第十五話 新しいダンジョンへ
宿舎区画の部屋で、ユウはアシュリーを解放した。
「アシュリー、君とデッキについて相談したいんだ」
「解放してくれてありがとう、ユウ。カミラとの戦いで、思うところがあったんだね?」
「うん。このスペルカードゲームには、いろんな戦略があるのを思い知らされた。そんな中、ボクはこの先どんな相手と戦っても、勝たなきゃいけないからね」
ユウは、ゲームに詳しいアシュリーと、今後の対策を練ることにした。
「とりあえず、相手がどんな戦法を取ってきても柔軟に対応できる、そんなデッキにしましょう。私はコントロールデッキがいいと思う。考え方はカミラの使っていたデッキのロックの概念に似ているけど、相手の行動を無効にしたり、手札を捨てさせたりして、こちらが常にアドバンテージを得られるように戦況をコントロールするの」
「そうだね。ボクもそれがいいと思う。そのためには、もっとたくさんのカードがいる……」
「それなら、もう一度ダンジョンへ行きましょう。今度は魔術師の塔よりももっと攻略難易度の高いダンジョンへ。そうすれば、デッキを作成するのに必要なカードも手に入れやすいはずよ」
アシュリーがコントロールデッキに必要なカードを紙に書き出してくれた。
それによると、効果を打ち消したり、相手のカードを破壊できるカード、場のカードを手札に戻すカード、相手の行動を制限するカードが必要になるようだ。
「とりあえず、必要になるカードは書いたよ。あとは、この効果になるようなカードをうまく見つけることだけど、効率よく手に入れるにはトレードしていくしかない。こちらもレアなカードを手に入れて、積極的にトレードしていきましょう」
「ありがとうアシュリー。ボク一人じゃここまで考えるのは無理だったよ」
「ふふ、パートナーだもの。これぐらいは当然よ」
アシュリーはうれしそうにユウに微笑む。
(こうして二人でデッキを考えていると、本当に楽しいし、頼りにされているのを実感できて、本当に幸せだわ。ありがとうね)
その後もユウとアシュリーはゲームの戦略について語り合った。
「ああ、もう時間みたい。ありがとうユウ。あなたとゲームについてこんなにお話しできるなんて、思わなかった。夢のような時間だったわ」
「ボクもだよ。本当にありがとうアシュリー。また一緒にゲームのお話、しようね」
ユウはアシュリーを抱きしめる。アシュリーはユウに優しくキスをすると、カードの中へと戻っていった。
次の日の朝、ユウはカードからキリアを解放する。
「おはよう、ユウ。今日はどんな用かな?」
「おはよう、キリア。実は、ダンジョンに行く前に、基本的な魔法を習得しておきたいんだ。ボクが魔法を使えれば、ダンジョンの攻略が楽になるし、なにより、ボクが魔法が使えれば、マジックカードを自分で作れそうだからね。前の時みたいに教えてもらえないかな?」
「もちろんだ。私が責任を持って、君を一人前の魔法使いにするよ」
にっこりと微笑みながら、キリアが答える。
手を繋ぎながら宿舎区画の近くの森へ向かった二人。
「それじゃあ、前回の続きをしよう。私が君の魔力を炎に変換するよ」
ユウの手のひらから、炎の球が出現する。
「今ので大体感覚は掴んだ。次はボクがやってみるよ」
今度はユウが一人で魔力を炎に変換する。ユウの手のひら小さな炎が出現した。
「やるじゃないか、ユウ! 一発で炎を出せるなんてすごいよ」
「でも、まだキリアみたいに炎の球にはできてないよ」
「十分だよ。この調子なら、すぐにできるようになる」
「ふふ、そうだといいなあ」
その後もユウとキリアの魔法の訓練は続いた。キリアの的確な指導のおかげで、ユウは基本的な魔法を全て習得することができた。
「わずか半日で基本魔法を全てマスターするとは……。やっぱり君はセンスがいいな」
「キリアの教え方が上手なだけだよ」
「ふふ、ユウは本当にやさしいな。ああ、時間みたいだ。今度は応用魔法も教えるからね」
キリアはユウにキスをしてから、カードの中へと戻っていった。
その後、近くの森へと移動したユウはライザを解放する。
「ライザ、僕と戦闘の訓練をしてほしいんだ。次のダンジョンに行く前に、魔法を使って戦えるようにしたい」
「さすがだね、ユウ。素晴らしい心がけだ。もちろん、よろこんで協力するよ」
ユウとライザは静かな森の中で向かい合う。
「ライザ、手加減は無しでいい。本気でやろう」
「わかった。君を倒すつもりで、本気で行かせてもらうよ」
ライザがユウに飛びかかってくる。ユウは魔力を足に込めて、その攻撃を横に飛んでかわす。そのまま、炎の球を手に作り、ライザに向けて飛ばす。ライザも、この攻撃をギリギリのところで回避する。回避したライザを、ユウは風の魔法で吹き飛ばした。
飛ばされたライザは、素早く受け身を取って立ち上がる。同時にユウに素早く飛びかかる。身構えたユウを見たライザは一瞬だけ立ち止まり、テンポを変えてユウに攻撃する。ユウはそのフェイントに対応できず、ライザの攻撃を受けて、そのまま倒された。
ユウの上に乗りながら、ライザが話しかける。
「やるじゃないか、ユウ」
「まだまだだよ、ライザ。君のフェイントに見事に引っかかった」
「戦闘経験を積んでいけば、君はもっともっと強くなれる。さあ、続きをやろうか」
その後、二人はお互いの身体がボロボロになるまで戦い続けた。
「あはは。もう限界だ。全身が痛いよ」
「あれだけ全力でやり合ったんだ。当たり前だよ」
「本気でやってくれてありがとう、ライザ。今回復するからね」
ユウはライザに回復魔法をかける。ライザの身体の傷が癒えると同時に、彼女がレベルアップしたとのメッセージがユウの頭の中に流れた。
【フォレストウルフのレベルが上がりました。ステータスとスキルが強化されます】
◆キャラクターカード【フォレストウルフ】
HP:200 スピード:7↑・3↑ ウエイト:3
パッシブスキル:神速
敵の攻撃を一定の確率で回避する。このカードのスピードが上昇する。
アクティブスキル:疾風牙
このスキルを使う場合、相手のウエイトに関係なく、必ず先制して攻撃できる。
属性:風
ユウがライザのカードを確認すると、確かにステータスが強化されている。
「すごい、ライザの能力が上がっているよ!」
「君のおかげだよ、ユウ。本当に感謝している」
ライザは人間の身体に変身すると、ユウの身体を優しく抱きしめる。
「これからも一緒に訓練しよう。ライザとなら、きっと強くなれるはずだから」
ユウは優しくライザに微笑む。ライザは幸せそうな顔をしながら、カードの中へと戻っていった。
◇◇◇
「このダンジョンはまだ完全に攻略した人がいないの。かなり難易度が高いけど、いいのね?」
アシュリーがユウに問いかける。
「もちろんだよ。そのために、ボクは魔法を習得して戦闘訓練をしたんだから」
「わかったわ。それじゃあ、ファストトラベルの呪文でダンジョンへと向かいましょう」
アシュリーがユウと自身にファストトラベルの呪文をかける。二人はダンジョンの入口へと移動した。
こうして、ユウは『深淵の地下迷宮』と呼ばれる未攻略ダンジョンに挑戦することになった。




