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第2章『未完成の息』 第3節 息
止まったはずの街で見つけた新たな『音』
男の胸に広がるのは生きているという強い感情。
男は端末を掌にのせたまま、 陽の差す方へ顔を向けた。 建物の隙間から差し込む光が、 端末の表面で反射し、 まるで呼吸するように淡く瞬いている。
その明滅には、 規則も意味もなかった。 けれど、男の胸の奥で何かがそれに呼応する。 光と心臓の鼓動が、同じリズムを刻み始める。
彼は目を閉じ、 かすかに息を吸い込んだ。 光が脈を打つたび、 街の中の埃がふわりと浮かび上がり、 それが陽光を散らす。
——まるで、街そのものが息をしているようだった。
そして次の瞬間、 空気が震えた。
突風が吹き抜け、 崩れかけた足場が鳴り、 紙片が宙を舞う。 鉄の匂い、土の匂い、光の匂いが混ざり合い、 それがひとつの“吐息”となって街を包んだ。
男は顔を上げた。 光が一気に視界を満たす。 端末の光は消えていた。 だが、不思議と“終わった”とは思わなかった。
あれは、街の息だった。 止まっていた世界が、 ほんの一瞬だけ“生きようとした”証。
男は背を向け、 風の吹く方へと歩き出す。 その足取りには、 確かな温もりがあった。
第2章『未完成の息』完 です!
行き着く暇も無くすぐさま第3章へいっきましょー!




