第1章『人の極致』 第2節 境界を越えて
光り輝くネオンの街を進む男
進み過ぎた技術を誇るこの街で彼を待つものとはー
足音が、世界に戻ってきた。
濡れた路面が一歩ごとに沈み、赤と青の光が足元で砕ける。
街の奥へ進むほど、光は増していくのに、
代わりに音が薄れていった。
電子広告のざらついた声だけが、どこか遠い過去から流れてくる。
同じ言葉を、同じ抑揚で、終わりなく繰り返していた。
ビルの壁面に並ぶホログラムたちは、
まるで呼吸するように明滅している。
笑顔の人影が交互に現れ、消え、また現れる。
その誰ひとりとして、本物の息をしていない。
男は顔を上げた。
街は完璧だった。
清潔で、整っていて、乱れがない。
それが――不気味だった。
通り過ぎる無人の車両が滑るように進む。
タイヤの音はなく、軌跡の光だけがゆっくりと滲んでいく。
その動きさえ、あらかじめ決められた軌道をなぞるだけ。
ふと、頭上のスクリーンに自分の姿が映る。
笑っていた。
――だが、笑顔は自分のものではない。
街の記録が、過去の人間を素材にして作り出した、
「幸福の再現」だった。
赤と青の光が交互に瞬く。
二つの色の境界で、男の影が歪む。
音はもうどこにもない。
その代わりに、完璧な静寂が世界を支配していた。
男は立ち止まり、
冷たい空気の中で、かすかに残る“人の温もり”を探した。
だが、それを感じ取れる感覚さえ、
この街ではもう――正しく機能していないように思えた。
読んでくださりありがとうございます。
人の技術が進みきった街で1人歩く主人公の、街へ対するの感想が綴られた話となっています。
さぁ彼は自分が探しているものを見つけられるのか
第三節へ続きます




