第5章『静かな中心』 第2節 目覚めの刻
彼との旅に寄り添って
あなたは何を感じた?いつかきっと教えてね
目を開けると、朝の光が差していた。 夢の余韻がまだ残っている。 鼓動のように響いていた懐中時計の音が、現実の静寂に溶け込んでいく。
男は上体を起こし、ポケットから懐中時計を取り出した。 針は穏やかに動き続けている。 その小さな円の中で、確かに時間は息をしていた。
──取り残されていたのは、自分だった。
その思いが、静かに胸の奥を満たす。 彼はこれまで、動きを失った街、息を潜めた廃墟、 無音の世界を「終わり」と見ていた。 けれどそれは、彼がまだ「生きている証」を信じきれなかっただけだった。
技術も、人も、過去も。 すべては繋がっていた。 ただ、その繋がりの中で“何を見つめるか”を、 彼自身が選び損ねていただけだった。
風が吹いた。 草の匂いが、やわらかく空気を満たす。 どこからか、小さな機械の駆動音が聞こえた気がした。 遠くで、誰かが笑っているような錯覚。
男は懐中時計を見つめる。 それはもう、壊れた記憶の残骸ではなかった。 “今を刻む”ものになっていた。
彼はゆっくりと立ち上がる。 世界は何も変わっていない。 だが、見えているものが違っていた。
「……これでいい」
その言葉が、風に溶けていった。 まるで街全体が、その言葉を受け入れるように静まり返る。 彼の中で、ようやくひとつの旅が終わった。
ラスト1話!!




