第四話 ライナーの警告
異様な静けさの中、草原にカウントダウンの音声が響いている。
10──9──8──
草原に立つユウの前には、銀髪の青年・ライナーと、そのキャラクターカード【ビーストソルジャー】が構える。
ユウの足元には、彼が召喚した【フォレストウルフ】。
フィールド上に召喚されると、ただ静かに彼の命令を待っていた。
7──6──
「カウント6で行動。獣王斬だ! 敵を切り裂け!」
ライナーがビーストソルジャーに攻撃を命令する。
彼のモンスターが前方に飛び出す。獣の戦士は、持っている斧を振り下ろして斬撃を飛ばした。
「かわせ! フォレストウルフッ!」
【パッシブスキル:神速】発動。フォレストウルフは飛んできた斬撃を素早く動いて回避する。
「ちっ! 新人のくせにやるじゃないか──」
5──4──
カウントダウンが続いていく。
「カウント4で行動。フォレストウルフ、攻撃だ!」
フォレストウルフが一気に距離をつめてビーストソルジャーを鋭い爪で切り裂く。
【ビーストソルジャー】がうめき、HPが削られていく。
2──1──
突然、フォレストウルフのカードが輝き、もう一つ、スピードの文字が浮かび上がる。
それを見たライナーの顔に焦りが浮かぶ。
「スピードが二つに増えた……まさか、連続行動持ちのカードだったのかよ!」
「カウント1で再度行動。フォレストウルフ、これで決めるよ!」
フォレストウルフは大きくうなづくと咆哮をあげながらビーストソルジャーに飛びかかる。
二発目の攻撃が命中。耐えきれず、【ビーストソルジャー】が崩れ落ちる。
「なんで、連続行動持ちなんてレアカードを新人が持っているんだよ……」
次のターン、キャラクターが手札にいないライナーはフォレストウルフからの直接攻撃を受けて、ライフを大きく削られた。
「ぐっ、いい気になるなよ。俺にはまだ、切り札のキャラクターがいるんだ」
しかし、その後もユウとフォレストウルフはライナーのキャラクターを倒していった。
(クソッ! あのフォレストウルフ、連続行動持ちも厄介だが、神速とかいうスキルがヤバい。俺のモンスターの攻撃をことごとく回避しやがる。カードの説明では確率発動のはずなのだが……。まさか、俺の知らない、未知のルールがあるっていうのか?)
予想外の苦戦を強いられ、ライナーは焦りの表情を浮かべている。
(だが、俺の切り札、堕天使・キリアなら、フォレストウルフのスキル自体を無効にできる。それまでの辛抱だ!)
しかし、ライナーは切り札である堕天使・キリアを引き当てるまで持ち堪えることができずに、フォレストウルフの攻撃でライフを0まで減らされてしまった。
「クソッ! この俺が初心者に負けるなんて!」
【対戦終了】【勝者:ユウ】
フィールドに響く無機質な勝利の宣言。
次の瞬間、フォレストウルフが美しい少女の姿に変身する。彼女は狼人間だったのだ。
「ありがとうライザ。君のおかげで勝てたよ」
「ふふ。君が無事なら、それでいいんだ。また私を使っておくれ」
人間の姿となったフォレストウルフ『ライザ』はユウの身体を優しく抱きしめて、頬に軽くキスをしたあと、カードの中へと戻っていった。
こうして、ユウの初戦は『彼女』の活躍によって、勝利に終わった。
敗北したライナーが悔しげにデッキのカードを見せる。
「アンティルールだ。一つ選んで持っていけ……」
ユウは、彼のカードを奪うことを一瞬ためらう。
だが、自分の目標を思い出す。「勝ち残って願いを叶える」には、戦力の拡充が必要だ。
「……このカードにするよ」
◆キャラクターカード【堕天使・キリア】
HP:180 スピード:4 ウエイト:3
アクティブスキル:黒翼の禁鎖領域
1ターンに1度だけ、キャラクター1体のスキルを無効にできる。
属性:闇・光(複合)
彼が選んだのは、キャラクターカード【堕天使・キリア】。闇と光の属性を併せ持ち、敵キャラクターのスキルを無効にできる強力なカードだ。
「まさか、俺の切り札のキリアを選ぶとは。やはりセンスがあるな、お前。だが覚えておけ……」
ライナーは立ち去る前につぶやく。
「カードに封じられるのはモンスターだけじゃない。その対象が人間だったとき、お前は、『そいつの全てを奪っているんだ』」
その言葉に、ユウの表情が曇る。
【封印】──それは、ただカードにすることじゃない。
意思ある存在を、「所有物」に変えるということ。
たとえそれが、人間でも──。




