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第六話 封印されたナナミを救え

 ◆試合通知:第2戦、対戦相手【アシュリー=クロフォード】


 対戦相手の情報を見た瞬間、ユウの胸に冷たいものが走った。


 対戦相手:アシュリー=クロフォード

 戦績:5勝0敗

 封印カード内訳:魔物6、人間1


「人間を……封印している?」


 このゲームで人間を封印するのは、封印対象への強い『執着』を持った人物が多い。


「人間を封印するなんて……人をなんだと思っているんだ」


 だが、ユウの胸には別の感情も芽生えていた。

 成り行きとはいえ、自分も、狼少女のライザを封印している。自分に今回の対戦相手のアシュリーを非難する資格があるのだろうかという疑問と、いずれ、自分も彼女と同じことをするのではないかという、いいしれぬ不安が頭をよぎる。


 気がつくと、彼の手には、『堕天使・キリア』のカードがあった。


「キリア……君は、どう思う?」


 このカードはユウがアンティルールで手に入れてから、ずっと沈黙していた。


「やっぱり答えてくれないか。それなら、試合の中で君と分かりあうしかないな」


 ◆バトルフィールド【光の空中庭園】


 対戦会場に指定されたのは、ホタルのように淡く光る花々が咲き乱れる、空に浮かぶ庭園だった。その幻想的な光景の中で、今回の対戦相手の灰色の髪の少女が待ち構えていた。


「ようこそ、初戦の勝者さん」


 アシュリーは笑っていた。無邪気な笑み。しかし、その目は一切笑っていなかった。


「ふふ、私のカード、見せてあげるわ」


 彼女が召喚したのは──。


 ◆キャラクターカード【ナナミ=グレイス】

 HP:230↑ スピード:7↑ ウエイト:4

 パッシブスキル:『忠誠の鎖』

 アクティブスキル以外の行動ができなくなる代わりに、特定のステータスが大幅に上昇する。

 アクティブスキル:『滅身の焔』

 3カウント後に自分の身体を爆発させることで、フィールド上の相手キャラクターと相手プレイヤーに大ダメージを与える。

 属性:炎


 水色の髪の少女が姿を現す。何故か、彼女の表情は怯えているように感じられる。


「やはり、君は人間を……!」


 ユウは言葉を失う。


 だが、アシュリーはあっけらかんと答えた。


「ナナミは私の最愛の存在だったの。でもね、私の気持ちを裏切って、男と付き合ったんだ。だから、カードを使って私のものにしただけ。誰にも渡したくないからね」


 その発言に、ナナミの表情が曇る。

 声には出さないが、その恐怖は全身から滲み出ていた。


「これがこのゲームの面白いところよ、ユウ。人を封印するって、こういうこと。一度封印したら、その人間はプレイヤーである私には逆らえないからねえ。あなたもやってるんでしょ?」


「ボクは……違う。ボクは……」


 ユウは手札を握りしめた。その時、『彼』の頭の中にカードの声が聞こえてくる。


『ユウといったな。今回は、私を使ってくれ』


『君は、キリアなのか?』


『ああ、彼女を見て、思うところがあるんだ。私が君に力を貸そう』


「よし、ボクはキリアを展開する!」


 ◆キャラクターカード【堕天使・キリア】

 HP:180 スピード:4 ウエイト:3

 アクティブスキル:黒翼の禁鎖領域

 1ターンに1度だけ、キャラクター1体のスキルを無効にできる。

 属性:闇・光(複合)


 キリアがカードから展開され、純白の翼と漆黒の翼を併せ持った美しい女性の姿が現れる。彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、宙に浮いている。

 

「それではカウントダウンフェーズを開始します──」


 黒い球体が上空から降りてきて、ジャッジメントシステムがカウントダウンの開始を宣言する。


「カウントダウンフェーズ、スタート」


 10──9──8


 アシュリーのカードが先に動いた。


「カウント7で、ナナミのスキルを使用する。滅身の焔、カウント4で発動するわ」


【滅身の焔】──発動した瞬間、彼女自身と相手に大ダメージを与える超リスキーなスキル。


「このスキルはね、私を裏切ったナナミへの罰なの。そして、彼女が自爆した瞬間、あなたたちも瀕死になるほどの大ダメージを受ける。その時が楽しみだわ」


「そんなこと、させるものか! キリア、僕に力を貸してくれ。全力でナナミを止めるよ!」


 7──6──5


 ナナミが駆ける。表情は無。だが、その足取りにはわずかな迷いがあった。


 そして、カウント4──ユウが叫ぶ。


「カウント4で、キリアの黒翼の禁鎖領域を発動! キリア、今だ!」


 ウエイトの低いキリアのスキルが先に発動する。闇の結界が展開され、ナナミの動きが止まる。黒翼の禁鎖領域の効果によって滅身の焔のスキルがキャンセルされ、彼女はその場に倒れ込んだ。


「滅身の焔をキャンセルするとは、やるじゃない。でも──」


「まだ終わってないよ。サポートカード、即時発動。マインドコントロール。対象は──ナナミ!」


 ユウは手札のカードを全て墓地に送って、マインドコントロールを発動した。


 ◆サポートカード【マインドコントロール】

 スピード:5 ウエイト:5

 効果:このカードは手札のカードを全て墓地に送ることで【即時発動】できる。発動から2ターンが経過するまで、対象のキャラクター1体のコントロールを得る。


「ちっ、即時発動型のサポートカードか!」


 マインドコントロールは、ユウがグリズリーベアをトレードして手に入れた、相手モンスターのコントロールを奪い、2ターンの間自分のものにする強力な効果を持ったサポートカードだ。

 さらに、自分の手札にあるカードを全て墓地に送ることで、カウントを無視して任意のタイミングで発動できる。

 ユウがカードの効果を発動させると同時に、ナナミのコントロール権がアシュリーからユウへと移る。


「私のナナミを奪ったわね。絶対に許さない! すぐに取り返してやるわ!」


 激昂するアシュリーを気にもせず、ユウはナナミに優しく語りかける。


「ナナミ、君の気持ちを聞かせてくれ」


 封印されたカードは、所有者の命令には逆らえない。だが、今はマインドコントロールの効果で、命令権がユウに移行している。


 彼女の目に、初めて涙が浮かんだ。


「助けて……苦しいの……アシュ……やめて……」


 アシュリーの顔が歪んだ。


「そんな顔をしないで……ナナミ。……あなたが悪いの。私は『あなたを守る』って言ったのに、あなたが裏切るから……。私の気持ちを裏切るから、いけないんだよ!」


 ユウは、アシュリーの告白に一つの真実を見た。

 

 アシュリーは、自分の愛を受け入れなかったナナミを認めたくなかったのだ。

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