第十話 アシュリーとの冒険
ユウは次の試合に向けて、新たなカードを手に入れるために、冒険に出ることにした。『彼』の隣にはカードから解放したアシュリーがいる。
「本当にカードから出ていてもいいの?」
「アシュリーもその方がいいでしょ? ずっとは出ていられないけど、ね」
スペルカードに封印された存在を、所有者はカードから解放することができる。ただし、一定の時間が経つと、カードの中へ強制的に戻されてしまう。そして、また一定の時間が過ぎるまで、再度解放することはできない。
「うれしい。ありがとうユウ、大好きだよ」
アシュリーが顔を真っ赤にしながらユウに抱きつく。
「ねえ、アシュリー。君は冒険、得意だよね? ボクにいろいろ教えて欲しいんだ」
「まあ、それなりに冒険はしてきたけど。それなら、ダンジョンに行こう。あそこなら、モンスターもアイテムもいっぱい手に入る。それに、ユウはマジックカードを持ってないでしょ? 私が手に入れてあげる」
「ありがとう。もうボクは、負けるわけにはいかなくなったからね。少しでも強いカードを手に入れたいんだ」
「ユウ、その目、すごくいいよ。ほんと、いい顔してる。それじゃあ、私も全力であなたをサポートするね」
(あぁ……本当にかっこいい……。こんなユウと一緒に冒険できるなんて、私、幸せだよ)
アシュリーは顔を赤らめながらファストトラベルの魔法を唱える。魔法の効果で、二人は大きな塔の入口まで一瞬で移動した。
「ここは魔術師の塔と呼ばれるダンジョン。魔法に関するアイテムがたくさん手に入るから、マジックカードもたくさん手に入るよ。さあ、行こう」
アシュリーはユウの手を握ると、彼の手を引きながら塔の中へと入っていった。
魔術師の塔の中では、複数の冒険者がパーティーを組んで探索している。
「ねえ、ユウ。あなたはダンジョンは初めてだよね?」
「うん。この世界に来てから、洞窟にいったことはあるけど、塔は初めてだよ」
「わかった。何事も、初めてというのは大変なものなの。私は昔、男に無理やり……。い、いや、なんでもないわ。それじゃ、今から私がユウにダンジョンの探索方法を教えてあげるね」
(……アシュリーが男の人を嫌いになったのは、男の人に無理やり嫌なことをされたからなのかな?)
ユウはあえてそのことには触れないようにした。
アシュリーはユウにダンジョンマップとコンパスを渡す。
「このダンジョンは有名だから、こうして既製品の地図があるんだ。だけど、あまり知られていない、未知のダンジョンの場合は、自分で地図を書くようだよ」
「へえ、結構大きなダンジョンなんだねえ」
「これくらい大きいダンジョンじゃないと、いいアイテムは手に入らないからねえ。それで、この地図は北を上にして描かれているから、地図を見る時コンパスで北の方角を確認する必要があるの」
「そうなんだ。北が上だなんて、ボク知らなかったよ。ありがとう、アシュリー」
ユウは微笑みながらアシュリーの手を握る。
(ちょ……なんてかわいい笑顔なの。あぁ……もうたまんない)
「それじゃあ、あとは一緒にダンジョンの中を探索しながら教えるよ。でも、その前に……」
我慢ができなくなったアシュリーは一目につかない場所までユウを連れていくと、後ろから『彼』をハグする。
「そんな笑顔見せられたら、私、我慢できないよ。落ち着くまで、しばらくこのままでいさせて」
「いいよ。でも、どうせなら、こっちの方がいいと思う」
ユウはアシュリーの手を離すと、アシュリーの方へと振り返って、彼女を正面から優しく抱きしめた。
「あぅ……優しいね、ユウは。キス……してもいい?」
アシュリーが言い終わる前に、ユウは彼女の唇に優しくキスをしてあげた。
(あぁ……ほんと最高。ユウは私のこと、ちゃんと理解してくれている。ユウとこのままずっと一緒にいたい。もっと早く出会えていたらなぁ……)
アシュリーとユウが座り込むと、ユウは後ろからアシュリーの身体を優しく抱き寄せて、彼女の頭を優しく撫でる。アシュリーはしばらくの間、至福の時間を過ごした。
「よし、それじゃあ、先に進むよ、アシュリー」
「……はい」
アシュリーはすっかりユウに従順になっている。
「……アシュリー、止まって。この先にモンスターが2体待ち伏せしているよ」
「どうしてわかるの?」
「なんとなくだけど、そんな気がするんだ」
「勘ってやつ?」
「うん、そうだね」
「素晴らしいわ。勘とか虫の知らせは第六感って言われてるの。ユウはその感覚が優れているみたいね。冒険にはとても役に立つわ。それじゃ、遠隔操作できる魔法を使ってモンスターたちをこちらへ追い出してみるね」
アシュリーは光の球を魔法で作り出すと、その魔法をユウの指定した場所まで操作した。そして、光の球を弾けさせて、周囲を攻撃する。
「グアアアアア!」
突然攻撃されたことに驚いたのか、隠れていたモンスターたちが飛び出してきた。
「やっぱり隠れていた。さすがね、ユウ」
アシュリーは炎の魔法で、モンスターを素早く処理した。
「アシュリーは魔法が得意なんだね。さすがだよ」
「一応、基本的な魔法は全部使えるわ。でも、まだまだよ。応用魔法は苦手なの」
「魔法が使えないボクからしたら、すごいことだよ」
「ありがとう。でも、魔法が使えないのに、敵の位置を正確に把握できるユウの方がよっぽどすごいよ」
「ふふ。そうなのかな? それじゃ、アシュリー、先に進もう」
「そうね。あ──」
突然、アシュリーの身体から光が溢れ出す。
「あちゃー、もう時間切れみたい。もっともっと一緒に冒険したかったなー」
「ありがとう、アシュリー。また一緒に冒険しようね」
「うん。約束だよ、ユウ」
(最初にイチャイチャしすぎたのがいけなかったかあ。でも、夢のような時間だったよ。ありがとうね、ユウ)
アシュリーの身体が光へと変わり、カードの中へと戻っていく。返事の代わりに、ユウはアシュリーのカードに口付けをした。




