第一話 スペルカードゲームへの招待状
水無月ユウの人生は、暗闇そのものだった。
幼い頃に事故で両親を亡くした『少年』は、唯一の肉親であった妹を病で失ってから、生きる気力を失っていた。
学校へもいかず、ただ無駄に時間を過ごす日々に嫌気がさした『彼』は、車が激しく行き交う通勤時間帯の国道へと飛び込んだ。
大型のトラックがクラクションを鳴らしながら、ユウの目の前に飛び込んでくる。
だが、次に彼が目を覚ました時、そこは病室でも地獄でもない、見知らぬ青空の下だった。
「ようこそ、セレスティアへ」
優しい声で語りかけてきたのは、獣耳を持つ少女だった。彼女の笑顔は温かかったが、ユウの心には何も響かなかった。
「セレスティア? 異世界に転移したのか? この世界の神はなぜボクを選んだ? ボクに生きる価値なんて無いのに──」
「この世界が、あなたを選んだの。だから、ここにはきっと、あなたが生きる理由があるわ」
獣耳の少女、ミアはなぜかユウを自分の家へと連れていき、身の回りの世話をしてくれた。
けれど、ユウにとっては、ただの延命だった。現実でも異世界でも、生きる意味などない。ただ、呼吸をして、食べ、眠るだけの存在。
そう思っていた、あの日までは。
──コン、コン。
深夜、ミアの家の玄関ドアを叩く音が響く。
ミアは気づいていないようだ。ユウがゆっくりとドアを開ける。
誰もいない──。
ただ、ドアの下に一枚の黒封筒が落ちていた。
中には、丁寧に書かれた手書きの文章と、1枚の空白のカードが入っている。
【スペルカードゲームへのご招待】
水無月ユウ様。
あなたは「プレイヤー」として選ばれました。
このゲームに参加して、最後まで勝ち残ったものには、願いを叶える権利を与えます。
あなたがすべきことはただ一つ。このゲームに勝利して、我々にその願いの強さを示すことです。
まずは、同封したブランクカードに「封印」をして、スペルカードの精製をお試しください。
このスペルカードの精製を持って、このゲームへの参加を承諾したものとします。
なお、ゲームに必要な残りのブランクカードは、最初のスペルカード精製後に支給することとします。
——スペルカードゲーム実行委員会
「願い?」
読み終えた瞬間、ユウの頭の中に何かが流れ込んでくる。スペルカードゲームのルール、カードの種類、そして、カードの入手方法である「封印」の方法などが、次々と頭の中を駆け巡った。
【封印】――つまり、このカードは、何でも閉じ込めることができる。
人でも、魔物でも、魔法でも。
条件さえ満たせば、この世界のすべてをカード化できる。
そして、封印した「モノ」を用いて戦い、勝ち残れば願いが叶う。
「叶うなら、もう一度……」
ユウは無意識にそうつぶやいた。
彼の脳裏に焼きついた「妹」の面影が、空白のカードに映り込む。
ユウは静かにそのカードを握りしめる。
そして、ユウは手紙を書くと、ミアの家を飛び出した。
「ミア、今までありがとう。ようやくボクにもやりたいことが見つかったんだ。今までのお礼は必ずするから、それまで待っていて」
その手紙を見たミアは涙を流しながら、静かにつぶやく。
「うん、待ってるからね。『お兄ちゃん』」




