世界の呼吸
静かに終わりゆく世界で、男は“呼吸”を探す。
これは、止まった時間の中で世界が再び息を吹き返すまでの記録。
第1章『人の極致』
第1節〜プロローグ〜
雨はとうに止んでいた。
それでも路面には光が滲み、赤と青の残光が互いを飲み込み合いながら、
まるで呼吸を忘れた都市の鼓動のように脈打っていた。
男は立ち止まる。
長い時間を歩き続けた脚が、ようやく目的地に辿り着いたことを告げる。
街は息をしていなかった。
無数のホログラム広告が踊り、耳を刺すような機械音声が虚空に反響している。
その光たちは、まるで人間の代わりに笑い、叫び、泣いているかのようだった。
そして次の瞬間、すべての音が消えた。
無人の車両が通り過ぎるたび、赤と青の光が静かに波紋を描く。
誰もいない街の表面に、冷たい光だけが揺れ、音の代わりに沈黙を照らしていた。
男は静かに息を吐く。
その白い息さえ、冷たい光に飲み込まれて消えた。
コートの内ポケットで、古びた懐中時計が微かに震える。
針は動いていない。
それでも男は、その止まった時間にだけ、まだ“生きている何か”を感じていた。
ゆっくりと一歩、足を踏み出す。
濡れたアスファルトが赤と青の光を割り、
その中で、彼の影だけが確かに「人間の形」をしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この物語は、ある設定の断片から生まれ、対話を通して形になっていきました。
初作品となりますが、まだ続きがあります。
よろしければ次の章もぜひお付き合いください。




