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第7話 梁山泊討伐

 花娘子の暗殺事件は宮中で噂が広まり、知らぬ者は無かった。遼国の外交官には莫大な恩賞を渡し(口止め料を含む)、宋国が兄で遼国が弟と言う立場は変わらず、毎年の銀10万両、絹布20万匹を献上していたが、更に茶5万斤を追加献上する事で折り合いを付けた。遼国の使者はそれから10日ほども滞在した後、帰国して行った。


 俺が毒に倒れている間に、梁山泊は柴進を救う為に高唐州へ攻め込んだ。高廉は子飼いの配下である飛天神兵300名と高唐州の兵を率いて迎え撃った。

 しかし高廉配下の将である于直は林冲に一撃で討ち取られ、温文宝は秦明の狼牙棒で頭を叩き潰されて討ち取られた。これを見た高廉は太阿の宝剣を抜いて呪文を唱えると、梁山泊軍に向かって暴風が吹き、(ひるん)んだ所へ追風を得た弓矢の一斉射撃によって大被害を(こうむ)って林冲と秦明は退却した。高廉は妖術使いであったのだ。

 翌朝、高廉が使ったのは妖術だと軍師の呉用から聞いた宋江は、九天玄女から授かった天書の第三巻に書かれていた「風を破る法」を使って、高廉の暴風を吹き返した。

 しかし今度は高廉が妖術で黄砂を巻き上げ、猛獣や大蛇などを召喚して襲撃して来た。その猛獣や大蛇には攻撃が通じず、宋江は妖術使いでは無い為になす術が無くて、命からがら逃げた。

 その晩、高廉は梁山泊の陣へ夜襲をかけると、楊林と白勝の伏兵が左右から現れて、高廉は楊林の矢を受けて負傷して退却した。一進一退の攻防が続き、梁山泊は羅真人の元で修行している公孫勝を呼び寄せた。

 矢傷が()えた高廉は城から討って出たが、公孫勝によって(ことご)く妖術が破られた。配下のほとんどを失った高廉は、東昌と寇州に援軍を求めた。

 それを知った呉用は、梁山泊に援軍を求めた。5日後、城を包囲する梁山泊軍の後方が乱れ、逃げる姿を高廉は目撃して東昌と寇州の援軍が到着したと思い込んだ。

 しかしそれは呉用の策で、高廉は包囲される。黒雲を呼んでそれに乗って逃げようとしたが、公孫勝に妖術をまたもや破られて黒雲から落ちた所を雷横に討たれた。

 高唐州は陥落し、高廉の財産を全て奪った上で一族の者から使用人に至るまで、およそ40人の首を()ねて引き上げた。

 この事件は朝廷を震撼させた。たかが山賊が1つの州の城を陥落させ、州知事の一族を皆殺しにしたのだ。それもその相手は、太尉・高俅の従兄なのだ。


陛下(ビーシャア)陛下(ビーシャア)!どうか従兄の無念を晴らす為に、梁山泊の討伐をお許し下さい!ただの山賊が一州を()とし、我が従兄の一族を皆殺しにしたのです。陛下(ビーシャア)、奴らが更に強大となり、その矛先が都に向かえば脅威となりましょう。今のうちに芽を()むべきです!」


 高俅が泣きながら訴え、もっともな話であるので許可をしようとすると、横から花娘子が止めた。


「いけません、皇上(ホワンシィァン)。この度の経緯は、高廉の妻の弟である殷天錫が、柴進の叔父の柴皇城の屋敷と庭を無理矢理に奪おうとし、そこに客として居合わせていた李逵が激怒して殴り殺したのです。高廉は柴進を捕らえて拷問し、自白調書にサインさせて処刑しようとしました。梁山泊は、無実の柴進を救い出す為に高唐州を襲撃したのです。彼らに叛心は御座いません。その証拠に、復讐を果たすと州から引き上げたのです」


「柴進と言うと、後周の皇族の末裔であるあの柴進の事か?丹書鉄券(宋の皇帝から治外法権を認められた証書)を持っていよう。花娘子が言う事が(まこと)であるならば、高廉に非があるのは明白じゃ。だからと言って梁山泊の横暴を許す事も出来ぬ…」


 徽宗皇帝が花娘子の意見を聞いて梁山泊討伐に揺らいだので、高俅は焦って花娘子を問い詰めた。


「花娘子!何故(なにゆえ)に梁山泊の肩を持つ?もしや二心を(いだ)いて、かの山賊共と通じる間者(スパイ)であるまいか?」


 高俅に敵と通じているのでは?と疑われると、俺は徽宗皇帝に平伏して弁明した。


皇上(ホワンシィァン)、この私が梁山泊と通じているなど心外で、皇上(ホワンシィァン)を裏切るはずも御座いません。汚名を晴らすべく、梁山泊討伐の端に加えて下さいませ!」


「ならん!朕が其方(そち)を疑うはずも無い。高俅よ、梁山泊の討伐は許す!適任の将は誰が良い?」


「はい、山賊相手の討伐で功績を挙げている呼延灼を推挙致します」


「おお、知っておるぞ。呼延灼と言うと我が宋建国の功臣・呼延贊の子孫であるな?良かろう、勅命を下す!それから名馬・踢雪鳥騅(てきせつうすい)を下賜する。見事、討伐した暁には更に恩賞を与える」


