第二十話 優しいアシュリー
宿舎区画の部屋で、ユウはライザを解放していた。
「ライザ、君に辛い思いをさせてしまった。本当にごめん」
ユウは前回の戦いで結果的にライザを傷つけてしまったことを謝罪した。
「私こそ、操られて、あなたに攻撃してしまった。本当にごめんなさい」
ライザもユウを攻撃してしまったことを謝罪した。ライザはユウの顔を見つめることができずに、視線を落としている。
「いや、ボクが悪いんだ。あんな奴につけ入る隙を見せたボクが甘かったんだ。もう、ライザをあんな目に合わせたりはしない。約束する」
「──ユウは優しいね」
ライザは思わず泣き出してしまう。ユウはそんなライザをそっと抱きしめた。
「もう、あんな奴に好きにはさせない。ボクがデュエルをコントロールして、敵を圧倒して勝つ。もうこんなに悔しい思いをするのも、君に嫌な思いをさせるのも嫌だからね」
ユウがライザを優しく押し倒す。自分の覚悟を伝えるように、今度はライザを強く抱きしめて、彼女の唇に何度もキスをした。
◇◇◇
次の日、ユウはあらためて三人を解放する。
「みんなに話があるんだ」
ユウは思い詰めた顔でライザたちに話しかける。
「今までのボクには覚悟が足りなかった。これからはみんなを全力で守る。二度とみんなを傷つけるような真似はさせない。相手につけいる隙を与えないように、完璧にゲームをコントロールして勝つ。そして、全力でこのゲームのトップを獲りにいくよ」
その様子を見かねたアシュリーがユウに声をかける。
「ユウ、ちょっと付き合ってくれる? みんなも。四人で行きたい場所があるの」
アシュリーがファストトラベルの魔法で、ユウたちをとある山の麓まで移動させた。
「この山は標高が低い山だけど、周りに高い地形が無いから、頂上からの景色が最高なの。たまにはみんなで息抜きしましょう。いいでしょ、ユウ?」
「……そうだね。こうしてみんなで出かけることもなかったから、いいかもしれない。ありがとう、アシュリー」
アシュリーに連れられて、みんなは山を登る。この山は登山道が整備されていて、山に登るのが初めてなユウでもなんなく登ることができた。
一時間ほどで、四人は山の頂上に到着した。
頂上からは、遠くの山々やまるで海のように見える森、街の景色がよく見える。色鮮やかな景色に、ユウたちは感動した。
「この世界がこんなに美しいなんて、ボクは知らなかった……」
ユウの瞳から、自然と涙が流れ落ちる。
「いい景色でしょう? 私はね、昔両親にここに連れてきてもらったの。それから、気持ちがモヤモヤする時は、ここに来て、この景色を見るようにしているのよ」
ユウたちはしばらく山頂からの景色を眺めていた。
「どう? 少しは気持ちが晴れた?」
「ああ、こんなに素晴らしい景色は初めてみたよ」
「……一人で背負いすぎだよ、ユウ。それじゃあ、きっといつか、あなたの心が壊れてしまうわ」
「私もそう思う。ユウ、私たちをもっと頼ってほしい。私もユウを守る。ライザやアシュリーもだ。このまま四人でずっと一緒に笑っていたいからね」
キリアもアシュリーに同調する。
「……わかった。ごめん、みんな。みんなを守りたくて、ボクは必死になっていた」
ユウがアシュリーたちに頭を下げる。
「ありがとう、アシュリー、キリア。本当にありがとう。私も楽になった」
ライザも二人に頭を下げる。
「あはは。それじゃあ、今から街に戻って、みんなで美味しいランチでも食べましょう」
アシュリーがライザとキリアの手を握ってユウに微笑む。
(ありがとう、アシュリー。君がいなかったらボクは、とても大切なことを見失うところだった)
ユウは心の中で、アシュリーに深く感謝した。




