精神安定剤
俺は要の髪の毛をいじりながら、精神の安定を何とか保とうとしていた。
画面は夜中に1人起きた主人公の友達が、トイレに行こうとしたら何か物音がした。
それが気になった彼女は物音の出所を探している。
探すな、探すな!
さっさとトイレ行って寝ろよ……。
もうすぐ何か起きそうで、気が気じゃない。
そこで大きな音と共に、画面いっぱいのおじさんの顔が映った。
「わぁっ!」
「痛い、痛い。湊、俺の髪の毛引っ張ってる!」
「あっ、ごめん!」
俺は握りしめていた要の髪からそっと手を放した。
「いってぇーハゲるかと思った」
要は俺に掴まれていた所を手でさすりながら、起き上がった。
それを見ていた朝陽は横で爆笑していた。
「ちょっ、湊……ビビりすぎ……」
「いや、笑いすぎだろ」
「湊がいつビクッと反応するのかと思って膝の上に居たのに、髪の毛むしられるとはな……」
「むしってねーよ! ってか、そんな魂胆だったのかよ! なら自業自得じゃねーか!」
要はそれに何も言い返さず、朝陽の横の端に移動すると朝陽を真ん中に押しやって、端に座った。
「もう髪の毛むしられたくないからな」
「えぇー俺だってむしられたくないんだけど……」
「お前が選んだ映画だろ? 大人しく俺の精神安定剤になれ」
「膝枕?」
俺は無言で頷いた。
「でもゴツゴツしてるんでしょ?」
「うるさい、早く横になれ」
俺は朝陽の肩を掴み、自分の膝の上に朝陽の上半身を誘導した。
「確かにゴツゴツしてて、寝心地悪い……」
「黙って観てろ」
「もー分かったよ」
朝陽はそう返事をすると、足もソファーの上にあげ、さっきの要と同じ体勢になった。
また3人で映画に集中する。
おじさんは斧を担ぎながら、さっきの女性を探している。
彼女は泣き声を必死に殺し、近くの部屋に隠れていた。
おじさんの足音が通りすぎて、彼女はほっとしていた。
その時「ドンッ!」と大きな音と共にドアに斧がぶっ刺さった。
それと同時に俺の背中も叩かれた。
「わぁぁぁーー!」
「アハハハハ、ナイスリアクション!」
「何すんだよ要! 本気でビビっただろうが!」
「いや、朝陽がやれって言うから」
「フフフ、やれとは言ってないよ。いいねって言ったんだよ」
「いや、どっちも一緒だよ。……朝陽が教室で笑ってたのこれか?」
「要が、湊をめちゃくちゃ驚かせようぜって言うから、それは楽しそうだなって」
「全然楽しくねーよ。マジで心臓止まるかと思った……」
「お前のリアクション面白いからやめられないんだよな」
「怖い、怖い! 朝陽! 要が何か怖い事言ってる! 助けて!」
「度を超えたらちゃんと止めるって」
「いや、今助けてください!」
「まだ映画は序盤だよ? これから、これから」
「愛子さんのスパルタ練習の時と同じテンションで言うなよ」
「そうそう、朝陽の言う通り映画はまだ序盤だぜ? 今から面白くなるんだから、ちゃんと観ろよ」
「いや、お前が驚かせてくるじゃん」
「もう今日はしないから、安心して観ろ」
「ほんとかよ」
「ほんと、ほんと。ほら、朝陽の髪の毛でも触って落ち着け」
そう言って要は俺の手を朝陽の頭の上に置いた。
「待って……これ俺もむしられるんじゃ……」
「大丈夫だって。な、湊?」
「多分無理かもです」
「頑張れよ! 俺は映画じゃなくて湊が怖いよ!」




