第五話 初めての洞窟探索
初戦を終えたユウは、運営から新たなブランクカードを受け取っていた。
(今回はライザのおかげで勝てたけど、次も勝てるとは限らない)
ユウはブランクカードに封印して新たなカードを作ることにした。
「ライザ、新しいカードを作ろうと思うんだ。どこかいい場所はあるかな?」
『確か、この近くに「還らずの穴」という洞窟があったはずだ。そこならば、強いモンスターがいるから、封印すれば強力なカードになるよ』
「洞窟か。ボク、洞窟探検は初めてだよ」
『大丈夫。私がサポートするから、ユウは心配しなくていいよ』
二人は「還らずの穴」と呼ばれる洞窟へと向かうことにした。この洞窟は内部が迷路のようになっていて、一度入ると帰還することができないという迷信があることから、地元の人たちから、還らずの穴と呼ばれて恐れられていた。
洞窟の入口は、山の中腹にあった。大きな岩の間に、真っ暗な闇がまるで口を開けているように存在している。
『ここで私を解放してくれ。私の鼻で君の探索をサポートするよ』
「お願いするよライザ。一緒に次のカード候補を見つけよう」
ライザが先に洞窟に入り、その後をランタンを持ったユウがついていく。
「中から複数の魔物の臭いがする。ユウ、気をつけて進もう」
慎重に洞窟の中を進みながら、ユウはライザと出会った時のことを思い出していた。
◇◇◇
森の中で偶然出会った白い毛並みの狼。
透き通るような青色の瞳を持ったこの狼は、身体中に傷を負って出血していた。ユウが近づくと、狼は人間の少女の姿へと変わった。
「大丈夫? 今ポーションを飲ませるからね」
ユウはカバンからポーションを取り出して、少女に飲ませた。
「君の名前は……?」
「私はライザ。吸血鬼に追われているんだ。しばらくかくまってもらえないか?」
少女は震えながら答えた。
その時、ユウの持っていたカードが反応する。
「そのカード、スペルカードだな? 頼む、私をカードに封印してくれ。その中なら安全だ」
【封印条件を達成しました】
脳裏に響く通知。真っ白なブランクカードを少女にかざすと、カードに名前が記入される。
カードが光を放ち、少女の身体がゆっくりとカードの中へと封じられていく。
こうして、ユウの手には、強烈な力を秘めたカードが生まれた。
ユウは、白い狼の描かれたカードを見つめながらつぶやく。
「これで僕はゲームに参加できる。だけど……」
このゲームで勝ち続けるには、他者を封じ、力を奪うしかない。
それでも、彼には――叶えたい願いがある。
「僕には、叶えたい『願い』があるんだ」
「それならば、私が力を貸そう。助けてもらったお礼だ。二人なら、きっと願いを叶えられる」
カードの中から、ライザの「声」が聞こえてくる。
「そうだね。君となら、きっとできる。そんな気がしてきたよ」
ユウの瞳に、覚悟の炎が灯った。
◇◇◇
ユウたちは目当てのモンスターを探しながら洞窟の中を進んでいった。
そして、洞窟の最奥に到達すると、そこでは巨大な熊の魔物が待ち構えていた。腹を空かしているのか、今にもユウたちに襲いかかってきそうな勢いだ。
「こいつはグリズリーベアだ。私が相手をする。ユウは下がっていて」
狼化したライザは素早くグリズリーベアの懐に潜り込むと、鋭い爪で敵の脇腹を切り裂く。
しかし、次の瞬間、ライザはグリズリーベアの反撃をくらい、弾き飛ばされてしまう。
「ぐっ、こいつ、カウンタースキル持ちか……」
ライザは素早く体勢を立て直す。
「ライザ、ボクが隙をつくる。君は確実に急所を攻撃して、こいつを倒してくれ!」
ユウは落ちていた小石を素早く拾うと、グリズリーベアに投げつける。
小石は、グリズリーベアの鼻へと正確に飛んでいき、クリーンヒットした。
「やるじゃないか、ユウ! あとは私に任せろ!」
ライザはユウの投石で怯んだグリズリーベアの喉元を正確に切り裂いた。
ライザの一撃をくらったグリズリーベアは、前のめりに倒れ込んだ。
【封印条件を達成しました】
こうして、ユウはライザと協力して、新しい魔物を封印することに成功した。
◆キャラクターカード【グリズリーベア】
HP:240 スピード:6 ウエイト:8
アクティブスキル:カウンター
敵キャラクターから攻撃を受けた時に発動できる。攻撃をしてきたキャラクターに反撃してダメージを与える。
属性:風
「やったよライザ。君のおかげでグリズリーベアを封印できた」
「君の投石が素晴らしかったから勝てたんだ、ユウ。君がマスターで、私は本当によかったよ」
頭の中に、さらに言葉が流れ込んでくる。
【ユウ様のスキルをもとにサポートカードが作成されました】
ブランクカードが輝き、「投石」のサポートカードが作成された。
◆サポートカード【投石】
スピード:10 ウエイト:5
効果:対象のキャラクター一体を次のカウントダウンフェーズまで行動不能にする。
「なるほど、ボクの行動によっても、カードが作成される場合があるのか」
「これは面白い。これなら、思ったよりもずっと早くカードを集められるかもしれない。よかったな、ユウ」
その後、ライザの嗅覚によって、二人は迷うことなく洞窟の出口へと向かうことができた。
洞窟から出ると、冒険者の格好をした男が声をかけてきた。
「よお、お二人さん。その様子だと、洞窟の主のグリズリーベアを封印したようだな。やるじゃないか。実は俺、洞窟が大の苦手でね。こうして洞窟の中から出てくる人間に声をかけてたってわけさ。よかったら、そのカード、俺のカードとトレードしないか?」
「トレード? そんなこともできるのか?」
「もちろんさ。俺はちょうどグリズリーベアが必要でね。このサポートカードと交換っていうのはどうかな?」
「──このカードは!」
「どうだい? 悪くない話だろ? そいつは強力なカードだから、後できっと役に立つぜ」
「わかった。交換するよ」
「よし、トレード成立ってことで、ありがとさん。お互い、頑張ろうぜ」
冒険者風の男は、グリズリーベアのカードを受け取ると、嬉しそうに鼻歌を歌いながら立ち去っていった。
そして、ユウのもとに次の試合の通知が届く。




