出口組構成員惨殺事件
この作品はフィクションです。一部実在する組織またはそれを想起する要素が登場しますが、あくまで物語であり、それ以外の意図はございません。
「まさに血のキャバクラっすね」
目の前に広がる辺り一面の鮮血とそれを生み出した数々の死体を見て、吐き気に耐えながら刑事の大神一馬は上司である福本泰清警部にそう語りかけた。
「掃除が大変になるな」
福本は吐き気に襲われている大神に面倒そうな表情で言葉を返した。
2人がいる現場は六本木の高級キャバクラ店である。午前0時にこの場所で指定暴力団「出口組」の幹部3人と組員20人、そしてボーイ1名が殺害された。福本と大神がいる入り口には4人の警備員とボーイの遺体が転がっていた。中には脚や腕を切り落とされている者もいた。
「キル・ビルかよ」
四肢が飛び散っている凄惨な事件現場はアクション映画の世界にいるような錯覚を福本に覚えさせた。大神はそんな福本に奇妙な眼差しを向けて、奥にあるVIPルームへ歩きながら事件の概要を話し始めた。
「目撃情報によると犯人は1人で、しかも女らしいです」
「女1人でヤクザ野郎共を殺しまくっただと!?タランティーノもビックリだな!」
「ただ目撃者のキャバ嬢が訳のわからないことを言ってるのでどこまで信憑性があるかわかりません」
「訳のわからないこと?」
「犯人の女の口が・・・」
「口がどうかしたのか?エロそうな口をしてたのか?そりゃ逮捕してその口で・・・ウェヘッヘッ!」
「いや福本警部!それよりもこいつを見てください」
冗談なのかわからないことを言っている福本に突如大神が大声を出し、その直後にとうとうゲロを吐いてしまった。
大神がゲロを吐いたのはVIPルームの壁に出口組幹部の1人が壁に大の字で張りつけられていたからだ。顔と手と足にはそれぞれ1本ずつナイフが突き刺されており、腹部には3本の包丁が刺さっていた。
「ああ最高だな!ヤリたくて堪らねー!」
「何言ってんすか警部!?って見るべきなのはこの壁に張り付いてるグロい害者っすよ!」
福本の目線は死体ではなく近くのソファーで震えているキャバ嬢の胸や脚に向いていた。福本に呆れながらも大神は福本の目線を貼り付け死体に向けさせた。
「こいつはグロいな。で、このグロい野郎は誰だ?米沢さん」
福本は近くで死体の様子を見ていた鑑識に声をかけた。
「私、米沢ではなく赤石と言います」
「たく、最近の鑑識は冗談も通じないのか?」
福本は冗談が通じない赤石から再びキャバ嬢の方に視線をむけながら赤石から被害者の話を聴き始めた。
「このグロい死体は出口智己です。まあ名前からわかるとおり出口組の組長出口龍太郎の息子ですな」
福本は視線をキャバ嬢から智己の死体に向き変えた。死体の名前を聞いたあとにその表情はそれまでよりも険しくなっていた。
「へぇこいつが。随分切り刻まれて刺し傷も多いな。親父は黙っちゃいねーだろうな」
「そうっすね。それにしてもこいつだけ他の連中より損傷がひどいっすね」
大神は26年の人生で最も居心地の悪い環境に慣れ、出口の死体を調べ始めた。
「大神、お前はその汚ねえ死体を調べてろ。俺はあのキレイなキャバ嬢から事件の様子を聞いとく。さあちゃんと国民のために働かないとな!」
そう言って、福本はニヤつきながら先ほどからずっとジロジロ見ていたキャバ嬢のもとへ歩き始めた。その様子を見ていた大神は呆れていた。
「エロオヤジめ、あの人42で妻子持ちなのにまだまだ発情中だな…」
福本はソファに座り震えているキャバ嬢の隣に座って彼女に声をかけた。
「どうも私は警視庁の福本と申します。事件について話を聞きたいのですが、よろしいですか?」
「はっ、はい…」
キャバ嬢は震えた声で福本に返事をした。彼女の茶髪にはところどころに被害者たちの血がついていた。
「まず、あなたのお名前は?」
福本は震えるキャバ嬢の様子など気にせずに名前を聞いた。
「お、奥野…レナです…」
キャバ嬢の名前は奥野レナ。23歳。顔つきから西洋人と日本人のハーフであることが伺える。身体つきは細身であるが、胸と尻が目立つセクシーなナンバー1キャバ嬢である。
「奥野さん、あなたは犯人を目撃しましたか?」
「見ました…お、女でした!一人の…ち、近くで見たから間違いありません!」
「その女の特徴を覚えてますか?年とか身長とか大体で構いません」
レナは顔を下に向け恐怖に怯えながらも福本の問いに答え始めた。
「年は20代後半ぐらい。し、身長は180cmぐらいです。髪が長くて、そして、く、口が…」
「口が?」
「口が裂けていたんです!あの女は口裂け女だったんです!間違いありません!この目で見たんです!信じて下さい!」
福本は予想外な奥野の発言に動揺したが、目をつぶっていた。
「本来なら信じられない話ですが、ここの惨状を見れば嘘にも聞こえませんね」
そう答えた福本であったが、内心ではそんなことは全く思ってはいなかった。イカれた巨乳め…福本は実際そう思わざる得なかった。