第十七話 謎の少年との出会い
結界の影響で能力が制限されているため、ユウはライザとキリアも呼び出してアシュリーも含めて4人で戦うことにした。
ユウはライザとキリアのカードを取り出して、封印を解放する。
「よし。ライザ、キリア、ボクに力を貸してくれ」
「まったく、最近ユウはアシュリーばっかり相手にして。本当に寂しかったんだからね」
ライザが恨めしそうにユウを見つめている。
「ライザ、愚痴は後だ。今は目の前の敵に集中しよう」
キリアが全員に魔法でバフをかけて能力を強化する。
「よかった。魔法でバフをかけた分はダンジョンの制限に引っかからないみたい」
「ありがとう、キリア。みんなで分散して、攻撃の的を絞らせないようにしよう。それに、あの尾の針は危険だ。針が届かないギリギリの間合いで攻撃するんだ」
「了解」
「わかったわ」
ユウの合図でライザたちは散開して、距離を取りつつ敵を牽制する。
「身体が大分動くようになった。やっぱり、動きが鈍くなっていたようね」
アシュリーがサソリに攻撃された腕をさすりながらつぶやく。ユウの回復魔法のおかげで、傷はほとんど治っていた。
「だが、このままではらちが開かないな。ここは私が……」
「待ってライザ。今、こいつの状態を観察しているから。もう少しで何かが掴めそうなの」
アシュリーはライザの動きを静止する。彼女はサソリの敵の動きを観察しながら、敵の状態を頭の中で分析していた。
「キリア、私たち全員に魔法で『雷』の属性を付加することはできる?」
「もちろん。なるほど、弱点の属性を見つけたんだな?」
「ええ。この敵は金属が多いから、雷の属性に弱いはずよ」
「オーケー。今から全員に属性を与えるよ」
キリアが魔法で雷属性を全員に付与する。
「よし、まずは私が攻撃する!」
雷の属性を得たことで、ライザのスキルが「疾風迅雷」へと変化した。
雷のオーラを纏い、目にも止まらぬ速さで敵を攻撃していくライザ。
ライザの雷の猛攻を受けた敵がスタンして倒れ込む。
「ライザ、首の繋ぎ目からコアが見えるでしょ? そこを攻撃してコアを破壊して!」
「わかった。これで決める!」
ライザが雷のオーラを帯びた爪を機械のサソリの喉元に突き刺す。機械兵器のコアに爪が到達して、コアが砕け散った。コアを破壊された機械兵器は活動を停止して動かなくなった。
「やったね、ライザ!」
ユウたちがライザのもとへと駆け寄る。
「ありがとうアシュリー。あなたの分析のおかげで勝てたよ」
人間の姿に戻ったライザがアシュリーに微笑む。
「もう仲間なんだから、当たり前だよ。ユウをこのスペルカードゲームで最後まで勝ち残らせる。そのために、私たち、もっとがんばらないとね」
アシュリーがライザとキリアの肩に手を回して笑う。
「そうだな。私たちはユウのために全力で戦うよ。ユウ、これからも私たちは、あなたを全力で支えるからね」
「みんな、ありがとう。ボクは本当にみんなと出会えて、こうして一緒に戦えて、本当に幸せだ」
ユウの瞳から自然と涙が溢れ出して、頬を伝った。
【フォレストウルフ、堕天使・キリア、アシュリー=クロフォードのレベルが上がりました。ステータスとスキルが強化されます】
「私たちもレベルが上がった。これでもっとユウの役に立てる」
ライザたちが喜んでいる。
【封印条件を達成しました】
ユウの脳内にアナウンスが流れて、第一階層のボス、「アーケインギア・スティンガー」がブランクカードに封印される。
◆キャラクターカード【アーケインギア・スティンガー】
HP:420 スピード:6 ウエイト:8
パッシブスキル:マジックガード【永続効果】
このカードを対象とするマジックカードの効果を無効にする。
アクティブスキル:急所突き
一定の確率で相手のHPに関係無く敵を倒すことができる。
属性:機械
「まさか、一撃死のスキルを持っていたとは。アシュリー、下手したら君はあの時やられていたかもしれないよ」
「本当? 何も無くてよかったわ。気をつけないとね」
アシュリーは顔を真っ青にしながらユウに返答した。
「私たちはもう限界みたい。ユウ、ありがとう。私たちはいつでもあなたのために戦うからね」
ライザたちがカードの中へ戻る。
「こちらこそ、いつもありがとう。本当にボクは幸せ者だ」
ユウは三人のカードに口付けをした。
◇◇◇
ライザたちがカードの中へと戻ってから、ユウは一人で第一階層の中を移動していた。地下迷宮の出入口へと向かう途中、金髪の少年が声をかけてくる。
「君、ソロでダンジョンを探索しているのかい?」
「ああ、これから入口まで戻るところなんだ」
「実は、僕も同行していたキャラクターがカードに戻ってしまってね。よかったら、一緒に入口までいかないか?」
「いいよ。一緒に行こう」
少年はクリスと名乗った。彼も、ユウと同じくスペルカードゲームのプレイヤーで、深淵の地下迷宮を探索に来ていたらしい。彼は、笑顔でユウに接しているが、どことなく、闇を抱えているように感じられた。
ダンジョンの入口へと向かいながら、二人は話をする。
「なるほど。君の願いは、妹を復活させることなんだね。──僕の願いは、この世界を壊して、作り直すことさ」
「えっ!」
クリスの願いを聞いて、驚きを隠せないユウ。
「僕は、この世界に絶望していてね。この世の全てが嫌いなんだ。だから、全て壊す。そして、僕の思い通りに作り直すんだ。僕にはわかる。君も僕と同じで心に闇を抱えている。そんな君なら、この僕の気持ち、わかるだろう?」
クリスが冷たさを含んだ笑顔でユウを見つめる。
「昔はボクもそうだった。でも今は違うよ。大切な仲間がいるからね」
覚悟を決めた表情で、ユウは前を見据えている。
「そうか。君は仲間と共に歩む道を選んだんだ。でも、それでいい。何が正しいのかはスペルカードゲームで決まる。勝ち残った勝者だけが願いを叶えられるんだからね」
ユウが正しいルートを選んだおかげで、二人はすぐに入口へと戻ることができた。
「君と話せて本当に楽しかったよ。このカードは同行してくれたお礼だ。君にあげるよ」
クリスはスペルカードをユウに手渡す。
「ありがとう。ボクもだよ。君と話せて本当によかった」
ユウはクリスの手を握る。二人はがっちりと握手をした。
「──いつか、君と戦える日を楽しみにしているよ。それじゃあ、またね」
クリスは手を挙げてユウに別れの合図を送ると、ダンジョンから立ち去っていった。




