!」


 「お前、何で手を顔の横に挙げてんの?」


 そばにいた別の男子生徒が手を掲げている男子生徒にその挙動の真意を尋ねた。


 「あれ?」


 そう言うと男子生徒は自分の制服についている全てのポケットをゴソゴソと探り始めた。


 「ない!俺の財布!何で無いんだよ!?さっきまで持ってたのに!」


 しまいには男子生徒はズボンまで脱ぎ、財布を探し始めた!


 「ちょっと!何でズボンまで脱ぐのよ!?」


 中山は焦る男子生徒に対してツッコミを入れた。


 「あれ?私の財布もない!」


 「俺のもねえ!」


 「嘘!?私のも!」


 多くの生徒が、自分の財布がないことに気づき、教室のあらゆる場所を探し始めた。西谷は自分のポケットに財布があることを確かめ、すぐにポケットを手で押さえ始めた。なぜなら、さきほどから多くの財布をニコラスの持つ買い物袋に入れていた長谷川が、彼の周りをうろついていたからだ。


 「ちぇ、バレたか。まあ、いいわ。全ての財布は手に入らなかったけど、収穫は大量だったから。ニコラス総額は?」


 「へっへっへっへ!大儲けだ!30万から40万はあるぜ!これで酒も飲めるし、タバコも吸えるな!川村にもあとで連絡しとけ!今日はエンパラでパーティーだ!フーーーー!」


 川村?川村って誰だ?まさかコイツらの姿が見える人間が俺以外にもいんのか? 


 疑問を持った西谷が周りを見ると、財布を奪われた生徒たちが教室の外に財布を落としたと思い、出て行ったために、クラスにはニコラスたちの窃盗に遭わなかった西谷、中山、片桐、斉藤、山口、椎葉の6人しか残っていなかった。


 クラスのほとんどの生徒が出て行くと入れ替わるように、生徒の少ない教室に岳下千穂美と佐藤優美が息を切らしながら走って入ってきた。そして、岳下が第一声を上げた。


 「大変よ!典子!ヤバイよ!ヤバイよ!」


 「何出川のモノまねをしてんのよ?アンタも財布なくしたの?」


 「そんなことじゃない!それよりもヤバイよ!出たのよ!トイレにあれが!」


 「優美、相変わらず化粧濃いな。それよりも『あれ』ってトイレの花子さんのことか?」


 「西谷、何でわかったの!?」


 トイレでの怪奇現象のせいで化粧の一部が落ちていた佐藤は自分たちの言おうとしていることを当てた西谷に疑問を投げかけた。


 「まあ、何となくな」


 どうせトイレでタバコを吸ってた長谷川の仕業だろ。煙はこいつには透明にできないし、こいつの別名は「トイレの花子さん」だからな。「長谷川」っていう苗字なだけに。


 「はあ?花子さん?そんなの信じてるの?あんたら」


 西谷と佐藤と岳下から出てきた「花子さん」という名前に中山は胡散臭さを感じていた。


 「花子さんかー。それもいたのかー。はっ、色んなバケモンがいるなー。この学校には。トイレの花子さんに、コックリさん、口裂け女。おおー、怖い怖い!」


 西谷たちが声の主に目を向けると、そこにいたのは岳下たちのあとに教室に入ってきた男子生徒の上田俊樹だった。その横には渡辺古城と森義也がいた。3人はクラスで強い男子のナンバー2からナンバー4だ。ナンバー1の座には西谷がいた。


 「ああ、俊樹たちは財布無くさなかったの?」


 「あ?中山、なに言ってんだ?」


 「なあ、それよりも口裂け女が何でこの学校に関係あんだ?」


 西谷は朝からずっと気になっていた口裂け女のことが気になっていた。


 「あれ?西谷、お前知らねえのか?この学校の女子生徒に口裂け女がいたって噂」


 西谷の疑問に答えた渡辺の話を聞いたニコラスが何かを思い出したかのように金を数える手を止めた。


 「そういや、アイツ、この学校出身だったなー」


 おいおい、ニコラス、どういうことだよ?口裂け女がこの学校の生徒だった?クソー、母ちゃんのせいでニコラスから口裂け女と出口組の殺人事件の関係を聞けなかったんだったなー。


 「そうだね。雪音はここ出身だった。あれから10年か。早いなー」


 ん?雪音?口裂け女の名前か?てか長谷川も口裂け女のこと知ってんのかよ。10年?今は25から28歳なのか?