「ははぁ。呼延灼に代わりお礼を申し上げます。陛下(ビーシャア)は英明なり!」


 高俅は大袈裟に拝礼をして下がった。下がる時に、俺に憎悪を込めた目で(にら)み付けて来たのを見逃さなかった。


 勅命を受けた呼延灼将軍は、副将の韓滔と彭玘を連れて直ちに梁山泊の討伐に向かった。


「大変です!官軍が攻めて参りました!!」


「慌てるな。この水寨は難攻不落だ。落ち着いて持ち場を守るのだ」


 梁山泊の軍師・呉用は、頭領達を落ち着かせて策を授けた。先ずは水寨に近付かせる前に討って出た。


 第4軍を率いる一丈青・扈三娘が、敵将と遭遇した。


「うん?ははは、女が将を気取っておるわ。ここは戦場ぞ。帰って料理でも作っておれ」


「将軍。ここは将軍が出られるまでも御座いません。(それがし)にお任せ下さい!」


 彭玘は女将軍に向かって一騎討ちを始めた。女将軍は日月の双刀を(きら)めかせた。


「そら、そら、そら、そら!」


「うっ、おおぉ…」


 彭玘は、扈三娘が繰り出す双刀の剣速を(さば)き切れずに、背を向けて逃げ出した所を套索(からめ縄)で捕らえられた。


「おお!彭玘が捕まったぞ!女と思って(あなど)り過ぎだ!!」


 呼延灼は彭玘を取り戻そうと、双鞭を取り出して扈三娘に打ち掛かった。念の為だが、双鞭とは両手に持つ鞭などでは無い。鉄で出来た警棒状の打撃武器である。

 彭玘を捕らえた手並みを見て、手加減をしたつもりは無かった。だが想像を超えて扈三娘は強く、数十合も打ち合っても勝負は付かなかった。日が暮れて退却の合図と共に呼延灼は渋々、兵を退()いた。


 翌日、鉄騎30騎を横一列に鎖で繋いだ異様な軍が現れた。これこそが、呼延灼が不敗を誇った連環馬戦法だった。

 梁山泊軍は矢を射たが、鉄の鎧を着た連環馬は矢を弾いて歩兵を踏み潰し、或いは騎馬どうし繋がれた鎖に()ぎ倒され戦場を蹂躙された。


 梁山泊軍は完膚(かんぷ)なきまで叩き潰され、水寨に立て(こも)った。鉄騎は重く水に弱い為に、立て直す時間を稼ごうとしたのだ。

 それに対して呼延灼はトドメを刺すべく、砲術使いである轟天雷・凌振を東京開封府から呼び寄せた。凌振は湖を隔てた対岸から梁山泊の水寨目掛けて大砲を撃ち込み、水寨を破壊して追い詰めた。


 これを脅威に感じた梁山泊は、水軍の頭領を囮にして凌振を誘い出して生捕りにした。宋江の説得によって寝返った凌振の砲撃で、逆に呼延灼軍に撃ち込んだ。

 呼延灼は連環馬で逆撃しようと試みたが、この時は金鎗手・徐寧が梁山泊に降っており、鉤鎌鎗法を用いられて連環馬戦法が破られた。韓滔は捕らえられ、呼延灼は名馬・踢雪鳥騅てきせつうすいのお陰で包囲網を単騎で突破した。

 しかしこのまま帰ってしまえば、面目は丸潰れである。青洲知事の慕容彦達に取り無しを頼んだ。慕容知事は朝廷に取りなす代わりに、青洲の山賊(桃花山・二龍山・白虎山)の討伐を依頼した。

 呼延灼は、梁山泊ほど手強くは無いだろうと承知した。先ず桃花山を攻めて、九紋龍・史進に棒術を教えた事もある打虎将・李忠と小覇王・周通らを蹴散らした。

 桃花山は、二龍山に救援を求めた。二龍山には花和尚・魯智深、青面獣・楊志、行者・武松ら後の梁山泊でもトップクラスの豪傑がいた。

 呼延灼は二龍山の首領の魯智深と互角に渡り合い、勝負がつかないのに業を煮やした楊志が代わって一騎討ちを始めたが、勝負が付かなかった。

 膠着状態が続く隙を突いて、白虎山の毛頭星・孔明、独火星・孔亮が青洲城を攻めた為に呼延灼は軍を退いて孔明を生け捕った。これに三山連合軍は脅威を感じて、梁山泊に援軍を求めた。

 呉用は呼延灼が再び連環馬を用いると読んで、わざと宋江、呉用、花栄は呼延灼の前に姿を見せて誘い出し、追って来た呼延灼は落とし穴に落ちて捕らえられた。

 呼延灼を説得して梁山泊に仲間入りさせた後、青洲城に攻め込んで慕容知事一家を皆殺しにして屋敷に放火して去った。


 慕容知事一家が皆殺しにされた事件もまた、朝廷を震撼させた。何故なら、慕容知事の妹が貴妃(グゥイフェイ)となっていたからだ。慕容貴妃は泣いて(ひざまず)き、徽宗皇帝に仇討ちを頼んだ。


皇上(ホワンシィァン)より(たまわ)ったご恩を返す時です。今度こそ私にお任せ下さい!」


 俺は徽宗皇帝に平伏して許しを()うた。

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