第二十一話 深緑の森の探索
どんなデッキを相手にしても、状況をコントロールして勝ちきる。それにはもっと強力なカードが必要になる。
そのため、ユウはもう一度深淵の地下迷宮に挑戦することにした。
ユウは深淵の地下迷宮の第一階層を抜けて、第二階層の入口まで到達する。入口に着くと、ユウはライザたちをカードから解放した。今回、ユウは四人全員で探索するつもりだ。
第二階層に到着すると、目の前に広大な森が飛び込んできた。圧倒的な緑の物量に驚くユウ。
「信じられない。地下にこんなに広大な森があるなんて」
「天井に生えている苔が光っているでしょう? だから、地下でも昼間みたいに明るいし、木や植物も生育できるらしいわ」
「詳しいのね。アシュリー」
「まあね。この世界のダンジョンについては、色々と調べていたから。冒険でも、このスペルカードゲームでも、情報収集がとても大事なのよ。それで、この深淵の地下迷宮については、第二階層到達者の記録が冒険者ギルドに残っていたの。それによると、この森に長く滞在すると、幻覚を見るようになるらしいわ。そこも気をつけないとね」
アシュリーはユウたちに第二階層である「深緑の森」の説明を行う。「深緑の森」は巨大な茸や発光する苔に覆われた異様な森で、天井を覆っている発光する苔によって、まるで昼間のように明るい。空気に毒素があり、長く滞在すると幻覚を見る。そして、数少ない帰還者の証言の内容では、証言者によって、森の広さや形が全く異なっている。どうやら、彼らは幻惑の影響を強く受けていたようだ。
「というわけでキリア、私たちの周囲を風の魔法で覆ってくれる?」
「わかった。でも、どうしてなんだ?」
「幻覚を見るのはおそらく、毒の胞子のようなものを吸ってしまうからだと思うの。だから、風の魔法で毒の胞子を弾き飛ばせばいいって思ってね」
「なるほど。それはいいアイデアだ。念のため、口と鼻を布で覆っておこう。こうすれば、風の魔法をすり抜けた胞子を吸うのを防げるから」
光の胞子が舞う幻想的な森の中を、四人は進んでいく。キリアの風の魔法のおかげで、ユウたちは幻覚を見ずに済んだ。
森の中にいる魔物たちは、ユウたちのことをじっと見つめている。
「手を出してこない。警戒心が強いのかしら?」
「私たちが幻覚を見ていないからだろう。おそらく、ここの魔物たちは幻覚を見ている人間を襲っているから、幻覚の影響を受けていない私たちが珍しくて、様子を見ているのかもしれないな」
「それは好都合だよ。第二階層のボスと戦うことを考えたら、無駄な戦闘は避けたいからね」
ユウたちは魔物を無視してどんどんと森を進んでいく。
「ここは迷いの森のようになっているね。第一階層と同じで、正しい道順を通らないと永遠に森の中を彷徨うことになりそうだ」
「大丈夫、ボクにはなんとなくわかるから。こっちだよ」
ユウが直感で正しいルートを選択する。
「本当、ユウの第六感ってすごいわ。未知のダンジョン探索にこれほど適したスキルは他にないんじゃないかしら?」
しばらく進むと、古代の神殿のような場所に到達した。石を重ねて作られた神殿の外壁には、苔がびっしりと生い茂っていて、建築されてから相当の年月が経過しているのがわかる。
「この中に第二階層のボスがいそうだ。みんな、気をつけていこう」
第二階層のボスは妖精の女王ヴェラ。蝶のような羽根の生えた彼女がユウたちに立ちふさがる。
突然、突風が巻き起こる。目を守るために、思わず顔を腕で覆うユウ。
「ぐっ!」
気がつくと、ライザたちがいない。
「えっ!」
いつの間にか、ヴェラはユウの隣に立っていた。
「私はヴェラ。この第二階層のボスさ。君の仲間たちは、カードに戻させてもらったよ。ふふ、かわいい顔してるわね。気に入った。少し私と遊ぼうじゃないか」
仲間を強制的にカードの中に戻されて、絶対絶命のユウ。
「君の頭の中の記憶を読ませてもらった。君の願い、この私が叶えてやろう」
ユウの記憶を読み取ったヴェラは、ユウの妹のアミの姿へと自身の身体を変身させる。
「なんだと?」
目の前にいる『アミ』がユウに話しかけてくる。
「お兄ちゃん、アミねえ、ずっとお兄ちゃんのことが好きだったの。ねえ、私を抱いてよ、お兄ちゃん」
ずっとユウが大好きだったと告白し、関係を迫ってくるアミ。
「落ち着け。これはヴェラの作り出した幻影だ。だけど……」
ユウは目の前にいる妹が偽者だと分かっていながらも、それを現実だと受け入れてしまいそうになる自分と葛藤していた。
妹にもう一度会いたいという、自身の願いが、今まさに叶っているのだから、無理もない。それが例えまやかしだとしても──。
アミの姿になったヴェラがユウを押し倒して、身体の上にまたがってくる。
「さあ、私と一つに結ばれましょう。抱いて、お兄ちゃん」
すでにユウはアミの姿そのものとなったヴェラに抵抗することができない。
しかし、突然アミの姿が、ミアと重なる。
「惑わされないで。私はここにいるよ、『お兄ちゃん』」
脳内に響くミアの言葉で我に返ったユウ。
「そんな、まさかミアは……」
今まで気づかなかった事実に気づき、呆然とする。
「ほう、自力て私の幻覚を打ち破るとはな……」
【封印条件を達成しました】
ヴェラがブランクカードに封印される。
◆キャラクターカード【妖精の女王ヴェラ】
HP:360 スピード:6 ウエイト:2
パッシブスキル:突風
このカードがフィールドに展開されたターンのカウントダウンフェーズ開始時に、相手フィールド上に存在する全てのカードを相手の手札に戻す。
アクティブスキル:誘惑の芳香
次のターンのカウントダウンフェーズ終了時まで、相手キャラクター1体を行動不能にする。
属性:風
「一緒に暮らしていて、なんで気づかなかったんだ、ボクは……」
急いでダンジョンを離脱し、ファストトラベルの魔法でミアの家へと移動するユウ。だが、すでにミアはいなくなっていた。
「そんな……どこへ行ったんだ、ミア」
ユウはミアがいたはずの部屋を見渡しながら、呆然としていた。




