第4章『境界』 第3節 境界
廃屋の中で見つけた確かな『温もり』
今まで見つけた確かな『音』
世界が生きている証拠と見失った自分を探す旅
家を出ると、陽は少し傾き始めていた。 まばらな雲の隙間から差す光が、街をやさしく包み込む。 風は穏やかで、崩れた壁の影をゆっくりと揺らしていた。
男は丘の上を目指して歩いた。 街の全景が見える場所。 その道すがら、彼は振り返る。 かつての喧騒も、華やかな光も、もうここにはない。 けれど、すべてが消え去ったわけではなかった。 手編みの帽子の温もりが、まだ掌に残っている気がした。
丘の上に立つと、風がひときわ強く吹き抜けた。 乾いた草がざわめき、街の残骸が微かに鳴った。 男はコートのポケットから、懐中時計を取り出す。 金属の表面には傷が刻まれ、長い旅の時間を物語っている。
時計の針は、まだ止まったままだった。 だが次の瞬間、風が吹き抜け、光が針に反射した。 ひときわ静かな音が、空気を震わせる。
──チッ。
たった一度の、小さな音。 それでも、確かに世界が動いた気がした。
男はゆっくりと顔を上げる。 雲が黄金色に染まり、陽光が街全体を照らしていた。 沈黙していた廃墟が、まるで呼吸を取り戻したように見える。
「……やっと、届いたんだな」
その言葉に、誰が答えるでもない。 ただ、風が草原を渡り、遠くまで続く道を示すように流れていく。
懐中時計の針は、静かに時を刻み始めていた。 男はその音を確かめるように耳を傾け、 そして、再び歩き出した。
今度は、過去でも未来でもない。
“いま”という瞬間の中を。
第4章『境界』 完です!
ついに彼の心に答えが宿ったみたいですね
しかーし!話はまだもーうちょっとだけ続きます!