 西谷の頭の中には次から次へと疑問が出てきた。西谷は少しでも疑問を減らすために上田たちに口裂け女について尋ねることにした。


 「なあ、その噂の女は10年前にいた生徒か?」


 「なんだ、亮人。少しは知ってるみたいじゃなか」


 亮人の疑問に森が答えた。


「ある女子生徒が突然いつもマスクをつけて登校するようになったらしい。でもその女子は学校中から『口裂け女』って言われていじめられるようにはなってからは不登校になったんだ。その後は消息を絶ったらしい」


 「そういえば、この学校の近くらしいね。その女の子の家。確か近くの林に囲まれた一軒家だったけ?」


 「そう、中山の言うとおり。まあ、今じゃ誰も住んでないらしいけど。そこで力じゃナンバー2だけど、知性ではナンバー1のこの上田様が思いつたことが『口裂け女の家に行こうぜゲーム』イェーイだ!絶対参加は俺、渡辺、森、そしてイケメンのくせに一番強い西谷だ!女子たちはどうする」


 何で俺まで強制参加なんだよ?


 「私と優美は不参加。今日は花子さんのせいで怖い目にあったから。怖いのは懲り懲り」


 トイレで怖い思いをした岳下と佐藤は上田の提案したゲームを却下した。


 「あん?人がタバコ吸ってのを邪魔するから悪いだろうが!豚女と性悪女が!」


 「まあ、落ち着けよ長谷川。今日はエンパラでパーティーだぜ!フーーーーー!」


 そう言って長谷川をなだめたニコラスは教室から出て行った。


 「そうか。で?他の女子は?女子が参加する方が盛り上がるだろ!カモーン!」


 「私たち中山・片桐・斉藤トリオも却下。今日は優里亜と遊ぶからねー!亮人、あんたの嫁借りるね!」


 「おいおいおい!マジかよ?」


 「残りの2人は?まずは山口!」


 テンションの高い上田は山口に指を向けた。


 「ウチは、今日は用事あるから無理」


 山口には放課後に本崎とデートをする約束をしていたのでゲームを却下した。


 「え?マジで?椎葉さーん」


 「ゴメン無理。私、上田のこと生理的に受け付けないから」


 「俺様超ショックーーーーー!って、おい待てよ!まさかの男子ツアーかよ!?」


 西谷は先ほどからずっと思っていたことを言うことにした。


 「いや、それよりも待てよ!その前に何で俺まで強制参加なんだよ?」


 「なに言ってんだ、亮人君?俺ら『F4』ならぬ『S4』が集まれば怖いもんなしだろ?」


 「あれ?亮人、もしかして、『口裂け女』が怖いの~?」


 自らは参加しない中山が口裂け女を出口組の事件と関係があると思ってる西谷を笑みを浮かべながら茶化した。


 「あのなー、洒落にならねえんだよ!花子さんやコックリさんはまだ可愛いもんだけど、口裂け女は人殺しだぞ!」


 「あら、亮人ったら私のことを可愛いと思ってくれてるんだ!嬉しい!」


 碧、そう言う意味じゃねえよ!まあ、確かにちょっと可愛いけど。ってそんなことは今はどうでもいい!


 「何言ってんのよ?亮人、花子さんやコックリさんだって人殺すでしょ!」


 佐藤には西谷の言うことが奇妙に思えていた。


 「オイ、こらブタァ!私は雪音とは違って人は殺したことはねえよ!」


 ってマジかよ碧!やっぱり出口組の奴らをぶっ殺したのは口裂け女なのかよ!?


 「そんなことはどうでもいいんだよブタが!俺は何があろうと口裂け女の家には行かねえぞ!」


 「そうだよ豚女が!泣いて詫びろやぁ!」


 いや、長谷川、お前の声は佐藤には聞こえてねえよ。


 「ひどい!」

 

 「亮人君、やっぱり中山の言うとおり口裂け女が怖いのかー。まさか俺上田様より弱い男だったとはー」


 「ああ、そうだよお前が一番強い。弱い俺は行かねー」


 「俺らが死んでもいいのかよ?」


 「ああ、死ね」


 頑なに上田のゲームを拒否する西谷を中山が心配するような目で見ていた。だが、それは「西谷の命を心配する」という意味ではなく、別の心配をしているかのようだった。


 「亮人、そんなに怖いのー?」


 「うるせえ黙れ」


 「あ、優里亜だ!」


 「え!?」


 中山から出た「優里亜」という名前に反応した西谷が教室の入口を見ると、そこには沢田優里亜がいた。ちょうど授業が始まる時間が近づいていたので、教室に戻ってきていたのであった。


 「ねー、優里亜!西谷ってさー・・・」


 「おお!優里亜!今日は中山たちと遊ぶんだってなー!」


 「うん、そうだけど、どうして?」


 「いや、丁度よかったわー。俺、今日は上田たちと心霊ツアーに行くことになってなー!」


 ってバカか俺は!何を言ってるんだ俺は!黙れ俺!


 「あれ、亮人君、君確か今まで乗り気じゃなかったよねー」


 上田は西谷の180度の豹変を疑問に思った。


 「上田くん、何を言ってるんだね君は!口裂け女なんてザコだろ」


 優里亜の前では、弱い自分を見せられない。その理由から西谷は嘘をつかざるを得なかった。彼にとってこの嘘は、彼にとってこの日で一番後悔が残る嘘だった。


 「亮人、一応言っとくけど、雪音、ああつまり口裂けね。怒らせちゃダメよ。殺されたくなかったからね」


 クソ、やっぱその家にいるのかよ。ああー、行きたくねー。どうか留守でありますように!


 「よーし、そうと決まれば、じゃあ男4人で心霊ツアーだぜ!男だけなのが心残りだけど!」


 4人は放課後に口裂け女の家に行くことを決めた。西谷以外の3人にとっては恐怖しか残ることのないツアーであったが、西谷にとっては人生を変える心霊ツアーとなることにまだ彼は気づいていなかった。


 「何が心残りなんだ?授業始めるぞ!」


 休み時間が終わり、国語の授業を始めるために本崎が教室に入ってきた。


 「先生!?」


 山口以外のその場にいた生徒全員が同時に大きな声を上げた。


 「なんだよ、お前ら、でかい声出して。てか他の奴は休みか?学級閉鎖並みだな」


 「先生・・・どうしたんですか・・・その、何とういうか、その髪型」


 「はあ?なに言ってんだ中山?」


 「ああ、先生も他の生徒と同じく大切なものを無くしたんですね!」


 事情を察知した西谷が本崎を茶化した。本崎の甘いルックスは変わらなかったが、髪型がいつもとは違った。


 何であんな金にならないものまで盗んだんだよ?長谷川、ニコラス。


 「西谷、お前まで何言ってるんだよ?」


 「先生、頭が禿げてますよ!髪切ったんすか?」


 西谷の発した言葉に本崎はようやく状況を理解し、頭を触り始めた。


 「ない!俺のカツラーーーーー!!!!」


 本崎が教室に来てからずっと山口の口は空きっぱなしだった。愛する教師の真実を知った彼女から生まれてくる言葉はなかった。


 

 




 


 


 

  


 


 



 

 


 


 






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